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4

時は宋。


県衙の裏庭で、男が地面に転がっていた。


その名は

宋江


義を重んじ、財を軽んじ、誰に対しても公平であり、郷里の誰からも慕われた色黒の小役人――のはずであった。


しかし今は違う。


顔が腫れていた。


袖が裂けていた。


靴が片方なかった。


そして何より。


引くほどボッコボコにされていた。



原因は単純である。


いや、単純すぎるほど単純である。


西門邸の風呂場の塀の近くを通りかかった。


それだけである。


ただそれだけであった。


しかし。


西門邸の主人は――


西門慶レイ(193cm)


であった。



「最低ですのだぁ!!」


雷鳴のような声が庭に響く⚡


宋江は顔を上げた。


そこには――


両手を胸の前で押さえながら震える巨体がいた。


「吾輩のお風呂を覗きみるとはぁあ!!」


完全に被害者の顔である。


しかも妙に恥じらっている。


「うむ!許さんのだぁ!」


そして振り下ろされる拳。


どすっ


宋江は再び地面に沈んだ。



周囲では西門家の使用人たちが並んでいた。


しかも全員やる気があった。


理由は明確である。


給料がきちんと出る。


食事がうまい。


量が多い。


冬は暖かい。


夏は涼しい。


つまり――


忠誠心が高い。


番頭が言った。


「旦那様がお怒りだ」


下男が言った。


「これは大変だ」


台所の婆が言った。


「覗きはよくない」


宋江は叫んだ。


「誤解だ!」


だが誰も聞かない。



レイは震えていた。


本当に震えていた。


「のだぁ……」


肩を抱く。


「怖かったのだぁ……」


誰も信じていない。


だが全員慰める。


潘金蓮が近づいた。


「大官人、大丈夫です」


李瓶児も言った。


「驚かれましたね」


孟玉楼も頷いた。


「恐ろしいことです」


三人とも困惑していた。


だが一応慰めていた。


夫だからである。



宋江は立ち上がろうとした。


しかし。


立ち上がれない。


なぜなら。


使用人がさらに殴ったからである。


ぼすっ


「やめろ!」


がすっ


「話を聞け!」


どすっ


「私は――」


さらに殴られた。



レイは言った。


「のだぁ……」


涙目である。


「怖かったのだぁ……」


番頭が頷く。


「さぞ怖かったでしょう」


下男が頷く。


「恐ろしい事件です」


料理人が頷く。


「塩を多めに振っておきます」


意味はない。


だが忠誠心は高い。



宋江は必死に言った。


「私はただ通りかかっただけだ!」


しかしレイは首を振った。


「嘘なのだぁ」


断言である。


「吾輩は感じたのだ」


何を感じたのかは不明である。


「明確な覗きの気配を」


存在しない概念であった。



その場にいた古参の使用人が小声で言った。


「……この人、宋江じゃないか」


別の使用人が答えた。


「梁山泊に行く前の?」


「そうだ」


三人目が言った。


「義の人だぞ」


四人目が言った。


「でも旦那様が怖がってる」


終了である。


完全終了である。



レイはさらに言った。


「のだぁ!」


指を突きつける。


「しかも!」


一呼吸置く。


「吾輩の肩より低いのだぁ!」


宋江は沈黙した。


どうしようもない事実であった。



レイは妻たちの間に隠れた。


193cmの巨体である。


隠れられていない。


だが本人は隠れているつもりだった。


「守ってほしいのだぁ……」


潘金蓮が言った。


「大官人、ご安心ください」


李瓶児が言った。


「私たちがいます」


孟玉楼が言った。


「恐れることはありません」


三人とも視線を合わせた。


(どういう状況なのこれ)


完全に一致していた。



その間にも宋江は殴られていた。


ぼすっ


どすっ


がすっ


ついに座り込んだ。


そして言った。


「……義とは」


誰も聞いていない。


「……どこへ」


さらに殴られた。



レイは満足した。


「うむ」


腕を組む。


「反省したようなのだぁ」


宋江は何も言えなかった。


反省というより


理解不能だったからである。



レイは最後に言った。


「今回は特別に許すのだっ♡」


特別でも何でもない。


すでに十分すぎるほど殴っていた。


「次からは覗かないようにするのだぁ」


宋江は地面に座ったまま頷いた。


そして思った。


(梁山泊に行こう)


歴史が


ほんの少しだけ


早まった瞬間であった。

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