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13

時は宋。


清河県、西門邸の書斎では――


異様な静寂が支配していた。


筆。


硯。


紙。


香。


そして机に向かう巨大な影。


西門慶レイ(193cm)が真剣な顔で座っていた。


番頭が廊下で止まった。


帳場係が耳を澄ました。


料理人が足音を止めた。


理由は単純である。


旦那様が静かすぎたからである。



「……うむ」


筆が動く。


さらさらさら。


止まる。


また動く。


さらさらさら。


そして。


満足そうに頷いた。



紙にはこう書かれていた。


「潘金蓮たちと破廉恥で悩ましい毎日を過ごしていた豪商で完璧超人超絶イケメンである吾輩、西門慶レイは――」


ここで止まる。


考える。


腕を組む。


天井を見る。


そして続ける。


「腹上死して」


深く頷く。


「天女に連れて行かれて悪戯されるのだぁ」


書き終えた。


満足だった。


完全に満足だった。



そのとき障子が静かに開いた。


入ってきたのは

潘金蓮

である。


「大官人?」


レイが振り向く。


「のだ?」


潘金蓮が紙を見る。


三秒。


五秒。


十秒。


沈黙。



「……これは何ですか」


レイが胸を張る。


「小説なのだぁ」


完全に誇らしげだった。



さらに奥から李瓶児が来た。


「何を書いているのですか?」


孟玉楼も来た。


「帳簿ではありませんね?」


三人とも紙を見る。


再び沈黙。



潘金蓮が言った。


「……完璧超人?」


レイが頷く。


「事実なのだぁ」


李瓶児が言った。


「超絶イケメン?」


レイが頷く。


「事実なのだぁ」


孟玉楼が言った。


「豪商?」


レイが頷く。


「事実なのだぁ」


三人とも視線を合わせた。


(全部本人目線)


完全一致だった。



潘金蓮がさらに読む。


「腹上死して……?」


止まる。


視線が上がる。


「……その予定なんですか?」


レイが腕を組む。


考える。


真剣に考える。


そして言った。


「理想なのだぁ」


最低である。



李瓶児が次を読む。


「天女に連れて行かれて……?」


止まる。


「悪戯される?」


孟玉楼が言った。


「天界でも遊ぶ予定なんですね」


レイは誇らしげだった。


「うむ」


深く頷く。


「人生設計なのだぁ」



そのとき廊下の外で番頭が倒れかけた。


帳場係が支えた。


「また始まった……」


料理人が言った。


「文学だそうだ」


誰も止めなかった。


止める勇気がなかった。



レイはさらに書き続けた。


「天女たちは吾輩の美貌に驚くのだぁ」


筆が走る。


「そして吾輩を取り合うのだぁ」


さらに走る。


「しかし吾輩は優しいので順番に相手をしてあげるのだぁ」


完全に止まらない。



潘金蓮が言った。


「誰が読むんですか」


レイが即答する。


「吾輩なのだぁ」


終了である。



李瓶児が言った。


「出版は?」


レイが首を傾げる。


「のだ?」


孟玉楼が言った。


「誰かに見せる予定は?」


レイが言った。


「見せるのだぁ」


三人が同時に聞いた。


「誰に?」


レイは笑った。


「役人なのだぁ」


番頭が廊下で崩れ落ちた。



「文学は大事なのだぁ」


レイは真剣だった。


本当に真剣だった。


「文化なのだぁ」


さらに頷く。


「教養なのだぁ」


さらに頷く。


「吾輩は文化人なのだぁ」


完全に納得していた。



潘金蓮が静かに言った。


「……続きを書くんですか」


レイが言った。


「もう考えてあるのだぁ」


三人が固まる。



「次は」


筆を持ち直す。


姿勢を正す。


そして書き始める。


「天界でも塩と布の商売を始めるのだぁ」


番頭が外で天を仰いだ。



さらに続く。


「天女たちは全員吾輩の顧客になるのだぁ」


帳場係が壁に頭をつけた。



さらに続く。


「そして天帝も円滑になるのだぁ」


料理人がしゃがみ込んだ。



レイは満足した。


筆を置く。


紙を掲げる。


そして宣言した。


「名作なのだぁ」


誰も否定しなかった。


できなかった。


なぜなら――


西門家の文学もまた


非常に


円滑だったからである。

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