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時は宋。


清河県の役所の奥座敷では――


朝から香が焚かれていた。


机には茶。


菓子。


絹の包み。


そして金の入った袋。


その前に座っているのは

西門慶

……ではなく、


西門慶レイ(193cm)


であった。


満面の笑みである



「のだぁ!」


両手を広げる。


「今日も吾輩の花は綺麗ですのだっ♡」


役人が固まる。


書吏が固まる。


門番が固まる。


だが誰も否定しない。


否定できない。


なぜなら――


机の上の包みが


重かったからである。



役人が咳払いした。


「これは……」


レイが首を傾げる。


「のだ?」


役人が包みを見る。


「……贈り物ですか」


レイは胸を張った。


「賄賂などありませんのだっ♡」


全員沈黙。


そして続けた。


「円滑油なのだっ♡」


書吏が頷いた。


「円滑ですね」


門番が頷いた。


「とても円滑です」


役人が頷いた。


「非常に円滑です」


完全に一致していた。



その日の案件は三つあった。


第一。


北方輸送の関所免除。


第二。


肉の価格統制回避。


第三。


倉庫拡張の許可。


全部通った。


理由は簡単だった。


円滑だったからである。



「のだぁ〜♡」


レイは満足そうに椅子から立ち上がった。


「今日も良い仕事をしたのだぁ」


役人が深く頷いた。


「まさにその通りです」


書吏が言った。


「模範的です」


門番が言った。


「清廉です」


誰一人信じていなかった。



役所を出る。


町人が道を開ける。


犬が逃げる。


子供が母に抱えられる。


商人が頭を下げる。


完全に日常だった。



「うむ」


レイは満足そうに歩く。


尻が揺れる。


ふり


ふり


ふり


意味はない。


だが安定していた。



途中で番頭が合流した。


「旦那様」


レイが振り向く。


「のだ?」


「北倉庫の件ですが」


レイが言う。


「通ったのだぁ」


番頭が涙ぐむ。


「さすがです」


帳場係が震える。


「物流が救われます」


料理人が喜ぶ。


「肉が増えます」


全員が幸せだった。



市場に入る。


魚屋が叫ぶ。


「西門様!」


豆腐屋が叫ぶ。


「西門様!」


布屋が叫ぶ。


「西門様!」


全員が笑顔だった。


理由は簡単だった。


借金があるからである。



レイは腕を振った。


「うむ!」


堂々としていた。


「皆、頑張るのだぁ!」


完全に支配者の態度である。



そのとき。


遠くから泣き声が聞こえた。


小さな商人だった。


「関所が……」


レイが止まる。


「のだ?」


番頭が説明する。


「別系統の輸送路です」


レイが考える。


三秒。


五秒。


そして言った。


「円滑にするのだぁ」


番頭が頷く。


「承知しました」


意味は明確だった。



西門邸に戻る。


庭は静かだった。


鯉が跳ねる。


風が通る。


妻たちが座っている。


潘金蓮が言う。


「今日はどうでした」


レイが胸を張る。


「円滑だったのだぁ」


李瓶児が頷く。


「それは良かったです」


孟玉楼が言う。


「さすが大官人です」


完全に慣れていた。



昼食が運ばれる。


蒸鶏。


焼羊。


煮魚。


点心。


酒。


果物。


机が埋まる。


レイは言った。


「のだぁ〜♡」


食べる。


もぐもぐ。


さらに食べる。


さらに飲む。


そして言う。


「清河県は平和なのだぁ」


番頭が固まる。


料理人が固まる。


下男が固まる。


誰も否定しない。



そのとき。


門の外で声がした。


「旦那様!」


使用人が走ってくる。


汗だくである。


嫌な予感しかしない。



「南倉庫の件ですが」


レイが止まる。


「……のだ?」


「別の役人が」


沈黙。


空気が止まる。


レイの眉が動く。


そして言った。


「円滑にするのだぁ」


番頭が即座に動いた。


「承知しました」



レイは満足した。


酒を飲む。


腕を組む。


そして宣言した。


「吾輩は悪いことなどしてないのだっ♡」


全員が頷いた。


番頭が頷いた。


料理人が頷いた。


下男が頷いた。


妻たちも頷いた。


そして清河県の空は――


今日も


とても


円滑だった。

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