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第二部 第二十一章 労う未来?

 悠斗は駅前に立っていた。

 手には、悠宇のテニスラケット。

(大会が近いって言ってたけど……受け取る時間もないのか?)

 悠宇は中学女子テニス部のエース候補。団体メンバーにも選ばれる実力者だ。

 本来なら、ラケットの修理受け取りは自分で来るはずだった。

 だが昨夜――

『にぃ、ラケット受け取ってきて』

 珍しく、甘えるような声で頼まれた。

 悠斗は即答で引き受けた。

 頼られたことが、少しだけ嬉しかったからだ。


「ただいま〜」

 返事はない。

 静まり返った家に、声だけが虚しく響く。

 ラケットをテーブルに置き、階段を上ろうとした、その時。

「うわっ――!」

 足を滑らせ、数段分を転げ落ちた。

「ってぇ……!」

 幸い、低い位置だった。

 足首を軽く捻った程度で済んだらしい。

「湿布、どこだっけ……」

 引き出しを探していると――

 身体が、淡く光り出した。

「……は?」

 タイミングが最悪すぎる。

「こんな時に、誰だよ――」

 視界が、白に染まる。

 …………

 …………

「あら? ユート?」

「……セレフィナか」

「これは、大変なことになりそうだね」

 ルクルの声が、いつもより真面目だ。

「ユート様がいらっしゃったということは……あそこに行く、ということですよね?」

「え?」

 嫌な予感がする。

 セレフィナは、どこか楽しげに微笑んだ。

「ユート。洞窟探検です」

「……は?」


 状況が掴めないまま、悠斗は立ち上がろうとした。

「――痛っ!」

「ユート? いつもの頭痛ですか?」

「いや、違う。こっち来る前に足首を少しな……」

 確かに頭痛はあった。

 だが、最近はそこまで酷くない。サイトの“チューニング”の腕が上がっているのか、負担は軽減されていた。

「あらあら。それは大変ですわ。ジィの湿布を持ってきて」

「はい、姫さま」

 エリオットは素早く部屋を出ていく。

(この世界にも湿布あるの、今さらだけど普通に受け入れてるな……)

「痛むのは、ここですか?」

「セレフィナ? ああ、そこ」

「では――」

 彼女の手から、淡い光が溢れた。

 優しい輝きが足首を包み込む。

 じんわりと、熱が引いていく感覚。

「……え?」

「セレフィナの癒しの魔法だよ〜」

「召喚の儀の直後なので、少ししか癒せませんけれど」

 光が消えた頃には、痛みはほとんど消えていた。

「すごい……もう痛くない」

「でも、腫れまでは完全には治せませんの」

「そこは湿布で対処だね〜」

 戻ってきたエリオットが、箱いっぱいの湿布を抱えていた。

「姫さま、持ってまいりました」

 ドン、と机に置かれる大量の湿布。

「多くない?」

 セレフィナはその中から一枚取り、そっと悠斗の足首に貼る。

「あ……」

「少し、このままでいてくださいね」

 一国の王女が、湿布を貼ってくれている。

 なんとも言えない申し訳なさが胸に湧いた。

「それで……さっき言ってた“洞窟探検”って?」

 セレフィナは少しだけ視線を逸らす。

「雷の精霊を呼びたかったのですけれど……」

「ユートが来たんだよね〜」

「雷の精霊は、裏山の麓の洞窟にいると言われております」

「洞窟……探検?」

 痛みは消えた。

 だが、胸の奥がざわつく。

 不安と――ほんの少しの高揚。

 それが、同時に芽生えていた。


 洞窟までの道は、驚くほど整備されていた。

 以前の薬草保管庫とは違い、馬車で入口まで向かえるらしい。

 セレフィナの体力でも問題ない距離だという。

 揺れる馬車の中で、悠斗は口を開いた。

「それでもさ、セレフィナは城で待ってた方がよくないか?」

「それは出来ないのです」

「雷はセレフィナにしか懐かないからね〜」

 ルクルがくるりと宙返りする。

「城には住まないけど、近くにはいるって言って、洞窟に籠ってるんだよね〜」

「洞窟は元々、魔法石の採掘場でした。今は精霊様の住処ですが」

「へぇ……じゃあ結構広いのか?」

「洞窟自体は広いですが、ジリクのいる場所は決まっていますわ。すぐですよ」

「ジリク?」

「雷の精霊の名前だよ〜」

 そんな話をしているうちに、馬車は止まった。

 目の前にあったのは、自然洞窟というより――炭鉱のように整備された入口だった。

「あれ? 灯りがついてる?」

「ジリクが雷を流して発光させているのです」

「(発電機扱いかよ……?)」

「セレフィナが来たって、気づいたみたいだね〜」

「この灯りを辿れば、精霊様に会えます」

「行きましょう」

 四人は洞窟へ足を踏み入れた。

 足首は問題ない。

 癒しの魔法と湿布のおかげで、違和感すらない。

 洞窟内も想像以上に歩きやすかった。

「これなら、すぐ会えそう――」

 振り返る。

 ――そこに、セレフィナの姿はなかった。

「……は?」

「セレフィナ!?」

「姫さま!!」

「体力ないなぁ、セレフィナは」

 ルクルは呑気に笑い、来た道を引き返す。

 悠斗とエリオットも、慌てて後を追った。


「セレフィナ!?」

「あ、ユート。ごめんなさい……付いていけなくて」

 少し離れた場所で、セレフィナが息を切らしていた。

「姫さま! 申し訳ありません!!」

 エリオットはなぜか全力で土下座しかけている。

「セレフィナ〜、運動不足だね〜」

「ルクルのイジワル……」

(これじゃ、先に進めない)

 悠斗は洞窟の奥へと視線を向けた。

 雷の精霊の力を借りたいほどの事情がある。悠長にしている時間はない。

 悠斗は、セレフィナの前にしゃがみ込んだ。

「……え?」

「セレフィナ。俺がおぶっていく」

 一瞬、目を丸くする。

 そして――ほんのり頬を染めながら、静かに頷いた。

「……お願いします」

「ヒューヒュー」

「姫さま、嬉しそうです」

 セレフィナの腕が、悠斗の首に回る。

「しっかり掴まってろよ!」

「はい!」

 走り出す。

 足首の痛みはない。

 だが腫れはまだ残っているはずだ。

 それでも、不思議と力が湧く。

 まるで身体の奥の“ナノマシン”が呼応するように。

「この灯りの先に、ジリクがいるんだな?」

「はい……もうすぐです」

 洞窟の奥が、先ほどよりも強く輝いている。

 魔力を感じられない悠斗ですら、そこに“何か”がいると分かった。

「――そこか!!」

 光の中心。

 小さな存在が、空中でバチバチと電気を放っていた。

「セレフィナ!! 待ちくたびれたぞ!」

「ジリク。お待たせしました」

「城に住めばいいのに〜」

「人間が多すぎるからイヤだ!」

「はぁ……はぁ……早い……」

 鎧を鳴らしながらエリオットがようやく追いつく。

 悠斗は小さく息を整えた。

「よし。城に戻ろう」

「展開も早い〜〜〜!!」

 エリオットの叫びが、洞窟に響いた。


 来た道を駆け戻り、洞窟の入口へ。

 馬車が見えた瞬間――

「……っ」

 悠斗の足に、じわりと痛みが戻った。

「ハァ……ハァ……もう大丈夫だな、セレフィナ」

「はい。ありがとうございます」

 ゆっくりとセレフィナを下ろす。

 どこか名残惜しそうな視線を向けられたが――

 ガシャガシャと鎧を鳴らしながら現れたエリオットに、空気が切り替わる。

「エリオット、ご苦労さまです」

「はぁ……はぁ……光栄、であります……!」

「エリオットも騎士なら鍛錬しないとね〜」

 ルクルが笑う。

 全員が馬車に乗り込み、城へと帰還した。

 ――――

 城に戻ると、王子レオネルが慌ただしく準備をしていた。

「セレフィナ。それにユートか!?」

「レオネル様?」

「お兄様、いつ征かれるのですか?」

「明日には出発だ。今回はこれまでで一番激しい戦になるだろうな」

「お兄様にご武運を」

「……じゃあ、間に合ったんだな? セレフィナ」

「何のことだ?」

「何のことですの?」

 二人同時に首を傾げた。

「え? ジリクを戦に連れて行くんじゃ――」

「違いますわ、ユート」

 そこへ、大臣エルジーが慌てた様子で現れる。

「ひ、姫さま……わ、儂の……儂の……」

「?」

「湿布を知りませぬか!?」

「あ……」

 召喚の儀に運ばれた湿布一箱は、エルジーの部屋に戻していた。

「ジィ。こちらへ」

「はっ、姫さま」

「……何が始まるんだ?」

「ジリク、お願い」

「はいよ」

 バチッ――!

 雷がエルジーに放たれる。

「ぬおおおおっ!?」

 身体が震え、次の瞬間。

「……やはり効くのぅ」

「電気治療かよ!!」

 どうやら肩こり改善らしい。

 セレフィナは満足そうに頷いた。

 悠斗は思う。

(……魔力の枯渇って、こいつらが原因じゃないのか?)

 妙に納得してしまうのだった。


「レオネル様。戦は……厳しいのですか?」

「激しくはなるだろうな。だが我が軍も強い。問題はない」

 王子は余裕の笑みを浮かべる。

「それに――」

「式が近いのですよね、お兄様」

「式?」

「父上がうるさくてな。結婚式を挙げるのだ。それまでには戻る予定だ」

(どデカい死亡フラグ立ったよな、今……?)

「楽しみですわ」

 和やかな空気。

 その最中――悠斗の身体が淡く光り出す。

「……セレフィナ、帰る時間だ」

「ユート。ありがとう」

「あぁ。またな」

 光に包まれ、視界が白に染まる。

 ――――

 次の瞬間。

 悠斗は湿布を探していた。

「……また少し痛み出したか?」

 足首を押さえ、引き出しを探る。

 その時、玄関が開く音がした。

「ただいま〜」

「悠宇、おかえり」

 悠宇はテーブルのラケットを見つける。

「にぃ、ありがとね」

「あぁ」

「……って何してるの? 足、捻挫したの?」

「そこまでじゃない。念のため湿布貼ろうと思ってな」

「あー、それならここ」

 慣れた手つきで取り出す。

「私はよく使うからね〜」

「サンキュー」

「にぃは座ってて」

「え?」

「……はいっ」

 悠宇はしゃがみ込み、丁寧に湿布を貼る。

 その仕草が――

 一瞬、セレフィナと重なった。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 その何気ない労いが、胸にじんわりと広がる。

 異世界と現代。

 どちらにも、自分の居場所があるのだと――

 そう、実感していた。

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