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第一部 第十三章 アイツと邂逅?(一)

 深い、深い眠りに落ちた。

 久しぶりに全力で体を動かしたからなのか、それとも――。

 ……。

 ……。

 ……。

 ――いつもの夢だ。

 光の中に、誰かがいる。

 白く、眩しく、輪郭だけが存在する世界。

 そこに立つ人影が、静かにこちらを見下ろしていた。

 声は聞こえない。

 そう、いつもの夢ならば。

「…………こい」

「……?」

「こっち……こい」

「なに?」

「こっちの世界に来い」

「……呼んで、いる?」

「こっちの世界に来い!! 悠斗!!」

「……おっさんの声?」

 思わず、そう呟く。

「知り合いに、おっさんの召喚士なんか、いねーよ……」

「おっさんではない」

 即座に、否定。

 だが。

『オッサンダロ』

「即ツッコミ!?」

 夢の中で、会話が成立している。

「……夢の中で会話してるって、俺もそろそろヤバいな」

「待っているぞ。悠斗」

 その声は、妙に現実味を帯びていた。

 白く眩しい光が、ゆっくりと闇に侵食されていく。

 境界が曖昧になり、意識が沈んでいく。

 ――深く、深く。

 そして。

「お姉ちゃん!?」

「……?」

「……違う……」

 おっさんじゃない声。女の子?

 今度は、はっきりと“近い”。

「……」

 瞼が重い。

 意識はあるのに、視界が定まらない。

 少女の声がした方向へ、必死に焦点を合わせる。

「この子……なぜお姉ちゃんのポータルに反応しているの?」

「……そこに、いるのは……誰?」

 声に聞き覚えがあった。

 だが、いつ聞いたのか思い出せない。

 それなのに――。

(……懐かしい)

 胸の奥が、妙に落ち着く。

 まるで、ずっと前から知っていた声のようだった。

 やがて、視界が徐々にクリアになる。

 そこには――

 一人の女性と。

 そして。

 大きな蜂のようなロボットが、宙に浮かびながらこちらを見下ろしていた。

「……目、開いた?」

 女性は、少し安心したように、少し困ったように笑う。

 ズレた眼鏡が表情を分かりにくくしていた。

 落ち着きがなく、居心地が悪そうに立っている。

 蜂型ロボットが、ぶぅん、と小さく羽音を立てた。

『意識回復を確認。生体反応、安定』

「……蜂型の、ロボット……?」

 悠斗は、ゆっくりと首を動かす。

(ここも……異世界、か?)


 悠斗はそう思いながら、ゆっくりと身体を起こした。

「ここは、どこだ?」

 状況を確認するように問いかけると、すぐ近くにいた女性が答えた。

「ここは私の家よ。私はレナ。こっちの蜂は、AIロボのビー」

 レナと名乗った女性は、悠斗より年上に見える。だが、どこか幼さの残る雰囲気もあった。

 白衣のようなものを羽織ってはいるが、その下は上下スウェットのような部屋着。どうやら白衣は慌てて着たらしく、全体的に少し乱れている。長くて綺麗だろう黒髪も、寝癖が隠しきれていない。

「俺は……悠斗。佐藤悠斗だ。俺は……」

「佐藤……悠斗?」

 レナが、まるで初めて聞く言葉のように反芻した。

「佐藤、と、悠斗……二つの名前」

「二つの? あぁ、苗字と名前、だけど?」

「それ!!」

 レナは勢いよく指を鳴らす。

「エリ! ちょっと来て!」

 少しして、部屋の扉が静かに開いた。

 そこに立っていたのは、冷たい印象を受ける女性――しかし、どこか不自然なほど整った表情だった。

「レナ、呼びましたか?」

(声は人間っぽいけど……人工音声?)

「悠斗、紹介するね。こちらはAIメイドロボのエリスティア。エリでいいわ」

「それは私が言う言葉です、レナ」

「……メイド、ロボ?」

 メイド文化が存在していることに、素直に驚いた。

 だが同時に、悠斗の中では一つの仮説が形を成し始めていた。

(やっぱり……世界は、全部繋がってる)

 確信には至らない。ただ、そう考えた方が辻褄が合う。

「その……名前のことなんだけど」

「それね。エリ、過去のデータを調べて。苗字と名前を使っていた時代について」

「はい」

 短い沈黙が流れる。

「正式な記録は存在しません。ただし、今よりも遥か昔――地球の日本で『平民苗字許可令』が公布されたことが始まりだとされています」

「やっぱり、地球の文化ね」

「ただし、数千万年前のデータのため、諸説あります。あとは王族、ですね。」

「そんな細かいことはどうでもいいの」

 レナは悠斗を真っ直ぐに見つめた。

「ここに、苗字と名前を名乗る少年がいる。そして、その文化は大昔の地球に存在した。つまり――」

 言葉が、突き刺さる。

「悠斗は、大昔から来たタイムトラベラーってことよ」

「……!」

 衝撃が走る。

 だが、悠斗は必死に思考をまとめた。

(いや、まだだ。結論を急ぐな)

(この世界と、俺がいた世界が“繋がった”だけかもしれない)

 そう、自分に言い聞かせるように、悠斗は静かに息を整えた。


「ビー、甘い飲み物をお願い」

「ハイ」

 短く応答すると、蜂型ロボットのビーが滑らかに動いた。

 次の瞬間、悠斗の前に置かれたのは、湯気の立つココアのような飲み物だった。

「ありがとう」

 両手で包み込み、ゆっくりと口に含む。

 甘さが喉を通り、冷えた身体の奥へと染み渡っていく。張り詰めていた神経が、少しだけ緩んだ気がした。

「……落ち着いた?」

「……はい」

 悠斗が頷いたのを見て、レナは真剣な表情に切り替えた。

「単刀直入に聞くけど。どうして、あなたが姉さんのポータルから現れたの?」

「姉さん? ポータル?」

 レナは答える代わりに、机の上へ一本の機械を置いた。

 杭のような形状をした、細長い棒状の装置だった。

「悠斗。あなた、姉さんを知っているの?」

「待って! 姉さんって、レナの姉さんのこと? 俺、この世界は初めてだ。何も分からない」

「……そんなわけ、ないじゃない」

 レナの声が、わずかに震える。

「姉さんのポータルに、姉さん以外の人が来るなんて……」

「そもそも、ポータルって何なんだ?」

「あなた……ポータルを知らずに、タイムトラベルをしているの?」

「してるつもりは、なかった」

 その答えに、レナは深く息を吐いた。

「タイムトラベルはね、違反行為なの。歴史改竄の危険があるから」

 そう言いながら、レナはポータルを手に取る。

「そしてもう一つの理由――ポータルがなければ元の世界に戻れないから。ポータルには、必ず“戻るべき座標”と“時間軸”が設定されている」

「座標……時間軸?」

「悠斗。あなた、自分の世界に戻るとしたら、いつに戻ればいいか分かる?」

「いつ……?」

「あなたの世界での時間表現は何だったかしら。エリ、教えて」

「西暦です」

「そうだったわね。西暦、何年から来たの?」

「2026年」

「何月何日?」

「8月……2日。多分」

「何時何分?」

「……分からない。寝てたから」

 レナの視線が、鋭くなる。

「ダメよ、それじゃ」

「え……?」

「あなたがこちらに来た“その瞬間”に戻らなければ、元の世界には帰れない」

 静かな声だったが、内容は残酷だった。

「一分一秒でも違えば、それは“似ているだけの別の世界”。最悪の場合――」

 レナは言葉を区切る。

「悠斗という人間が、二人存在することになる」

「……」

 悠斗は言葉を失った。

 甘い飲み物の温もりは、もう感じられなかった。


 ――時間は、少しだけ遡る。

 薄暗い部屋に、いくつものホログラムモニターが浮かんでいた。

 その中央で、サイトは腕を組み、映し出された座標データを睨んでいる。

「……なに?この座標」

 指先でデータを拡大する。

「ローヴァンさんの家、だと?」

「アノオヤジカ。デモ、ユクエフメイ、ダロ」

 機械音混じりの声が返ってくる。

「……そうだな」

 サイトは顎に手を当てた。

「今は、三人で暮らしているのか?」

「メイボダト、フタリ、シカ、スンデナイゼ」

「二人?」

「セリナ、ト、レナ、ダナ」

「セリナさんと、レナ……?」

 思わず眉が寄る。

「……ミラは?」

 わずかな沈黙の後、無機質な返答が返ってきた。

「オレタチ、ミンカンノデータベースデハ、シラベラレナイ」

「……そうか」

 サイトは視線をモニターから外し、静かに息を吐いた。

「今は、詮索している場合じゃないな」

 そう呟くと、端末を切り、上着を手に取る。

「……悠斗に、会いに行くのが先だ」

 扉を開け、外へ出る。

 久しぶりの外気だった。常に薄曇りの空は、なぜか妙に眩しく感じられる。

 この世界では、歩く必要などほとんどない。

 空間転移、浮遊車両、即時移動。手段はいくらでもある。

 それでも、サイトは徒歩を選んだ。

「……機械に頼りすぎた結果が、あれだ」

 過去の失敗が、脳裏をよぎる。

 だからこそ、今は自分の足で向かう。

 しばらく歩き、見慣れた建物の前で立ち止まった。

「……ローヴァンさんの家。相変わらず、だな」

 サイトは懐からIDを取り出し、静かにかざした。

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