第一部 第十一章 コンボでフルボッコ?(二)
悠斗の提案を、ユイは一から組み直すように整理し始めた。
「ニャル。どー思うよ?」
「完璧だと思うけど」
ニャルは尻尾を揺らしながら即答する。
「多分、捕まったメンバーは能力無効化の部屋に閉じ込められてる。でもね、ユイのテレポートなら行けるよ」
「飛んだ先で能力が封じられても、武装してれば脱出は可能。脱出した瞬間に暴れれば……」
ニャルは楽しそうに笑った。
「エリアCは終わりだね」
「説明なげーよ!!」
ゴウが頭をかきながら叫ぶ。
「つまり、だ」
ユイが腕を組み、ニヤリと笑う。
「エリアC、フルボッコってことだな?」
「ニャ」
「よし!」
ユイは声を張り上げた。
「戦闘員、全員集結!! エリアCを潰すぞ!!」
「おぅ!!」
グラウンドに、次々と人が集まってくる。能力者たちの目は、全員が同じ方向を向いていた。
「準備はいいか!?」
ユイが叫ぶ。
「あっちに飛んだら、即戦闘だ!! 覚悟しろよ!!」
「おぅ!! やってやるぜ!!」
ゴウが一歩前に出た、その瞬間。
「ゴウ」
「あ?」
「お前は雑魚だから、飛ばさねーよ」
「お、おぅ……」
「愛されてるなぁ、ゴウ。ヒューヒュー」
「うるせーよ!!」
そんなやり取りを横目に、悠斗は小さく息を吐いた。
(……この三人、見てて飽きないな)
「――いくぞ!!」
ユイが手を掲げる。
「みんな飛ばすぜ!! 行ってこーい!!」
瞬間。
グラウンドにいた戦闘員たちが、音もなく消えた。
まるで、最初から誰もいなかったかのように。
「……すげぇ」
悠斗は思わず呟いた。
テレポート。その圧倒的な力を、改めて実感する。
「っつ――!!」
ユイが頭を押さえ、膝をつく。
「ユイ!?」
「これだけがユイの弱点だよねー」
ニャルが肩をすくめる。
「許容量を超えると、頭痛、目眩、耳鳴り。フルコース」
「……今回のは、今までで一番だな」
ユイは苦笑いを浮かべた。
「大丈夫か?」
悠斗が声をかける。
「へーき……とは言えねーけどな」
その症状を聞いた瞬間、悠斗の胸がざわついた。
(……同じだ)
頭痛、目眩、耳鳴り。
召喚される直前、いつも自分を襲う感覚。
悠斗は、無意識のうちに拳を握りしめていた。
――この世界。
――この力。
そして、ユイ。
偶然で片付けるには、あまりにも似すぎている。
(……何だろう、この胸騒ぎは?)
ユイのテレポートによる「内部からフルボッコ作戦」は、これ以上ないほど綺麗にハマった。
エリアCは完全制圧。
拉致されていたメンバーも、潜入していたメンバーも、戦闘員も――全員が無事に戻ってきていた。
「……よし。全員、生きてるな」
ユイは安堵したように息を吐き、ちらりと悠斗を見る。
「悠斗のおかげで、全員無事に帰ってきた。サンキューな」
ぶっきらぼうだが、どこか照れた声だった。
「良かったな、ユイ」
悠斗がそう返すと、ユイは一瞬だけ目を逸らす。
「なあ、悠斗」
「ん?」
「さっきから、ニャルのこと気にしてただろ?」
「え?」
「アイツ、テレパシーで心読むからさ。悠斗が妙にソワソワしてたの、ぜってー気付いてたぞ」
「テ、テレパシー?」
思わず声が裏返る。
「そうだよ〜」
ニャルは尻尾を揺らし、楽しそうに続けた。
「悠斗がさ、召喚された時に見た(クマちゃん)忘れてないの、内緒にしとくね〜」
「ば、ばか! 忘れたよ!」
即答だった。
だが、その反応が逆にまずかった。
「……悠斗」
ユイの声が、ワントーン下がる。
「どういうことだ?」
「だ、だから! 召喚された時のことは忘れたってこと!!」
「だ・か・ら」
一語一語、区切るようにユイは言った。
「私との出会いを“忘れた”って、どういうことかって聞いてるんだよ!!」
「ご、誤解だ〜!!」
ユイは召喚時のあのことを忘れているようだった。
気を取り直すように、ユイは話題を切り替える。
「……でだ。ゴウの能力の話な」
「俺ッスか!?」
ゴウが勢いよく前に出る。
「俺は念力使い! 最強!!」
「お前、自分の筋力で持てる重さの一・二倍しか動かせねーだろ」
「そ、そんなこと、ねぇッスよ!!」
「ゴリの生身の方が強ぇだろ」
ユイが顎で示した先。
少し離れた場所で、屈強な男が重そうな資材を軽々と担いでいた。
「……ゴリ」
悠斗は思わず納得する。
「ほらな?」
「ぐぬぬ……」
ゴウが悔しそうに唸る横で、ニャルが肩をすくめた。
「でもゴウ。ユイの隣にいるってのも立派な役割だよ」
「フォローになってるッスか、それ……」
そんな騒がしいやり取りを眺めながら、悠斗はふと胸の奥に残る感覚に気付く。
(ユイの頭痛……)
(さっきの、テレポートの反動)
あれは――自分が召喚される時の症状と、よく似ていた。
偶然にしては、出来すぎている。
「エリアCのメンバーは、どうなったの?」
悠斗の問いに、ユイは肩をすくめて答えた。
「半分以上は、私のメンバーに入ったよ。ニャルのお墨付きだ」
「フルボッコの恐怖で、裏切る気も起きなさそうだね〜」
ニャルが、くすくすと楽しそうに笑う。
「……」
悠斗は何も言わなかったが、納得はしていた。 あの戦いを見て、逆らおうと思う方が無謀だ。
「ユイさん」
そこで、ゴウが遠慮がちに手を挙げた。
「俺にも、舎弟とか付けてくれませんか?」
「はぁ?」
ユイは、面倒くさそうにゴウを睨む。
「誰が雑魚の舎弟になりたがるんだよ。お前は私の舎弟で十分だ」
「お、おぅ……」
しょんぼりと肩を落とすゴウ。
「愛されてるね〜、ゴウ」
ニャルの追い打ちに、ゴウは何も返せなかった。
「それよりだ」
ユイは、ふっと悠斗を見る。
「悠斗。お前、コーメーみたいだな。スゲェぜ」
「……コーメー?」
首を傾げる悠斗に、ユイは呆れたように言う。
「知らねーのかよ。名軍師のコーメーだ。なぁ、ゴウ」
「はい。名軍師コーメーです。ユイさん」
「コーメーって……」
悠斗は記憶を探り、恐る恐る口にした。
「三國志の、諸葛孔明?」
「あ? 知らねーよ。なぁ、ゴウ」
「はい。知らねーです。ユイさん」
「……」
悠斗が言葉を失っていると、ニャルが満足そうに頷いた。
「正解だニャ、悠斗」
「ニャル……」
(ニャルが肯定したってことは……コーメーと諸葛孔明は同じ?歴史上の人物が?同じ……歴史?
それって、現代とこの世界が――)
(それも、正解だニャ。悠斗)
その瞬間だった。
悠斗の身体が、淡い光に包まれ始める。
「あ……」
自分でも慣れた感覚だった。 だが、今回は少しだけ、名残惜しい。
「ユイ。帰る時間になったみたいだ」
「マジみたいだな」
ユイは、静かにそう返す。
光は次第に強くなり――。
次の瞬間。
悠斗の姿は、跡形もなく消えていた。
ベッドに横たわる悠斗のもとへ、結月が慌てて駆け寄った。
「ゆーくん? 大丈夫?」
「結月……」
視界に映った幼なじみの顔に、悠斗は一瞬だけ安堵する。
「そっか。部屋で一緒にゲームしてたっけ……っつ!!」
次の瞬間、頭を締め付けるような痛みが走った。
頭痛、目眩、耳鳴り。
何度も経験してきた、いつもの症状――のはずだった。
(……同じはずなのに、強く感じるな)
(ユイも……同じ痛みを……?)
「ちょっと!? 本当に大丈夫?」
結月の声が、少し震えている。
「もう大丈夫。いつもの事だから」
「“いつもの”って……」
結月は一瞬ためらい、それから意を決したように言った。
「……まさか、召喚?」
「そう。召喚だよ」
悠斗は、ゆっくりと身体を起こしながら頷いた。
「いつも光るんだ。それで、すぐ戻る。結月からしたら……俺が光って、すぐに光が消えただけだろ?」
「……そうだけど……」
結月は納得しきれない表情のまま、言葉を飲み込んだ。
悠斗は、息を整えてから話し始める。
隠し事はしたくなかった。まして今回は、結月の目の前で起きたことだ。
召喚のこと。
別の世界のこと。
能力のある人間たちのこと。
丁寧に、できるだけ分かりやすく説明した。
「……そんなことが」
結月は、しばらく黙り込んでいたが、やがて小さく息を吐いた。
「無茶、しないでよ」
「なるべく、な」
悠斗は苦笑する。
「……しゃべり疲れたな。格ゲー、再戦するか?」
「分かった。やろう」
コントローラーを手に取る結月の表情は、いつものそれだった。
「よーし、ハメ技解禁だぁ!!」
「よーし、ハメるぞ!!」
「結月はハメ技禁止だぁ〜!!」
騒がしい声が部屋に戻る。
だが、悠斗の胸の奥には、消えない違和感が残っていた。
あの世界と、この世界。
そして――ユイの痛み。
それらが、確かにどこかで繋がっていると、身体が訴えていた。




