第96話 意気地なしとは思わない
リーナは少し、不満を抱えていた。
恋人になったクルスのことだが、仕事とかはきちんとこなしていても、せっかく関係が変わったと言うのに『手出し』してこないのが不満で仕方ない。
リーナは王城の巫女姫だったために、物語のような恋愛を知るだけ……とまで、何も知らないわけではない。それなりの情操教育も受けていたが実行していないだけだ。神に捧げる聖女のような扱いだったため、男を受け入れる仕組みくらいは絵姿で学んだ……だけである。
クルスは城の兵士だったし、女を知らない様子ではなかった。つまり、娼館などで女を買ってはいたのだろう。そこに今更嫉妬しても仕方がないが、てっきり、その日のうちに抱かれると思っていたのに……全然違ったのだ。
リーナからキスはしたものの、それ以上に深いものをしてこなかった。強く抱きしめたりはしてくれたが、それだけ。
それから何日か経っているが、キスもハグもリーナが仕掛けないと応えてくれない。奥手だとは思っていたが、そこまで慎重になる相手が自分なのは嬉しかった。とはいえ、さっさと手を出してほしい欲求不満くらいはリーナにもあったが。
「魅力、ないのかなあ?」
『……ワタシ、に聞かれてモ』
クルスが畑の作業をしている間。相談相手はサナしかいないので、果実を持って来てくれたタイミングで捕まえたのだ。ひと通り話したが、たしかにゴーレムのサナには意思はあっても人間と構造が真逆なくらいに違うので欲求不満とやらがないのかもしれない。
つい、人間らしく行動しているのでなんでも話してしまったが。
「あの緩んだ表情がキリっとなるのがかっこいいんだよね~? 緊張しているのはわかるけど……もっと、がっついていいのに」
『ゴーレムのワタシが言うのもなんですが。もう少し、言葉をオサエテください』
「……変なこと言った?」
『レディらしからぬ……デスかね』
「だってぇ。もっと、いちゃいちゃしたい~」
『……ハァ』
「……とりあえず。聞いてくれて、ありがと。仕事しなくちゃだね?」
こんな会話をしつつも、夕飯の支度をするリーナは自分でもそれなりに働き者だと思っている。クルスやサナはそれ以上に働き者ではあるが、いちゃいちゃは横に置いとくにしてももう少し仕事を増やすべきかもちゃんと考えてはいた。
ただ、ここ最近、連絡版からの指示が特に来ない。質問をしてみても、返答が全然されないのだ。
『連絡版……指示、ナニモナイデスね』
「……ここだけの話。うちらの管理者って、『神』だよね?」
『……ワタシの方も気づいてイタんですか』
「ハルおにーちゃんに聞いたわけじゃないよ? なんとなく」
『……じゃあ。『ナツ』として話し合いましょうか?』
「え? ナツ……って、お姉ちゃん??」
『そうよ』
いきなりの口調の変化に、ゴーレムの身体でも『別人』のビジョンが見えた気がした。クルスは来ないのかと思ったが、『ナツ神』と名乗りなおしたサナはくすくすと笑い出している。
「……お兄ちゃんに会わない、の?」
一番気になったのはそこだが、ナツ神は首をゆっくりと左右に動かした。
『今かち合ったら、あなたたちの『本来の管理者』たちが危険な状況なのに……二度と会えなくなる。それを解決しないと、私もハルと生活できないわ』
「本来の……管理者?? ! アイバが??」
『そう。クルスの方もそれに該当する人間がいるの。彼は別の世界線を守るのに、肉体を眠りにつかせた。だから、連絡版って指示が来ないのもそのせい』
「……しばらく、クーちゃんには誤魔化しておくしかないの?」
『その方がいいわ。こちらが関与する『仕事』は……あなたたちが宝物の種を植えたあとで、実はひと段落しているの。ここまできたのは、アイバたちの協力もあってのお陰ね?』
「そっか……」
あの洪水のように見えた金貨の幻影も、敷地の合体なども別の『リーナ』が動かした結果なのなら……その自分を邪魔するようなことはしないでおこう。むしろ、今手助けしていいのかもわからない。
となると、余計にクルスとの進展を頑張った方がいいのではとナツ神に聞いてみても『意気地なしではないからいいのでは?』と返されたので、頷くしか出来なかった。
次回はまた明日〜




