第162話 切り離されたものの
美晴との異次元で過ごすはずだった、『遊泳デート』は突然終わりを迎えた。
気が付いたら、夏奈は意識を取り戻していて現実側では呼吸困難なくらいに胸部を上下させていたのだ。
看護師などは特にいなく、医師もいない。
外から入ってくる明かりの加減からして、まだ夜明け前か。特に異常事態からの解放はされていないために、夏奈の症状次第では誰かがここに来ることはないだろう。
(……あ~……びっくりした。夢の中で『デートしてる』って感覚、本気でリアルと変わらなかった)
まだ呼吸が安定しないので、胸を何度も上下させながら深呼吸をしてみる。学生時代の体育程度の全速力測定よりもはるかに体力を使ったのかで、なかなか呼吸が落ち着かないが徐々に楽にはなってきた。
目で周囲を窺っても、設備などは変わらずそのまま。点滴器具を外された以外に、拘束器具もない素のベッドで寝ているだけだったみたいだ。これなら、下手に喚かなければ夏奈は順調に退院出来るだろう。
だが、外の障害が多過ぎるし、事故物件にした家に帰ってもなにも出来ない。保証人らしい、叔母とのやり取りをなんとかしないとこの病院からも出れないはず。
(けど。無賃ではないのよね? ……スマホ、スマホ)
たしか、昨夜は充電のために返却していないような気がしたが簡易テーブルを見ても、たしかにそのまま放置されていた。寝る前の薬を飲むときに、看護師によっては持ち出したりしない感じなので昨夜はそのままだったのだろう。
呼吸が粗方整ってから、ゆっくりと起き上がり。スマホを手に取ると、SNS経由で見たことのないIDからメッセージが届いていた。
『美晴や。身体に支障ないか?』
これだけだが、間接的に出会うことの出来た『彼氏』との連絡手段がこれで可能になったとわかると、しんどさよりも嬉しさが込みあがってきた。送信時間からして、多分起きているだろうと返事をしたらまたすぐにメッセージが送られてくる。
『ちょっとびっくりしたけど、大丈夫。美晴は?』
『似たようなもんや。そっち、病院やんな?』
『なんで知っているの?』
『俺らんとこのボスが、そこに匿うように仕組んでくれてん』
『「へ?」』
『加東奈月』が関わっていることはなんとなくだけど、知ることは出来たのだが。この病院に夏奈を入院させたのは彼の仕業だと言うのだろうか。しかし、保証人は唯一の身内らしい叔母なのは変わりないので、そこも仕組んだうちなのか。
精神疾患はいくらかあるようにしていたのは別だとしても、保護施設としてあの自宅以外の場所に救急搬送させたのを誘導したというのなら。美晴とかの上司とはいえ、とんでもない策士ではないかと勘繰ってしまうけれど、実際はこの災害を含めた事象を『依頼』された創作集団のボスでしかないという。
そんなSF的なファンタジーみたいな現象があってなんぼだというのが今の『リアル』だ。なら、美晴との接触が夢を介して『異次元空間』を利用できたのもその能力があってこそだろう。
『とりあえず。無事ならよかったわ。俺の妹が起こす役割引き受けたらしいんやけど』
『……藍葉ちゃんが?』
『奈月に依頼されたらしい。つか、ポイ活のアプリかメール見てみ? そっちにも依頼文来とるはずや』
そこで一旦メッセージが止まったので、ポイ活アプリの方を見てみれば……尋常じゃない、チェックインポイントの砂嵐が映っていた。地図に面して、チェックポイントが光っては消えていき、さらに次のチェックポイントが動くなどと電車でも動いているくらいの速さだ。
「……これ、藍葉ちゃんが? 奈月さんを探して……」
外の極寒はともかく、交通網を再開させるかのような入り乱れた整備をしているようにも見えた。業者の車が動くようなことを看護師の会話から、昨夜聞こえてきた気がしたので物資とかはきちんと避難場所に運搬されているのか。
であれば、夏奈も協力しないわけにはいかない。まだ朝食まで時間があるし、呼吸なども回復した今であれば『モニター』として、運営との連携を取るのに絶好の機会だと美晴にも協力する旨をメッセージで伝えた。
「あたしより先に、見つけて」
今回の功労者は、どうしたって藍葉たち以外にいないのだから。夏奈は病院に居るしか出来ないので、必要最低限のポイ活でサポートするしか出来ない。
未来の義妹とリアルで会えるように、美晴と連係プレイをここから始めることになったのが……あとあと、役に立って保険の保証人になるのだとはこのとき予想もしなかったが。
次回はまた明日〜




