第109話 到着した
そこから何時間かかったか、感覚的に半日ほどかけたかもしれない。
空の曇り模様は相変わらずそのままで、スマホを見ないと何時何分なのかわからなかった。だけど、到着出来たのだ。成樹のマンションに。
以前合鍵として渡されていたシリンダーキーをセキュリティに通してみたが、まだそこは凍結されていないのかでエントランスのドアは開いた。中が温かいかと言えば、歩いてきた藍葉としてはほんの少し和らいだ程度のそれでしかない。
しかし、成樹の部屋でならもう少し温まれるだろうとエレベーターに乗っていく。部屋番号を間違えないようにして、ゆっくり鍵で中を開けようとしたのだが。
既に開いていた。
「シゲくん!? お兄ちゃん!!」
中に彼らが居るかもしれないという期待を込め、呼んではみたが返答はなし。杖を離しはしなかったが、冷たい部屋の中は誰かが土足で踏み荒らしたような跡があったのでクロードの証言はそのままだったと納得。
ここに、『クロニクル=バースト』関係者はいない。
藍葉は末端の末端だったので、関係がない。クロードは待機場所が違うからそのままだったのだろう。
とりあえず、連絡を待っているであろうクロードに通話してみたところ、すぐに出てくれた。
『……やっぱ。連中は熊谷らの無事を確保したかったんやろ』
「……機材は壊されてないよ。そのまま」
『よっしゃ。ヘッドセットも持ってかれているようなら……ポイ活の方の維持はなんとかしとかんとな?』
「お兄ちゃんのように、出来るかな?」
『小鳥遊兄のようには考えんでええ。さっきも手順教えたら、VRの方覗けたやろ? その感じで教えたるから』
「うん……」
焦りは禁物とはいうものの。今の藍葉には成樹らが本当にいないことについて、いくらか気持ちが堪えてしまっていた。
いるかいないかで言えば、いて欲しかったのが本音。でも、いないのが現実なので……そこは後悔しても仕方がない。
荷物は適当に置き、さっそく……と思ったら、空腹が限界値を迎えていたため、クロードに一度断ってここの冷凍庫に置きっぱなしにしていた宅配弁当を解凍することにした。家電の機能は無事に動いていたので、そこは安心出来た。
『たんと食い。俺も少しなんか食ってくるわ』
「……フロアから出れないんじゃ?」
『給湯室くらいはあるんよ。そこにカップ麺ストック置いとる連中のパクるわ』
「……しょうがないもんね」
『せやで』
成樹と美晴が今どこで保護されているかは怪しいものの。関係各所というところできちんと保護されているのなら、藍葉は藍葉で出来ることをするしかない。宅配弁当はあったまったが、部屋の温度ですぐに冷めてしまうくらい哀しいぬくもりだ。
あとで支払うからと成樹に謝罪前提で行動し始めた。部屋には藍葉しかいないので、空調設備を出来るだけ『強』に設定してみたが……なかなかに、外気温のせいで温まりにくい。リノベーション物件だというのは本当だったらしい。
それでもまだ、外で倒れそうになったくらいの極寒じゃないと……これも謝罪覚悟で成樹の服だったり寝具でぐるぐる巻きになるのだった。
次回はまた明日〜




