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【外伝】かなこちゃん と 呪いの人形 〜その後〜


 夜。

 古びた祠の前で、かなこちゃんは小さな焚き火を灯した。

 火はまだ小さく、かすかに揺れる光が、静かな闇に溶け込んでいた。


「――それでね、あの子は帰ってくると私を見るなり満面の笑みになるんだ。

 花開いたような可愛い笑顔でね、

 そんなに私に会えて嬉しいのかなって……クスクスクス」


 私は少女――かなこちゃんと、

 悲しさや辛さ、どうしようもない気持ち、

 そして楽しかった昔の記憶や嬉しい思い出を、

 静かに、たくさん話すことができた。


 焚き火の揺らめく炎を見つめながら、私は思った。

 その揺らぎはまるで、ずっと探していた出口のように、

 暗い心の奥で小さく光っていた。


「ねぇ……本当にいいの?」


 かなこちゃんの問いに、私は少し考えてから、

 ゆっくりと口を開いた。


「……うん。もう終わりにしたいんだ」


 それは、ずっと心の奥底に沈めていた言葉だった。


 かなこちゃんは一度だけ、目を伏せた。

 そして無機質な声音で「わかった」と言う。

 その直後、焚き火の光に照らされた下唇が、静かに噛みしめられて白くつぶれた。


 その一瞬の揺らぎを見て、私は小さく頷いた。





 かなこちゃんは両手で私を抱え、火の前に立った。

 炎が少しずつ大きくなり、

 温かく柔らかな光が私の身体を包み込む。


 その光の中で、私は気づいた。


 ──燃えることは、消えることじゃない。

 ──燃えることは、痛みの鎧を脱ぎ捨てることなんだ、と。


「……いくね」


 かなこちゃんの震える手が、そっと私を炎の中へ置いた。


 火は私を舐めるように包み込み、

 乾いた木のはじける音が小さく響く。


 燃える匂いと共に、

 心の奥に残っていた黒い影、呪いの棘、

 満たされなかった記憶の痛み――

 すべてが静かに溶けていくのがわかった。


 ──あぁ、これで、やっと終われる。


 炎に揺られながら、私は最後にかなこちゃんへ囁いた。


「ありがとう……かなこちゃん。

 あなたに出会えて……私は救われたよ」


 炎は黄金色に輝き、

 やがて私の形は光の粒となって夜空に溶けていった。


 かなこちゃんは、その光景を見つめ、

 静かに手を合わせた。


 夜風がそっと吹く。

 その風が、ほんの一瞬だけ、

 彼女の頬を撫でるように温かく通り過ぎた。





 それから数週間後。


 かなこちゃんは、ふとした帰り道で空き地に立ち寄った。

 心のどこかで――あの人形の気配が

 まだ世界のどこかに残っているような気がしたのだ。


 その場所には、以前にはなかった“何か”があった。


 ひび割れた地面の隙間から、

 小さな小さな芽が伸びていた。


 触れれば折れてしまいそうなほど弱いのに、

 不思議なほど真っ直ぐに空へと伸びている。


 かなこちゃんはしゃがみ込み、そっと目を細めた。


「……あなた?」


 もちろん、声が返ってくるわけではない。

 芽はただ風に揺れ、淡い緑色を光らせるだけ。


 それでも、かなこちゃんにはわかった。


 ──あの人形が、残したものだ。


 燃えて終わったわけではない。

 消えてしまったわけでもない。


 あの人形が背負っていた痛みは、

 火の中で溶け、光となり、

 土に落ち、新しい命を芽吹かせたのだ。


 呪いでもなく、

 執着でもなく、

 傷の形でもない。


 そこにあるのは――再生そのもの。

 小さくても確かな、未来への光。


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