【外伝】かなこちゃん と 呪いの人形 〜その後〜
夜。
古びた祠の前で、かなこちゃんは小さな焚き火を灯した。
火はまだ小さく、かすかに揺れる光が、静かな闇に溶け込んでいた。
「――それでね、あの子は帰ってくると私を見るなり満面の笑みになるんだ。
花開いたような可愛い笑顔でね、
そんなに私に会えて嬉しいのかなって……クスクスクス」
私は少女――かなこちゃんと、
悲しさや辛さ、どうしようもない気持ち、
そして楽しかった昔の記憶や嬉しい思い出を、
静かに、たくさん話すことができた。
焚き火の揺らめく炎を見つめながら、私は思った。
その揺らぎはまるで、ずっと探していた出口のように、
暗い心の奥で小さく光っていた。
「ねぇ……本当にいいの?」
かなこちゃんの問いに、私は少し考えてから、
ゆっくりと口を開いた。
「……うん。もう終わりにしたいんだ」
それは、ずっと心の奥底に沈めていた言葉だった。
かなこちゃんは一度だけ、目を伏せた。
そして無機質な声音で「わかった」と言う。
その直後、焚き火の光に照らされた下唇が、静かに噛みしめられて白くつぶれた。
その一瞬の揺らぎを見て、私は小さく頷いた。
◆
かなこちゃんは両手で私を抱え、火の前に立った。
炎が少しずつ大きくなり、
温かく柔らかな光が私の身体を包み込む。
その光の中で、私は気づいた。
──燃えることは、消えることじゃない。
──燃えることは、痛みの鎧を脱ぎ捨てることなんだ、と。
「……いくね」
かなこちゃんの震える手が、そっと私を炎の中へ置いた。
火は私を舐めるように包み込み、
乾いた木のはじける音が小さく響く。
燃える匂いと共に、
心の奥に残っていた黒い影、呪いの棘、
満たされなかった記憶の痛み――
すべてが静かに溶けていくのがわかった。
──あぁ、これで、やっと終われる。
炎に揺られながら、私は最後にかなこちゃんへ囁いた。
「ありがとう……かなこちゃん。
あなたに出会えて……私は救われたよ」
炎は黄金色に輝き、
やがて私の形は光の粒となって夜空に溶けていった。
かなこちゃんは、その光景を見つめ、
静かに手を合わせた。
夜風がそっと吹く。
その風が、ほんの一瞬だけ、
彼女の頬を撫でるように温かく通り過ぎた。
◆
それから数週間後。
かなこちゃんは、ふとした帰り道で空き地に立ち寄った。
心のどこかで――あの人形の気配が
まだ世界のどこかに残っているような気がしたのだ。
その場所には、以前にはなかった“何か”があった。
ひび割れた地面の隙間から、
小さな小さな芽が伸びていた。
触れれば折れてしまいそうなほど弱いのに、
不思議なほど真っ直ぐに空へと伸びている。
かなこちゃんはしゃがみ込み、そっと目を細めた。
「……あなた?」
もちろん、声が返ってくるわけではない。
芽はただ風に揺れ、淡い緑色を光らせるだけ。
それでも、かなこちゃんにはわかった。
──あの人形が、残したものだ。
燃えて終わったわけではない。
消えてしまったわけでもない。
あの人形が背負っていた痛みは、
火の中で溶け、光となり、
土に落ち、新しい命を芽吹かせたのだ。
呪いでもなく、
執着でもなく、
傷の形でもない。
そこにあるのは――再生そのもの。
小さくても確かな、未来への光。




