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かなこちゃん と つぐみちゃん2

 私は、かなこちゃんが怖いと思う。

 

「ひどいことしちゃダメだよ……」


 かなこちゃんは、私の一歩前に立っていた。

 廊下の真ん中で、クラスの男子三人が腕を組み、道をふさいでいた。

 その目つきは獲物を見つけた野犬みたいで、私は思わず肩をすくめてしまった。


「そいつが弱虫なのが悪いんだ。悔しかったら三日後にやる肝試しに来いよ」


 リーダー格のたいちがニヤリと笑った。

 かなこちゃんは一歩も引かず、じっと彼らを見返す。

 その背中に隠れている私には、彼女がとても大きく見えた。


 三日後の日曜の夜。

 私たちは夜の学校の正門をくぐった。

 夏なのに夜風はやけに生ぬるく、蝉の声が遠くにひっそりと聞こえる。

 校舎の窓は真っ黒で、昼間の賑やかさはもうどこにもない。


 かなこちゃんは躊躇なく歩いていく。

 私は震える指で彼女の腕をつかみながら、何度も後ろを振り返った。

 正門の向こうは、すでに闇に沈んで見えない。


 教室のドアを開けた瞬間、

 むわっとした古い木とチョークの匂いが鼻を突いた。

 教室の中央には机が丸く並べられ、その真ん中に小さな灯りがいくつか。

 LEDのろうそくが、かすかにオレンジ色の光を揺らしている。

 黒板はぼんやりとした闇に浮かび、チョークの残り跡が幽霊のように白く光って見えた。


 すでに待っていた男子三人が、ニヤニヤと笑ってこちらを見ている。

 その笑顔が、教室の薄暗さのせいか、どこかぎこちなくて怖かった。


 百物語が始まった。

 一本目、二本目と男子が順に話していく。

 話のたびにLEDが一本ずつ消され、教室の闇は少しずつ濃くなっていった。


「ハッ、情けないな」

 たいちが私を見て嘲った。

 私はガタガタ震え、かなこちゃんの腕にしがみつく。

 けれど、そんなことどうでもよかった。

 次は、かなこちゃんの番だから。


 かなこちゃんは、黙ったままゆっくりと立ち上がった。

 机の影が彼女の顔を覆い、赤い唇だけがわずかに光を反射する。


「……これは、今から八年前の話なんだけどね」


 その声は、私の耳のすぐそばで、でもどこか遠くから聞こえるようだった。

 語り出した瞬間、空気が冷たくなった気がした。


「海辺に住んでたある兄弟が、よくかくれんぼをして遊んでたんだって。

 その日もかくれんぼをしていて、兄は鬼で、弟を探していた。

 ……でも、兄の方は、ほんとは見つけてたんだって」


 彼女は視線をじっとたいちに向けた。

 たいちは不意に笑いを止め、唾を飲み込む音が聞こえた。


「弟が、海近くの岩陰に隠れているのを知ってた。

 でも、兄はわざと見つけないふりをした。

 『ちょっと放っておいてやろう』って、ただのイタズラのつもりだった」


 教室の奥から、カタン、と机が揺れる音がした。

 誰も立ち上がっていないのに。


「弟は、ずっと待っていたんだ。

 『兄ちゃん、見つけてくれるかな……』って。

 でも兄は笑って、そのまま帰ってしまった」


 LEDのろうそくのひとつが、突然ふっと消えた。


「その日の夕方、弟は――

 片方の靴だけ残して、いなくなっていたんだって」


 その瞬間だった。

 背後から、幼い男の子の声がはっきりと聞こえた。


『……どうして、見つけてくれなかったの?』


「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 たいちが叫んだ。

 顔を両手で覆い、涙と鼻水をだらだら流しながら、床に膝をついて頭を抱え込む。

「ごめん。許してくれ、じろう!! 海に落ちるなんて思わなかったんだ!!!

 あの時俺が探していれば! ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい……!」


 他の男子は蒼白になり、椅子を倒して後ずさった。

 私は、ただ震えながら、呆然とその光景を見ていた。


「……ひどいことしちゃダメだよ……」


 かなこちゃんはそう呟くと、静かに座り直した。

 LEDの炎が小さく揺れるたび、その横顔に赤い影が差す。


 だから私は、かなこちゃんは怖いと思うんだ。



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