その13 薬屋にて
テストは終わった!点数?気にしないでいきましょう!
なので久しぶりにルースと街に来た。
「あら、マチルダさん?どうしたの?」
花屋のマチルダさんだ。慌てて走っているところに鉢合わせした。
「あ、シャーリー!!トムがまた喘息の発作を起こして…ちょうど薬が切れていて…」
トムとはマチルダさんの5歳になる息子だ。
「私がもらってくるわ。マチルダさんはトムについていてあげて!」
母親だもの心配でしょう。
「ありがとう!薬はラスタさんのところで買えるから。いつものと言えば出してくれるよ。」
私は薬屋に急いだ。薬屋のラスタさんに事情を説明してトムがいつも飲んでいる薬を買おうとした。しかし
「ないんだ。申し訳ない。」
「ないって??どうして?」
「わからない。あの薬はいつもシルバーサ王国の近くの森でしか取れない薬草を使っているんだ。しかし市場に出回らないんだ。こんなこと初めてだ。」
「じゃあ、トムの薬は…」
ラスタさんは残念そうに首を横に振った。
「どうしよう…」
「おや?ルーズローツ様とヴィクセレーネ嬢ではないですか?」
「シュライン様。」
私達が薬屋から出たところで呼び止められた。
ルキシス=シュライン伯爵子息だ。
「先日は美味しい料理を教えていただきありがとうございました。今日もお忍びですか?」
「はい。今日はお一人なんですね。」
「いつも一緒ではないですよ。今日はちゃんと騎士団の仕事をしてます。ルーズローツ様もお久しぶりです。」
「ああ、仕事とはラルラリ草のことではないのか?」
「さすがザイン公爵家の御子息ですね。」
「喘息に使われる薬草で、シルバーサ国境付近ギルナスの森でとれるものといったらラルラリ草だ。あれはいつでも森に生えているはずだ。それが市場に出ないとはどういうことか?」
ルースったら物知りね。あと少しばかり家柄が上だから何だか威張ってるわ。なんだかいつもと違うわ。
「だから調査中なんです。」
「まだわからないのか、もしくはもうわかっていて…あ、やはりシルバーサ…か。動くのか?」
一瞬ルースの目が鋭くなった。いつもの明るい感じではなくすこし怖い感じがした。しかし一瞬だ。何か気になることでもあるのかしら?
「ルース?どうしたの?」
「あ、シャーリーごめんよ。」
いつもの顔に戻ってる。
「しかし町の薬屋に用事ですか?」
私は訳を話した。
「それではその花屋まで案内して下さい。」
「シュライン様?」
「あ、ルキシスで大丈夫ですよ。あまりその名前は慣れなくて。」
「はい。ルキシス様。私もシャーリーでいいですよ。」
…何だか隣から黒い眼差しを感じるわ。ルース、何か私怒らせた?
マチルダさんの花屋に着くなりルキシス様は腰に持っていた袋から小さな箱をとりだした。そこには小さな小瓶が5つあった。
「ルキシス様!これは。」
「ラルラリ草で作った薬です。さあ飲ませてあげて下さい。」
マチルダさんは頭を深く下げてから、それを受け取りすぐにトムに飲ませた。
「すみません。人前で渡すわけにはいかなかったので…」
「ありがとうございます。でも… いただいてよろしいんでしょうか?」
「そのために持っています。ラルラリ草は喘息の他にもたくさんの病気に効きます。ラルラリ草が手に入らない今、困っている人がいるのではないかと王太子殿下の計らいで持ち歩いています。王宮には多少備蓄されていますので。困っている人がいれば渡してもいいと言われています。」
「代わりの薬草はどうなった?」
「先日、同じ効果の薬草が見つかったのですぐにかわりの薬草が出回るはずです。」
なんだかルースがルキシス様の上司みたいな口調なんですが?
「ラルラリ草がどうしたの?確か効用は何だっけ?えっ〜と、確か…ん…」
「シャーリー…君は調合師になりたいんじゃない。割と勉強不足だよ。」
「これからよ!」
「シャーロレット嬢は調合師になりたいんですか?」
ああ、いや…森でスローライフ…とは言えませんね。
また白衣が着たいとか定番とか…ただのミーハーです。しかし薬は必要です。森で一人暮らしする時に物々交換とかできるし、町の皆さんの力にもなれそうです。頑張らなきゃ。
「いつの時代も薬は大事です。人の暮らしを少しでも支えていきたいとおもっています。」
隣でルースが笑った。ったく、なぜ笑う。
「しかし本当にシャーロレット嬢は町の人々と仲がよいのですね。」
まあ、前世はふつーの人だからね。こっちの方が気兼ねなく楽なのよね。
「本当に惜しいです。王太子殿下ではなくても…私もそう思います。」
ん?何を言っているんだ。んん??隣から黒い闇を感じるわ。何?やっぱりルース何か怒ってる?
「シャーリー!次行こう。」
「あ、それではルキシス様、お仕事のお邪魔してすみませんでした。本当に今日はありがとうございました。何か御礼を…」
「御礼なんていいですよ。ん、それならまた美味しいお店教えて下さいね。その時はご一緒して下さい。」
「はい。そんなことでいいのですか?私でよけれ、「いくよ!シャーリー!」
「あ、はい。お仕事頑張って下さい。」
私はルキシス様に頭を下げて、スタスタと先を行ってしまう本当に今日のルースは何?ルースを追いかけようと足を前に出した。
「ルース!待って。あっ…」
つまづいた。その時にルキシス様がすかさず腕を掴んで助けてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「割とそそっかしいのですね。」
イケメンオーラ全開。笑顔が眩しい。眩しすぎます。
と、思っていたらルースがドスドスとやってきた。
「シャーリー、本当に勘弁してよ。」
反対の腕を取られて引きずられるように連れてかれた。
「ルース!どうしたの?今日変だよ?何か怒ってる?ルース!ルースったら。」
残されたルキシス様は苦笑いをしていた。
私達は次の目的地に向かった。
『シャーロレット嬢の天然にはルーズローツ様も敵わないみたいだな。しかしなぜルーズローツ様は婚約してる事実を隠しているんだ?たまたま王太子殿下側近の私は知っているが、本当に知っているのは当事者を抜けば片手で足りるくらいだろう。あまり気が進まないのか?もしルーズローツ様との婚約がなくなるようなことがあれば私が入る隙はあるだろうか?本当に惜しいな。』