その7 裏庭にて
しっ〜!
「シャーリー?何してるの」
隣からルースが囁いた。
授業が終わりたまにはルースを迎えに行こうとして裏庭を通った。
政科と魔科との間には裏庭とみんなが言っている庭園がある。裏庭、つまり逢引にもってこいなのだ!
裏庭にある大きな木の根元のベンチにルピアさんが本を読んでいる。多分何かのイベントが起こるはず!
さあ!誰が来るの?先生?ディラン?…ん?
「ルース?なんで私の隣にいるの?」
「なんでってシャーリーが茂みにいたから何してるのかなって。」
「いやいや、あなたの場所はあっちじゃない!」
私はルピアさんの座るベンチを指差した。
「ルースはあっちに行くの!」
ルースは「はいはい」と空返事をしてベンチの方に歩いて行った。
何やら話している。楽しそうだわ。ルピアさん笑ってる。
かわいいわね。肩下ぐらいまであるルピアさんの髪が風に揺れる。隣のルースのストレートな金色の髪もすこし風に揺れている。金と銀…ってちょっと眩しいわね。
何やら本を二人で覗いている。ルピアさんがわからないところをルースに聞いているんだわ。好感度アップ!
ちくっ…胸が痛い。
二人を再び見るとルースは大笑いしていた。ルピアさんは恥ずかしそうに下を向いている。
話し声が聞こえないから困るわ。何であんなに楽しそうなのかしら?
そういえばこの頃ルースはしかめっ面ばかりしてるわね。あまり私の前で笑わなくなった?
それはヒロインの攻略対象がルースだから?ヒロインはルースのルートに決めたの?
あら、やだ。また胸がチクチクする。
見ていたくなくて下をずっと向いていた。
やはりルースを行かすのではなかった。嫌だ…見ていたくない。
「シャーロレット嬢?」
「あ、あら。ディラン様?」
「どうしたんだ。こんなところに座り込んで。制服が汚れてしまっているよ。ほら」
ディラン様が手をパチっとすると制服から汚れがなくなった。素晴らしい!これが魔法ね。
「ありがとうございます。ディラン様はすごいですね。なんの魔法でも使えてしまうのですね。」
「そうですか。いやいや褒められてしまいました。ん!あれはルースと?女の子?」
「同じクラスのルピアさんですわ。何やら授業でわからないことを聞いているみたいですね。」
「おいおい、ルース…何やってんだか…」
私はルースとルピアさんから目を背けた。すると…
「きゃ〜!虫?えっ!何!嫌!いや?」
目の前の木からイモ虫みたいなものが降りてきた。
イモ虫さんと目があってしまった!!
「いや!虫、虫嫌い!嫌い!どけて!いや!」
私は虫を払おうとして足元の石につまずいた。
いやはや目の前にはちょうど池がある。やだやだこのままだと池バジャーン!や!虫も嫌だけど、池落ちも嫌!
「そそっかしいですね。」
ディラン様が支えてくれた。後ろから抱きしめられる体勢になった。王太子殿下とは違う、すこし骨が当たって痛いけど大きな手だった。体勢を安定させるためにとっさに彼の手に自分の手を重ねてしまった。慌てて手を外す。
「えっ!あっ!いえ!」
「シャーロレット嬢…」
ディラン様の黒い髪がさらりとこめかみ付近を撫でていく。
かなり彼の顔の距離が近いことがわかる。
「あ、ありがとうございます。」
振り向こうとしたが、彼に後ろから抱きしめられている為顔だけ後ろを向く形になった。
フワッと頬に柔らかいものが当たる。
えっ?何?何っ?
「…あ!…。すみません。突然あなたが後ろを振り向くので…あ、いえ。」
わたしは頬に手を当てた。もうバクバク心臓が鳴っているのだけが聞こえる。
「あ、えっ…は、はいっ…」
顔も真っ赤のはずだ。
久しぶりのこんなシチュエーションに動揺しずにはいられなかった。
この前は王太子殿下、今日はディラン様…本来ならヒロインがこなさなきゃいけないイベントではないだろうか。
何で私がイベントを消化してるの?違うでしょ!
あ、いや…違う…今はそんなことじゃなくて…
ディラン様が……事故よ。事故だから!だって…だって…。
「たす…助けて下さって…あ、ありがとうございま…し…た。また明日…お会いしましょう…失礼します…」
頭の中がパニックすぎて慌ててその場を立ち去った。