9.亜弥side
「は~。」
風呂上がりで部屋に戻ってきた途端、ここ数日の気づかれからか、自然と溜め息が出た。
健一は妙な誤解はしてないみたいだし、健一が知っている情報も色々と聞けた。
思えば先週のこと、
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教室で、舞香の幼馴染みである和田君をターゲットにした嘘告騒ぎが起こった。平野が嘘告であることを笑いながら和田君に告げていた。
慌てて舞香の方を見ると、・・・えーー!なんで笑ってるの!!?大事な幼馴染みなんじゃないの!?
驚きながら周りを見ると、他の女子も笑っている子が多い。私が唖然としていると、
「お前ら随分ふざけたことすんだな。人の気持ち弄ぶようなことしやがって。」
「他の女子どもも一緒になって嘲笑しやがって。見てたぞ、皆してこいつの事笑ってんの。ほら、行くぞ。鞄もってこい。」
健一がそう言った後、和田君を引っ張るようにして教室を出ていった。この感じは・・・、でもなんで?健一本気で怒ってる。
「ねえ、今の健一の言い方だと、女子みんな共犯扱いされてない!?」
「え、ま、まさか・・・。」
舞香に告げると、彼女も呆然としている。
「なんで貴女、あの状況で笑ってたの!?」
舞香に聞くも、耳に入ってないみたい。
「ちょっ、ちょっと舞香?」
呼び掛けても答えず、とぼとぼと教室から出ていった。
ああ、でも健一の誤解を解かなきゃ!
私は健一とは高校で出会ったが、最初の印象はとっつきにくい感じでどちらかというと良くなかった。でも、よく見ると、友情に厚いところや、女子に対しても親切だけど媚びるような態度がないところなど、今まで下心満載で近づいてくる男子が多かった為、新鮮な感じがして好感度がドンドン上がり、気がつけば好きになっていた。
何度か諦めずアタックした結果、今の交際に至っている。
それをこんなことで駄目にしたくない。
何度か電話するも繋がらず、誤解を解くためメッセージを送るも既読にならない。
家に帰って悶々としていると、やっと返信があった。
『悪い悪い。恭平を囲んでみんなでカラオケ行ってた。』
『とりあえず落ち着け。』
『確かにお前は笑ってなかったし、グルとも思ってない』
『明日以降、バイトの代打とかがあって、時間がない。』
『日曜にゆっくり話そう。』
経験上、こんな風に立て続けにメッセージが来る時は、私のことを気遣って安心させようとしてくれている筈だ。
最悪の事態も想定していた為、少しホッとした。
ただ、健一と話す前に話しておくべき者がいる。
「平野さん、ちょっといいかな。」
放課後、1人になったところを見計らって声を掛けた。
「な、なに?」
「ちょっと話があるんだけど。昨日の件で。」
彼女は狼狽えた様におどおどしているが、気にせず話す。
「今のクラスの状況分かってる?」
彼女は少し考えをまとめるように黙っていたが、意を決して話し始めた。
「私のせいで、クラスの雰囲気、特に男女間の雰囲気が悪くなってるってことでしょう?原因である私が動かないとおそらく解消しないってことは理解はしてる・・・。」
彼女は決して頭が悪いわけではないのだろう。なのに、なんであんなことやったのか・・・。
「じゃあ、そのアクションは言われなくても起こすのね?」
「うん、信じられないかもしれないけど、反省しているから。」
「分かった。なるべく早めにね。」
そう言い残して私は彼女から離れた。
日曜日、健一が私の家に来て、健一の知る情報を話してくれた。
和田君が、健一と小学校以来の親友だってのも今日初めて聞いた。だからあんなに怒ってたんだ。
しかも和田君に妹ちゃんを引き合わせていい感じになってるって、早すぎない?
ただ、舞香のホントの気持ちがさっぱり分からなくなったから、私もこれ以上首突っ込めないよ。
「舞香は結局のところ、和田君をどう思ってたのかなぁ?」
「俺も分からない。脈はあると思ってたんだけどな。ただ、もしツンデレとかいうやつなら、正直通じないだろうな。男からしたら分かんないし。実際、恭平は嫌われたと思ってるみたいだし。」
「舞香が別に何とも思って無いならいいんだけど。ただ和田君切替早くない?」
「まあ、俺もそういうタイミングで会わせたことは否定しないけど、理佐だってずっと恭平が好きだったんだしな。でも、恭平が綾辻を想い続けている間は俺だって余計な波風をたてるようなことはしなかったぞ。」
「そうかもしれないけど・・・。」
確かにわたしがどうこう言う資格はないので、それ以上言うのはやめた。
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そして、月曜日、舞香は学校を休んだ。
昼休みにメッセージを送ると、ポツポツ返信が来たが、いまいち要領を得ない。
放課後もなかなか繋がらなかった通話がやっと繋がったかと思うと、泣き声混じりでこれまでのことと、やっと自覚したと言う彼への想いをぶちまけられた。
あああー、遅い、遅いよもう!?
しかも、たまたま和田君達が2人仲良く歩いているところを見かけたらしい。健一から聞かされた情報で知ってるけど、私から伝えるのはやっぱり違う。
『もう、グズグズしてないで、本人と話しなさい!私から連絡してあげるから!連絡先は?』
『家の電話しか知らない。あいつスマホ持ってないの。』
『えー・・・。分かった、何とかする。意地張らないでちゃんと話すのよ。いい?』
『・・・分かった。』
とりあえず健一に聞いてみよう。