地獄絵図
前回お知らせした短編小説ですが、いよいよ今週中に公開します!!
また、夜12時を予定しております!!
それまでどうぞお楽しみに!!
「ア、アニキ!!」
「松、これはいったいどういう事だ!!?」
叫び声を聞き付け、慌てて来て見れば、そこには地獄絵図が広がっていた。ある組員は顔が粘土の様にグニャグニャになり、ある組員は風船の様に体が膨張と破裂を繰り返し、またある組員は骨格が変形し、身長が三メートルを越えていた。
事態の状況が飲み込めず、酷く混乱していると、丸刈りで眉毛を完全に剃った男が谷原の前に駆け寄って来た。“無法松卓”、最近入った谷原の舎弟だった。そんな無法松に谷原が問い掛けた。
「わ、分かりません!! 突然、こうなってしまって……」
「くそっ!! オヤジ……オヤジは何処だ!!?」
「組長なら自室に……アニキ!!?」
無法松の言葉を聞いた次の瞬間、谷原は一目散にその場を後にし、組長の自室へと向かった。
「オヤジ!!」
部屋に着くと電気が付いておらず、中は真っ暗だった。しかし、モゾモゾと動く影から人がいる事が伺えた。
慌てて電気を付けると、そこには全身が鱗で覆われた二足歩行の半魚人が立っていた。首のエラから吐き出される息は、鼻が曲がる程に生臭かった。
「だ、誰だテメェ!!」
「ヨ……シアキ……」
「オヤジを……組長を何処にやりやがった!!」
よく見ると半魚人の足下には、ビリビリに引き裂かれた衣類が散らばっていた。
「それはオヤジが好んで着ていた……テメェ、オヤジに何しやがった!!!」
半魚人に飛び掛かる谷原。しかし、人間離れした腕力で引き離され、壁に勢い良く叩き付けられてしまった。
「がはぁ!!! な、何て馬鹿力だ……」
「ヨシアキ……」
半魚人がこちらに水掻きの付いた手を伸ばして来る。
「くっ!! 黙って殺られてたまるか!! せめてでも道連れに……」
そう言うと谷原は懐から、隠し持っていた手榴弾のピンを抜こうとする。そして次の瞬間……。
パァン!!
「!!!」
「こんのアホンダラ!! この組を吹き飛ばすつもりか!!」
引き抜く瞬間、半魚人の平手打ちを食らい、無理矢理止められた。しかし、それよりも先に谷原は、この平手打ちに覚えがあった。
「このキレのある強烈な平手打ち……ま、まさかオヤジ!!?」
谷原の問い掛けに対して、静かに頷く組長であった。
***
「えーと、それでアニキ……これはいったい?」
「見ての通りだ」
組長との一件から数十分後、組員全員が大広間に集められ、体に異常が見当たらない無事だった組員達を中心に、その周りを突然変異した組員達で囲った。
端から見れば軽いパニックホラーとも言えた。
「いや、全然これっぽっちも分かりませんよ。いったい何がどうなっているんですか」
「まぁ、要約するとだな……ここにいる化け物はオヤジ達で、突然こんな姿になっちまったらしい」
「……いや、説明されても全然これっぽっちも分からないんですけど」
「いきなり理解しろと言われても難しいのは分かる」
「難しいって、そんなレベル遥かに越えてますよ!! いったいどうしたらこんな恐ろしい事が起こるって言うんですか!!? 大体、本当にこいつらは組長達なんですか!!? いや、アニキが言うんだからそうなんでしょうけど、それでも確証が欲しいんですよ!!」
「そ、そうだ!! 俺達でも納得出来る理由を下さい!!」
「俺達にだって知る権利はあります!!」
「若頭!! ちゃんと説明して下さい!!」
「若頭!!」
「若頭!!」
無法松の言葉から波紋が生まれ、人間姿の組員達は谷原に説明を求め始めた。若頭、若頭と騒ぎ立てる彼らに谷原が大声を張り上げる。
「男がギャーギャーギャーギャー、やかましいわ!!! 話は最後まで聞け!!!」
その一発で騒ぎは収まった。
「何でこいつらがこんな姿になったのか。正直、それは俺にも分からない」
「そんなっ「だが……」……えっ?」
「ある程度の推測は出来る。ここ最近、変わった事が無かったか?」
「変わった事……?」
組員達は話し合って変わった事が無かったかどうか、必死に思い出そうとするが、これといった事は思い出せなかった。すると、谷原が口を開いた。
「健康診断だ」
「え?」
「あの健康診断を受けてからだろ、オヤジ達がこんな姿になったのは」
「な、成る程!! つまり、あの病院が原因という事ですね!!」
「このバカ!! もしそうならとっくの昔に全員が餌食になってる!! 俺が言いたいのは代理でやって来たとかいうあの女医だ」
「あっ、あぁ、そっかー」
“確かにあの女医怪しかったもんな”“俺は最初からおかしいと思っていたぜ”“俺なんか健康診断の三日前から怪しいと思ってたぞ”等と頷く一方でプチマウント取りが始まった。
そんな組員達に咳払いする谷原。
「そ、それじゃあこれからあの女医にケジメを付けさせに行くんですね?」
「それも勿論だが、まずはこれからの事を考えるのが先だろう」
「これから?」
キョトンとする無法松。怪異人の姿になった組員達はすぐに気が付いたが、人間の組員達は皆首を傾げていた。
「組の半数が怪異人になったんだ。今までのシノギがまともに出来ると思うか?」
「それはあの女を捕まえて治させれば……「知らなかったら?」……へ?」
「もし、治し方を知らなかったらどうする? 常に最悪のケースを考えておけ、そうすれば対処もしやすい」
「そんな……そんな事になったら、この組は終わりじゃないですか!!?」
「誰が終わりだって言った!! 暫くの間、シノギはお前達だけで回すんだ。俺達はその間に元の姿に戻る方法を見つける」
「だ、だけどアニキ……」
「話は以上だ。解散!!」
そう言うと谷原はその場を後にした。取り残された組員は、只呆然と後ろ姿を見つめるしか無かった。
「(この時、俺は最初の間違いを犯した。突然の出来事に酷く混乱していた俺は、少しでも早く自分の中で整理を付けておきたかったんだ。でも、本当はこの場に残るべきだった)」
「……それでどうするよ?」
「どうするも何も言われた通りやるしかねぇだろ」
「本当にこの人数で出来ると思ってるのか!?」
「知らねぇよ!! 若頭がやれって言ってんだ!! 下の俺達はそれに従うんだよ!! それ位、ちょっと考えれば分かるだろうバカ野郎!!」
「何だその言い方!! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「あぁ、やろうってのか!!」
「上等だ、どっちが上かハッキリさせてやるよ!!」
不安と些細な言い争いから、人間の組員達同士での殴り合いが始まってしまった。それを周りから見ていた怪異人と化してしまった組員達。
「おい、お前らいい加減にしろ!!」
「余計な口挟むんじゃねぇよ!! 元はと言えば、お前らが原因じゃねぇか!!」
「何だと!!?」
「あの女に何されたか知らねぇけどよ。軟弱な鍛え方してたから、怪異人になっちまったんじゃねぇの?」
「テメェ、もういっぺん言ってみろ!!」
そんな煽り文句についカッとなってしまった。いつもの調子で押したつもりだった。しかし、ふと気が付いたら組員の一人が血塗れの体で外まで吹き飛んでいた。
「…………え?」
「うっ……うわぁああああああ!!!」
「こ、こいつ殺りやがった!! 仲間を殺しやがった!!」
「ち、違う!! 俺はほんの軽い気持ちで!!」
弁明の為に近付こうとするも、人間の組員達は怪異人と化した組員達に怯えた様子で離れた。
「こ、こっちに来るんじゃねぇ!! 化け物が!!」
「っ!!!」
組員の一人が近くにあった灰皿を怪異人の組員達に投げ付け、それが頭に直撃する。すると傷口からは“青い”液体が流れ出した。
「見ろ!! こいつら、もう人間じゃねぇ!!」
「殺される!! 皆、殺されるぞ!!」
すっかり見る目が変わってしまった。昨日まで同じ釜の飯を食っていた筈が、今では完全に人間と怪異人の二つに対立してしまった。
「ふざけんな!! 同じ組の仲間を殺す訳がねぇだろ!!」
「じゃあさっきのあれは何なんだよ!!」
「それはお前らのバカな言い争いを止めようと……」
「何で止めるだけなのに死んでるんだよ!!」
結局そこに行き着いてしまう。どんな事情があるにしろ、組の一人を殺めてしまったのは事実。
どう言い訳しても、失われた命は戻って来ない。そして遂には押し黙ってしまった。
「ほら、何も言えない。もうこいつら信用出来ねぇよ!!」
「おい!! お前ら、さっきから何を騒いでやがる!!」
「若頭……」
一触即発の雰囲気に、騒ぎを聞き付けて谷原が戻って来た。
「聞いて下さいアニキ!! こいつ仲間を一人殺しやがったんですよ!!」
「何?」
そこで漸く谷原は、外に飛び出た無惨な組員の死体を目撃した。そして問題の怪異人化した組員に視線を向ける。
「……本当にお前が殺ったのか?」
「……はい……そうです」
「……分かった、詳しい話は後で聞く。それまで……「アニキ!! 本気ですか!!?」」
「仲間が一人殺られているのにそれを見過ごすなんて、本気で言ってるんですか!!?」
「お前の気持ちも分かるが、まずは冷静に……「冷静なんていられる訳がないじゃないですか!!?」」
「仲間が殺され、その殺った奴が目の前にいるのに何もしないだなんて、あんたそれでも若頭かよ!!」
目に涙を浮かべながら訴える無法松。そんな彼の胸ぐらを掴んで壁まで追い詰める谷原。
「おい、いい加減そのお喋りな口を閉じてろ。ぶっ殺すぞ」
「ア、アニキ……」
「…………!!」
谷原はふと我に帰り、胸ぐらから手を放し、何事も無かったかの様に無法松の胸元を叩いた。
「悪いな、俺も突然の出来事の連続で混乱しているんだ。暫く考える時間をくれないか」
「アニキ、俺……」
「すまねぇが、あいつの死体。代わりに手厚く葬っておいてくれねぇか」
「!!!」
「その間に俺の中でも整理を付けておくからよ」
「……分かりました……」
そう言うと谷原は足早にその場を後にした。その時、無法松がどんな表情をしているのかにも気付かず……。
「(そしてここで俺は二度目の間違いを犯した。組の存続の事でも手一杯なのに、次から次へと起こる問題に俺は少し自棄になっていた。本当はもっとこいつらに寄り添ってやらないといけなかったのに……そしてこの二つの間違いが最終的に、あの最悪の事件の引き金を引く事になってしまった)」
組に入った大きな亀裂、果たしてどの様な結末を迎えるのか!?
次回もお楽しみに!!
評価・コメント・ブックマークお待ちしています。




