一触即発
前回、怪真会の若頭“谷原義昭”と接触した影野達。
果たして、伝説の男から何が語られるのだろうか。
中に入ると外装に負けず劣らず、豪華な内装になっていた。一直線に伸びる廊下や壁を支える枠組みが木造になっており、特に枠組みには細かな装飾が彫られていた。ある物には女性の横顔、またある物には龍を象った物、はたまたある物には鳳凰など、一目で国宝級の代物だと判断する事が出来た。
しかし、そんな豪華絢爛な内装よりも目立つ代物に影野達の目は奪われていた。それは“傷”だ。
壁や床、天井の至る所に生々しい傷痕が刻み込まれていた。刀傷や引っ掻き傷など種類は様々だが、その数は計り知れない程であった。あまりにも凄惨な現場に思わず影野達は息を飲み込んだ。
頭では大丈夫と冷静その物だが、肝心の体はこれ以上先に行くのを拒み始めていた。一歩一歩、歩く度に心臓の鼓動が早くなるのを感じるが、今更後戻りは許されない。というより、既に退路は怪真会の組員によってガードされている為、引き返す事は不可能だった。大人しく前の谷原に付いて行くしか無い。
「ここだ、入れ」
谷原の案内の下、長い一本道の廊下を抜け、迷路の様な複雑な構造をした渡り廊下を渡った先にある部屋に通された。
そこは所謂応接間と呼ばれる場所であり、中には長机を間に向かい合う形で上座に二人用ソファ、下座に一人用ソファが二つ置かれていた。
「…………」
それを見た俺は迷わず“上座”のソファへと座った。
「「「「「なっ!!?」」」」」
この行動には、さすがの組員達も驚きの声を上げた。そして谷原も声には出さなかったものの、眉間に寄っていたシワが更に深くなっていた。
上座のソファに座った俺に続いて、花村も迷わず上座のソファに座った。
「てめぇら!! 何の真似だ!!」
悪びれる事も無く、平然と上座へと座った影野達に対して、義理と人情を重んじる組員達が周りを取り囲み、怒りの声を張り上げた。
「……理由を聞こうか」
組員全員が武器を構える中、谷原は静かに影野の前に移動し、見下ろす形で話し掛けて来た。落ち着いた口調だが、その内は腸煮えくり返っている事が読み取れた。
「(ここで言葉を間違えれば、俺達は即座に殺されるな)……悪いが、これでも俺は組織を束ねる長なもんでな、勧誘とはいえ立場はハッキリさせたいと思っている」
「立場だと……寝惚けた事を言ってんじゃねぇぞ。礼儀や節度がなってない奴が上に立てると思うなよ」
「礼儀や節度……ハッ!! なら、お前達のあれは何だ? 敵か味方かも分からない初対面の相手を容赦なく攻撃するのが、お前らの言う礼儀や節度なのかな?」
「生まれたての赤ちゃん組織が偉そうな口を叩くじゃねぇか。あんまり俺達の事を嘗めんじゃねぇぞ?」
「嘗めてるのはどっちだ? 俺達を襲った部下の勝手な行動を咎めず、何の処罰も無いまま放置。下手すれば正面衝突になっていたかもしれない。そうなれば、この組は今度こそ壊滅する。経験豊富な組織だからこそ、部下の管理は徹底するべきじゃないのか?」
「「…………」」
睨み合う二人。端からだと、まるで二人の間に火花が散っているかの様に見えた。
しばらく無言で睨み合っていたが、時間の無駄だと判断した谷原が組員達に武器を下ろす様、片手を上げて下ろした。そして向かい側の一人用ソファに腰を下ろした。
「お前みたいな頑固な奴は久し振りだ。あのまま言い合っても埒が明かない。仕方ないから、ここは“大人”である俺が大人しく折れてやるよ」
「大人という事を強調する辺り、精神年齢は俺と大差無いな」
「いちいち噛み付いて来るお前もな」
「「ふっ、ふふふふ」」
二人による会話の攻防を呆然と眺める花村と組員達。ある程度笑い終えると、谷原は呼吸を整え、本題に入った。
「……さて、俺達を勧誘しに来たと言っていたが、何故だ?」
「単純な人員不足……それと、裏社会にアクセス出来るネットワーク環境の確保」
「成る程、それに最も適したのがヤクザという訳か。だが、その言い分じゃお前達にメリットはあっても、俺達にメリットは無いんじゃないか?」
「そんな事は無い。俺達の理想が実現すれば、怪異人にとって生きやすい世の中となる。そうなれば、お前達もコソコソしなくて済む」
「それが実現する可能性は限り無く低い。いや、不可能だ。非労運がいる限り、怪異人に勝ち目は無い。アニメや漫画と同じだ。“悪は正義に勝てない”」
「…………」
同じだ。同じ目をしている。怪異人と人間の間に生まれ、若くして一度に両親を失い、生きる希望を見出だせずにいた自分と……。
違う点があるとすれば、こいつには死んでも守るべき者達がいるという事。だが、それが逆にこいつを苦しめている。
また、いつ大切な者を失うか。必死に守ろうとするが故、何も出来なくなってしまっている。このままじゃ、遅かれ早かれこの組織は消滅するだろう。そうならない為にも、何としてでも仲間にして見せる!!
「聞いてもいいか?」
「……何だ?」
「俺達は事前に情報を掴んだ上で、ここまでやって来た。だが、いざ足を踏み入れて見れば、全滅したと聞いていた怪異人達がこうして生き残っていた」
「そう!! 僕もそれが気になっていたんだ!! 僕は基本的に情報収集する際、それらが本当か嘘か裏取りを済ませてからまとめるんだけど、今回のは確りと裏取りも取れたから、九十%以上本当だと確信していたんだ。けど、実際確かめたら大外れ!! 君達は生きていた!! つまり僕の情報収集が間違っていたという事だ!! こう言うのも何だけど、僕はわりと自分の頭に自信を持っている。だからこそ今回外れたのは凄く貴重な経験であり、悔しいという思いよりも、どうしてという疑問が勝っているんだ。もしかして君達の中に虚偽の情報を流すのに長けた人がいるのかな!? もしいるのだったら紹介して欲しい!! 一度、その人とじっくり話し合って……」
「花村、ストップ」
カタカタと壊れたクルミ割り人形の様に動くアシスの口を塞いで、無理矢理会話を止めた。
「興奮するのは分かるが、一旦落ち着こうか」
「…………(コクリ)」
静かに頷く花村を見て、影野はゆっくりと塞いでいた手を解いた。
「随分と個性的な部下がいる様だな」
「それはお互い様って事で……」
「いや、今のは褒めたんだ。良い部下を持ったな」
「それはどうも」
「本心さ……俺にもいたのさ、そいつみたいにお喋りな部下がな……」
「何があったんだ?」
すると谷原は天井を見上げ、懐かしそうにしながらも、何処か寂しそうな表情を浮かべた。
「……はめられたのさ、俺達は……」
「何?」
「年に一度の健康診断。職業柄、正面から堂々と検査を受ける事は出来ない。だからいつも向こうから来て貰っていた。そんな時だ、いつもの様に俺達の手が回っている病院から医者が派遣されて来る筈だったんだが、現れたのはいつもの担当医では無く、見慣れない女医だった」
「女医?」
「奴は代理だと言った。怪しいと思ったが、担当医の直筆で書かれた代理を認める証明書を持っていたから、つい信じてしまった。それが人生最大の過ちだと気付かずに……」
谷原が語る過去の話に堪えきれず、何人かの組員が当時の事を思い出し、涙を流し始めていた。
「それから何日か経ったある日、異変が始まった」
谷原の脳裏に組員達の叫び声が響き渡る。過去からの幻聴に谷原の顔が強張った。
***
「うわぁああああああ!!!」
「ぎゃあああああああ!!!」
「な、何だよこれ!?」
「誰か!! 誰か助けてくれ!!」
「何が起こってるんだ……」
次々と人ならざる者に変貌していく組員達。突然の出来事に理解が追い付かない谷原。目の前の地獄絵図を呆然と眺める事しか出来なかった。
次回、怪真会壊滅の真実が明らかとなる!!
次回もお楽しみに!!
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また、前回お知らせした年明けに一話完結の短編小説を投稿する件ですが、諸事情により二月中に変更します。
楽しみにしていた方々には、大変申し訳ありません。




