全て君のせい(夢川の視点)
今回は、前回の話を夢川さんの視点からお送りします。
また、ラストはちょっとだけ影野の視点に戻ります。
私は自分の目を疑った。まさか、こんな所で影野君と再会する事になるなんて。
影野君の方は私の姿を見て、驚いているみたいだった。当然だ、普段こんな都会まで足を運んだりはしない。ましてやこんな裏路地なんかで会うなど、思ってもみなかったのだろう。
それにしても、どうして影野君がこんな所にいるのだろうか。いったい何をしていたのだろうか。まさか、先程の怪異人襲撃事件と何か関わりがあるのだろうか。
偶然居合わせたにしては、話が出来過ぎている。もしかして、怪異人に脅されて何か良からぬ事を無理矢理手伝わされているとか。そうであれば、家に帰らないのにも納得がいく。
だけど、そうなると何故非労運を頼らないんだろう。怪異人に困っているこういう時こそ、非労運の出番とも言える。それを敢えてしないという事は、何か別の理由があるのだろうか。実は巨大な組織の陰謀に巻き込まれていて、誰にも頼る事が出来ないのかもしれない。
そう言えば、前に一度影野君と会った時、影野君は相澤先生と何か話をしていた。そして、私がここに来た切っ掛けは相澤先生に言われたからだ。もし、先生が組織の人間だった場合、影野君が何処に現れるのか分かっていても不思議じゃない。
つまり、相澤先生は怪異人側の人間だった!? けど、そうなると人間と怪異人が手を組んでいる事になる。いったい何の目的でそんな事を? いや、そもそも保健室の先生がどうしてそんな事を?
そう言えば相澤先生、学校に来る前は怪異人の人体に関する研究を行っていたって聞いた事がある。それじゃあまさか先生の目的は自分をクビにした政府への復讐!? で、でもあの優しい相澤先生がそんな恐ろしい事……けど、それなら……だけど……。
妄想が更なる妄想を呼び、答えが何なのか分からなくなっていた。
「(……ううん、今はそんな事を考えている時じゃない。せっかく影野君と再会する事が出来たんだ。とにかく彼と話さないと……)」
「や、やぁ、夢川さん……こんな所で会うだなんて奇遇だね」
「えっ、あっ、う、うん……そうだね……」
「「…………」」
こ、言葉が出て来ない。今まで何処で何をしていたのかとか、どうしてこんな所にいるのかとか、聞きたい事が山程あった筈なのに、何も口に出せない。影野君も、この雰囲気に苦しんでいる。何か、何か話さないと……そうだ!!
「影野君は怪異人……を見掛けなかった?」
「…………へ?」
これなら無難に会話する事も出来て、尚且つ本当に怪異人と関わりがあるのか、探る事も出来る。我ながらナイスな選択だったと思う。
「あのね、この近くにあるWTSで怪異人が暴れたらしいの。それでその時、それらしき人影を追い掛けたんだけど、途中で見失っちゃって……そうしたら偶然、影野君を見つけて……それでもしかしたら逃げた怪異人を見掛けたんじゃないかと思って……」
「…………」
と、思っていたんだけど、急に影野君が黙り込んでしまった。もしかして、聞いちゃいけない事を聞いてしまったのかな。そうなるとやっぱり影野君は、怪異人と何らかの関わりが……いや、そう決め付けるのはまだ早い。
「影野……君?」
「あぁ、その怪異人なら見掛けたよ」
「ほ、本当に!?」
「うん、実は俺も夢川さんと同じで、それらしき人影を見掛けたから、後を追い掛けて来たんだけど……見失っちゃって……」
「そ、そうなんだ……」
良かった。やっぱり影野君は、私の知ってる優しい影野君だった。怪異人と関わりを持っている人が、追い詰める様な発言をする訳が無いもんね。私の思い過ごしだったみたい。
でも、そうなるとますます分からない。どうして影野は家に帰らないんだろう。もし、何か深い事情があるのなら私に話して欲しい。非労運を目指す者として、困っている人を放っておく事は出来ないからね。
「聞いたよ、まだ家に戻ってないみたいだね」
「…………」
「ねぇ、一緒に帰ろ!! おじさん、おばさんが心配してるよ!! それに学校の……学校の……皆……だって……」
「?」
言葉が詰まってしまった。おじさん、おばさんが心配しているのは本当だ。だけど、学校の皆も心配しているかというとそうじゃない。それを影野君に言えば、きっと彼は傷付いてしまう。
「と、とにかく一緒に帰ろうよ!! ね?」
「……ごめん、夢川さん。それは出来ないよ」
「どうして!?」
「俺にはやらなければならない事がある。その為にも帰る訳にはいかないんだ」
「やりたい事って?」
「悪いけど、それは言えない」
「私……知ってるよ……影野君が虐められていた事……」
「…………」
「知ったのは最近だけどね……ごめんね、辛かったよね……誰にも相談出来ず、一人で苦しんで……それなのに私は無神経に話し掛けたりして……非労運を目指している癖に、一人の友達も助けてあげられないだなんて……」
思わず涙が溢れてしまう。自分の能天気さに嫌気が差す。影野君が思い悩んでいたのに、私は気付きもしなかった。助けられなかった事を今さら後悔しても遅い。だから、そんな想いを二度としない為にも、一歩踏み出す。
「でも、もう安心して。これからは私が影野君を守ってあげる。もう誰にも影野君を傷つけさせたりはしない!!」
「夢川さん……自惚れるのもいい加減にしてくれ」
「……え?」
しかし、そんな私の一歩は踏み出す事すら許されなかった。
「私が守ってあげる? 冗談じゃない!! そもそも、いったい誰のせいで虐められる様になったと思っているんだ!!?」
「えっ、え?」
「君のせいだよ。夢川さん」
「!!?」
鳩が豆鉄砲を食ったように、私は影野君の言葉を只黙って聞く事しか出来なかった。どうして、どうしてそんな事を言うの。
「気付いていないみたいだけど、君はクラスではマドンナ的な存在なんだよ。クラスメイトの皆が君の事を好いている。それなのに君は俺にばかり話し掛けて来る。当然、それを面白くないと思う人達がいる訳だ。その結果、俺は虐められる事になったんだよ!!」
「そ、そんな……私は……」
胸が苦しい。同時に気持ち悪い。上手く呼吸する事が出来ない。影野君が言葉を発する度、私の体調は悪くなった。嫌だ、聞きたくない。あなたの口からそんな言葉は聞きたくない。
「君が余計なお節介を焼かなければ、俺は何事も無く学園生活を送れたんだ!! こうなったのは全て君のせいだ!!」
「!!!」
そう言うと影野君は、ばつが悪そうにその場から去ろうとする。行ってしまう。止めないと、止めて謝らないと、だけど言葉が詰まって出て来ない。その時、私の脳裏にあの“言伝”が甦る。これだけは何としてでも伝えなければならない。
「……待って……」
「…………」
「おじさん、おばさんから伝言……あの家でずっと帰るのを待ってるって……」
「…………」
そして、影野君は私の前から去ってしまった。一人取り残された私は、呆然と影野君の背中を曲がり角で見えなくなるまで見つめ続けた。
「……うっ……うぅ……ぁあああああ……あああああ……」
私は泣いた。その場にしゃがみ込み、泣き続けた。虐めの原因が自分という事実も悲しいが、それよりも影野君に嫌われてしまった事が悲しかった。
「……そっか……私……影野君の事が好きだったんだ……」
漸く気付く事が出来た自分自身の気持ち。それが余計に悲しさを増大させる。それからしばらくの間、私は一人で泣き続けるのであった。
一方、夢川から離れ、帰路に付こうとしていた影野。
「…………」
「へへ、よう……」
そんな彼の前に協力者の“ラット”が姿を現す。ラットは不適な笑みを浮かべ、影野に近付いて来る。
「どうやら作戦は上手く行ったみたいだな」
「お陰様でな……それで何の様だ? 残りの七十万を取りに来たのか?」
「いやまぁ、それもあるけどよ。それとは別の話だ。驚いたぜ、まさかお前が“怪異人”だったとはな」
「……何の話だ」
「隠さなくたっていい。俺が襲撃した筈のWTSがいつの間にか怪異人による襲撃になっていたんだから、一目瞭然だろ?」
「…………」
「怪しいとは思っていたが、まさか人間に化けられる怪異人とは、こりゃあ前代未聞だな」
「世間話をしている暇はない。さっさと用件を話せ」
するとラットは馴れ馴れしく、影野と肩を組んで来た。
「大した事じゃねぇよ。知っての通り俺は金で動く人間だ。つまりだ、分かるだろう。お前が実は怪異人だという事をバラされたくなかったら、毎月百万払って貰おうか」
「その事を誰かに誰かに話したか?」
「心配するな。まだ誰にも喋ってはいない。口は硬い方だからな。でも、もしお前が払いたくないって言ったら、誰かについ喋ってしまうかもしれないな」
クスクスとイヤらしい笑みを浮かべるラット。そんなラットに影野は深い溜め息を漏らす。
「安心した。もし、お前が誰かに喋っていたら、それを聞き出すのに手間が掛かっていたからな」
「はぁ、いったい何の話をして……」
その瞬間、影野は怪異人の姿となり、ラットの首を右手で切り落とした。首と胴体がサヨナラしたラットは血を吹き出しながら、前のめりに倒れた。影野はそんなラットの死体を冷ややかな目で見つめながら、ボソリと呟いた。
「……今の俺は虫の居所が悪いんだ……」
その時の影野の表情は怒りに満ちていた。それはラットに対してなのか、夢川に対してなのか、それとも……。
一人の女の子を泣かせた影野は、非情にも一人の人間の命を奪った。彼の怪異人としての素質は高まりつつある。
次回もお楽しみに!!
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