新メンバー
前回、無事に脱出する事が出来た影野達。
そんな彼らの前にとある人物が現れる!?
人里離れた山奥。鬱蒼とした木々を掻き分け、獣道を真っ直ぐ突き進んで行くと、やがてそこには周囲に溶け込んだ一軒の洋館が見えて来た。
何年も使われて来なかったのか、所々に埃とクモの巣が目立つ。そんな人気の無い洋館から話し声が聞こえて来る。男と女の声。夫婦の霊か、それともカップルの霊か、どちらにしろ誰もいない筈の洋館から話し声が聞こえてくる関係で、動物達は警戒して近寄ろうともしない。そしてその話し声の正体は……。
「……何とか無事に戻って来られたな……途中、非労運がやって来た時は駄目かと思ったぜ」
「それにしても重孝さん、大丈夫でしょうか? 顔色が優れなかったですけど……」
WTS襲撃から無事に戻って来た近藤と姫宮の話し声だった。二人はリビングで埃とカビだらけのソファに腰を下ろしながら、英気を養っていた。話から察するに影野も無事に戻って来たらしいが、そこに姿は無かった。
「あいつ、戻って来るなり風呂場の場所を聞いて行っちまいやがった」
「今回の作戦で掻いた汗でも流すつもりなんでしょうか?」
「そもそもこの洋館に水とか電気とか通っているのか?」
「それならご安心を。この別荘は近くの川から水を引いており、電気も水車による水力発電で賄っています。さっき確認した所、水車はまだ動いていました」
「そうか、なら良いんだけどよ。礼の一言位あってもバチは当たらないんじゃねぇか?」
「あの方にも色々事情があるのでしょう。私達が口を出すべきかどうか……」
組織が結成されてまだ数日。メンバー同士の交流が少なく、未だ踏み込んだ関係には至れていない。その為、こうした個人のトラブルに対して、日の浅い自分達が果たして首を突っ込んでも良いかどうか、今一つ決めかねていた。
「難しく考えるな。あっちから助けを求めたら助ければ良いし、求めないのであれば、こっちから下手に口を出さない方が懸命だ」
そう言いながら近藤は、ソファに寝そべり始めた。暇そうに背中を掻いて影野が戻って来るのを待った。
「そう……ですね……」
近藤の言葉に渋々納得する姫宮だったが、彼女の目線は影野がいるであろう風呂場に注がれていた。風呂場から漏れる僅かな光を見つめながら、影野が出て来るのを待った。
***
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
水の流れる音。しかし、風呂場には誰もいなかった。音が聞こえていたのはその手前、洗面台からだった。
息の荒い影野は水で必死に自身の両手を洗っていた。こんな朽ちた別荘に石鹸などの固形洗剤は当然無く、水のみで両手を擦り続けていた。皮膚がしわくちゃになっても止めようとはせず、遂には皮膚が裂けてしまい、出血を引き起こした。血と水が混ざり合いながら流れていく。
しかし、それでもしつこく擦るのを止めようとしない影野。まるで何かに取り憑かれたかの様に。
「取れない……取れない……取れない……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら“何か”を拭い取ろうとする。だが、影野の両手にはそれらしい汚れは見当たらない。
「(……初めて……初めて人を“殺した”……)」
影野が拭い取ろうとしていた物。それは罪悪感だった。初めて人を殺めたという恐怖、何も付いていないと分かっていても妙な気持ち悪さを感じてしまい、洗わずにはいられなかった。
「(気にする必要は無い。あいつは俺を脅したんだ。あんな屑を殺した所で何も感じない。社会に蔓延る害虫を駆除したと思えば良い。そうだ、俺は何も間違った事はしていない……なのに……)」
影野の両手は震えていた。勿論それは水の冷たさからでも、ましてや血を流し過ぎたからでも無い。
「…………」
握り拳を作り、無理矢理震えを止める。出しっぱなしの水を止め、ハンカチで両手を拭く。
「っ!!」
ここで漸く、裂けた皮膚がハンカチに触れて痛みを感じた。
「確りしろ……こんな事で気落ちしていたら、これから先何も出来ないぞ……始まったばかりじゃないか……」
自身を奮い立たせ、洗面台を後にする。流れた血が水と一緒に排水溝の中に吸い込まれていく。
***
影野がリビングに戻ると、こちらに気が付いた近藤と姫宮の二人が一斉に振り向いた。
「待たせて済まなかった」
「遅いぞ」
「重孝さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、心配を掛けたな。もう大丈夫だ」
「全く確りしてくれよ。仮にも俺達のリーダーなんだからな。お前が倒れたら、組織が壊滅するんだぞ」
「強さん、そんな言い方……」
「いや、近藤の言う通りだ。俺はリーダーとして自覚が足りなかった」
「「…………」」
「だが、もう吹っ切れた。下手な理想を追い掛けるのは止めだ。目的の為なら手段は選ばない」
「……それなら良いけどな……」
「重孝さん……」
影野の態度に姫宮は一抹の不安を抱くが、先程の会話を思い出し、無闇に口出しはしない事にした。
「さて、こうして無事にWTSから全世界に向けてメッセージを送る事が出来た訳だが……」
「その事で聞きたいんだがよ。あのメッセージにはこの場所の事、教えなかったよな」
「あぁ、そんな事をしたら非労運達に攻めて来て下さいと言っている様な物だからな」
「それでどうやってメンバーを集めるって言うんだよ? 場所を知らなかったら、集まろうにも集まれないじゃないか!?」
「それこそが狙いだよ」
「どう言う意味だ?」
「いいか、これから俺達は秘密裏に組織を拡大して行く訳だが、表の組織みたくデカデカと広告宣伝する訳にはいかない。そんな事をすればアジトの場所がバレかねない」
「秘密結社ですからね……」
「かと言って、裏の世界の連中に片っ端から声を掛けるのも危険だ」
「何でだよ?」
「秘密を共有する者が増えれば増える程、バレるリスクは高くなる。何処で情報が漏れるか分からないからな。それに結成したばかりで人数が少ないと知られれば、安全に住める場所を奪おうとする奴らがやって来る可能性だってある」
「成る程……話は分かったけど、じゃあどうやって仲間を集めるって言うんだよ」
「それはだな……ん?」
説明しようとしたその時、外に生き物の気配を感じ取った。それに気が付いた影野は逸早く怪異人に変身した。影野だけで無く、近藤と姫宮も気配に気が付き、即座に体制を整えていた。
「獣か?」
「いや、それにしては迷い無くこちらに歩いて来ている。全く警戒していないという証拠だ」
「追い掛けて来た非労運でしょうか?」
「いや、恐らくこれは……」
『メッセージの意図を汲み取り、自力でこの場所を見つけ出した新メンバー……でしょ?』
「「「!!?」」」
突如、背後から声が聞こえて来た。三人が慌てて声のした方向に振り向く。すると、つい先程まで誰もいなかった場所にメイド服を来たつり目で青髪のおさげをした“人間”の女性が立っていた。
何の前触れも無く突然現れた彼女に驚くが、それよりも驚くべき光景が目の前に広がっていた。それは彼女が大事そうに抱えているガラス瓶にあった。中は緑色のねばねばとした液体が瓶一杯に詰め込まれており、その中心には何と“脳ミソ”が入っていたのだ。
「な……あ……」
「これはいったい……」
「あ……あ……」
三人が呆気に取られていると、メイド服を着た女性が喋り始める。
「ねぇ、今の予想当たってるかな?」
口調からは信じられない程の無表情で、口だけをパクパク動かしながら喋る彼女。影野は戸惑いながらも、問い掛けに答える。
「あ、あぁ……その通りだ」
「やった!! 思った通りだ!!」
「お、おい影……マスターグレー、これはいったいどう言う事だよ。ちゃんと説明しろ」
新メンバーの前もあり気を使ったのだろう。本名では無く、リーダー名で呼ぶ近藤。その気遣いに感謝しつつ、影野は先程しようとしていた説明をする。
「これは一種の入団テストでもあったんだ」
「入団テストだと?」
「俺達の組織はこれからもっと力を付けなければならない。だが、だからと言って適当にその辺のどんな力があるかも分からない連中を大量に勧誘するよりも、少なくとも実力のある者を勧誘する方が良いと思ったんだ」
「じゃあこいつがさっき言っていたこの場所を見つけ出す事が……」
「入団テストだった訳だ。ほぼノーヒントの状態から、この場所を見つけ出せるという事はかなりの実力者なのは間違いないからな」
「それならそうと先に言えよ……」
「いや、まさか俺もメッセージを送ったその日に来るとは思わなかったんだよ」
「あのー……」
二人の口論に対して、気まずそうに声を掛けるメイド服を着た女性。
「それで僕は……合格ですかね?」
「あっ、えっと……悪いが少し待っててくれ」
「は、はい……」
メイド服を着た女性を尻目に、コソコソと三人だけで話し合う。
「どうする?」
「どうするも何も無いだろう。あんなのどう見たって人間じゃないか!?」
「いや、それはあり得ないな」
「何でだよ!?」
「もし、本当に人間だったらわざわざ俺達の目の前に現れて悠長に会話する訳が無い。恐らく彼女も俺と同じ人間に変身出来る怪異人なんだろう」
「私もそう思います」
「け、けどさ……」
「それに見ただろう。一瞬で俺達の背後に現れたのを。何らかの能力持ちであるのは間違いない」
「……分かったよ……認めるよ」
「ありがとう」
会話を終えた三人。影野が代表してメイド服を着た女性に話し掛ける。
「待たせたな、合格だ。歓迎するよ、我が組織にようこそ」
「本当ですか!!? やったー!!」
相変わらず無表情な彼女。声質から喜んでいるのは確実なのだが、表情筋が死んでいるのか如く、ピクリとも動かない為、何とも言えない空気だった。
「まぁ、とにかく新メンバーが加わって良かったぜ。それに女性が二人に増えて組織もより華やかになったな」
「えっ、女性って?」
「何言ってるんだ? ここにいる姫宮、そしてお前の事だよ」
「ちょっと冗談は辞めて下さいよー」
「は?」
「僕、“男”ですよ」
「「「えぇえええええええ!!?」」」
衝撃の告白に三人は驚きの表情を隠せなかった。
「う、嘘付くんじゃねぇ!!」
「嘘なんかじゃありませんよ」
「だ、だってその格好……何処からどう見ても……」
「格好? あっ、もしかして“こっち”と勘違いしてます?」
「え?」
「このメイド服を着ているのは、僕が開発したロボットですよ」
「「「えぇええええええええ!!?」」」
本日、二度目の叫び声が響き渡る。
「じゃ、じゃあまさかお前の本体って……」
そう言いながら近藤は、ワナワナと瓶詰めの脳ミソを指差す。
「はい、“超頭脳型怪異人”の“花村大悟”って言います。今日からよろしくお願いします!!」
「「「…………」」」
こうして脳ミソだけの仲間が加わったのであった。
脳ミソだけの怪異人“花村大悟”が仲間になった!!
次回、彼の能力が明らかとなる!!
次回もお楽しみに!!
評価・コメント・ブックマークお待ちしています。




