姫宮家の闇
お久し振りです。
もう片方の小説、笑顔の絶えない世界season2~道楽道化師の遺産~の方ばかり書いている為、こちらの小説は進行がかなり遅いです。どうか気長にお待ち頂けると幸いです。
「…………ん……んん……」
どうやら一瞬、気を失っていたらしい。うつ伏せの状態から立ち上がる。上を見上げ、落ちて来た場所に手が届くかどうか確かめる。
「……戻るのは無理か……」
案の定、手の届かない位置にあった。頭や肩に被った木屑を取り除きながら、周囲を探索する。
「ここはいったい……?」
そこは薄暗く、埃っぽかった。上の穴から差し込む僅かな光のお陰で、その部屋の全貌がうっすらと見える。薬品棚に見た事の無い液体が入った瓶が立ち並んでいる事から、薬品室である事が伺えた。
「(妙だな……上の部屋は綺麗に掃除されていたのに……ここは全く手入れされていないぞ)」
まるで時が止まったかの様に、手が加えられた様子は一切無かった。もしかしたら、意図的に避けていたのかもしれないと、そう思うのに時間は掛からなかった。
「(この部屋に何かあるのか?)」
慎重に歩き出す影野。何か手掛かりになる物はないかと探し回る。
「(これは……“義手”?)」
見つけたのは壁に飾られた複数の義手だった。右腕、左腕とそれぞれあった。また、その近くには義足も飾られていた。
「丁度良い、これを貰おう」
これ幸いと何の疑問も抱かず、壁に飾られた右腕の義手を外し、失くなった右腕に装着した。
「っ!!……すごいぞこの義手、自分の意思で指まで確りと動かせる」
以前の腕と変わらない動きが出来る事に、喜び以上に驚きを感じていた。するとその時、何処から途も無く“キィ……”と、何か扉が開く音が聞こえる。
「ん?」
音のした方向に顔を向けると、別の部屋に通じる扉が半開きになっていた。どうやら影野が上から落ちて来た衝撃で金具の一部が壊れてしまった様だ。
「…………」
人間誰しも扉の先がどうなっているのか気になってしまう。それが半開きの状態なら尚更だ。そしてそれは影野も例外では無く、特に何も考えずに半開きの扉を開けた。
「これは!!?」
そこに広がるのは血だらけの手術台、割れたガラスの破片が床に散らばっており、そして何より白衣を着た白骨死体が転がっていた。正に凄惨な現場であった。
「ここでいったい何があったんだ……」
そんな場所に、恐る恐る足を踏み入れる。ここだけ材質が異なるのか、歩く度にその足音が反響して来る。すると足下で何かを見つけた影野。
「これは……ネームプレートか?」
会社によって、職員などが身分証明の証として付ける事が義務付けられているネームプレート。そんなプレートを拾い上げ、名前を確認する。そこには“姫宮金造”と書かれていた。
「姫宮金造って、確かこの屋敷の主人で、姫宮グループのCEOだよな。そんな人が何故こんな所で……」
一向に謎は深まるばかりだった。そんな中、手術台の上に一冊の本が置かれている事に気が付く。
「これって……」
それを何気無く開く影野。それは姫宮金造による手記だった、しかしそこに書かれていたのは、おぞましい“人体実験”についての記録であった。
◯月×日
今月、初めて我が社の業績が赤字になった。これも全て怪異人のせいだ。我が社が開発した数え切れない兵器を尽く打ち破り、無力化してしまった。当初こそ、対抗する手段がそれしか無かったお陰で売れた。特に負傷した兵士の手足を補う為の義手や義足は飛ぶ様に売れた。しかし、そこに非労運という存在が現れた。怪異人と対を為す存在。それによって我が社の兵器は必要とされなくなり、全く売れなくなってしまった。このままでは不味い、何か打開策を取らなければならないであろう。
×月◯日
素晴らしいアイデアを思い付いた。こっちも非労運を作ってしまえば良い。これまでの機械兵器とは全く異なる人体兵器。そうすれば我が社の業績は、うなぎ登りとなるであろう。まず必要な人員を集めなければならない。研究スタッフに被験者も数名必要だ。場所は私の屋敷の地下で行う事にしよう。この様なモラルに反する行為は、決して周囲に知られてはならない。
◯月◯日
全く上手く行かない。あれから何体もの被験者で実験を試みたが、どれも望む様な結果は得られなかった。そして今日、遂に予算が底をついた。念には念を入れて億単位で挑んだのにも関わらず。研究スタッフも全員逃げ出した。これ以上、冒涜的な実験は出来ないと言い捨て。今まで誰のお陰で飯が食えたと思っているんだ。この恩知らずめ!!
×月×日
悪い状況は重なる物で、最近警察が私を疑い始めた。被験者に手頃なホームレスを使い過ぎたのが原因だ。軽い失踪事件になっている。非常に不味い状況だ。代わりのスタッフを雇おうにも金が無い。被験者を集めようにも、警察が周囲を巡回している。いったいどうしたら良いんだ…………。
◯月△日
もう駄目だ……何もかもおしまいだ……どうしてこんな事になってしまったんだ……私は只、あの輝かしい時代を取り戻したかっただけなのに……ふかふかの椅子に腰を下ろし、部下達を顎で使うあの生活に戻りたかっただけなのに……私だって元は優秀な科学者なんだ、被験者さえいればスタッフの力を借りず、自力で出来るのに……。
×月△日
今日、妻と娘に安否の声を掛けられた。どうやら最近、研究に没頭し過ぎて休む事を忘れてしまっていたらしい。そんな私を心配した娘が料理を作ってくれた。大好物のハンバーグだった。初めて自分一人で作った為か、形は少々歪であり、また胡椒の配分量を間違えたのか、少し辛かった。けど、とても美味しかった。そう娘に伝えると、娘は『これから毎日作ってあげるね』と言ってくれた。私は幸せ者だ、こんなに優しい妻と娘が側で支えてくれているのだから。私は少し焦り過ぎたのかもしれない。その内、手頃な被験者が現れる……手頃な……被験者……手頃……な………………いた。
△月△日
遂に完成した。人為的に作り出した怪異人が。二体の内、一体は駄目にしてしまったが、それでも成功に変わりない。早速、大手軍事産業グループに売り込む事にしよう。この化物を見れば皆驚くに違いない。ありとあらゆる企業が、金に糸目を付けず群がるだろう。そしてその金を元手に量産し、全世界に発信。そして行く行くは、この私が軍事産業のトップに返り咲く事に──────(ここで文章が途切れている)
「……何だよこれ……」
記された事実に怒りを覚えた。自分の事では無いが、どうしても他人事にする事が出来なかった。姫宮金造の非道な実験の数々、そして絶対に犯してはならない罪。影野の怒りは頂点に達していた。
「見つけましたわ」
すると影野の背後に、怪異人の彼女が姿を現した。
「まさかこの場所まで見られてしまうとは……やはりあなた様には、死んで貰わなければならない様ですね」
「ふざけんな……」
「……何ですか?」
彼女の声は影野に届いていない様子だった。持っている手記を握り締め、爪を食い込ませる。怒りのあまり歯茎を剥き出し、全身をプルプルと震わせていた。
「ふざけんなぁあああああ!!!」
「!!?」
怒鳴り声を上げる影野。その瞬間、肉体に変化が表れる。バキバキと骨が変形する音が響き渡り、手足が長く伸びる。右腕の義手が外れ、そこから新たな右腕が生成された。それぞれの指は鉤爪の様に尖り、全身の皮膚は灰色に変色した。そして顔はまるで鬼の形相をしていた。
「あ、あなた様はいったい……!!?」
「俺か、俺は……怪異人だよ」
そこに立っていたのは、影野が変身したいつぞやの怪異人の姿であった。
遂に怪異人へと姿を変えた影野。
果たしてその実力は!?
次回もお楽しみに!!
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