第七十四話〜膝枕〜
投下です!
***
悩みもすっかり……とは行かないまでもかなり軽くなったある日の事だった。
この日は休日、ゆっくり考え事をしていたのだが……俺はまた一つの問題にぶつかった。
「なぁシージア、思ったんだが、俺ってこれ以上強くなれるのか?」
『…………もちろんですよ!』
おいなんだ今の間は。
二秒くらいあったぞ。
「本当に? 技術的な問題じゃないぞ?」
『……難しいですね』
「だよなぁ」
知ってたけどなんかこう、悲しいぁ。
鎧の魔力伝導率を上げたり素材を変えたり新しい武術を覚えたりして強くなることはもちろん可能だろう。
だが、言ってしまえばそれだけだ。
どれだけ武器を作ろうと、武術を修めようと、鎧を強くしてもシーニャさんのような圧倒的な強者に勝てる気がしない。
『うーん、あれですか? 漫画の主人公みたいな覚醒的なことがしたいんですか?』
「いや……そこまで一気にじゃなくてもいいから強くなりたいな。なんか覚醒する手段でもあるのか?」
そんなのあったら困らないんだけどなぁ。
なんかアイテム集めたら強くなるとか敵を倒したら強くなるとか。
『そんな貴方に朗報です、一つ方法があります』
まあそんな都合のいい事が……なんだって?
「今、あるって言ったか?」
『言いましたよ』
「教えてくれぇぇぇぇ!」
『そんなに必死にならなくても教えてあげますよ……でもそんな方法があるならなんで私がこれまで言わなかったんだって話じゃないですか。何故これまで言わなかったかわかりますか?』
確かにそうだな、何かデメリットがあるとみて間違いないだろう。
うーん、覚醒の代償といえば……
「臓器の機能を一つずつ失うとか、寿命が削られるとかか?」
『いや怖っ⁉︎ なんてものを想像してるんですか! 完全にヤバいやつじゃないですか!』
「シュンヤ戦の時に言わなかったくらいだし、それくらい重いのかなー、と」
『確かに重いのは重いですけど……そこまで陰湿なものじゃありません。ただ単に廃人になったり死んだりするだけです』
「いや普通に重くないか?」
廃人て、ほぼ死んでると同じじゃん。
まだ即死しない分、寿命が減る方がマシな気がする。
「まあそれは一旦は良いとして、どうやって強くなるんだ? なんかアイテム的なものとか要るのか?」
『なーに、簡単な話ですよ。鎧を脱いで鎧に意識を移しちゃえば良いんです』
え?
「そ、それだけでいいのか?」
『ええ、意識を鎧に移すだけです。それで数倍には戦闘能力は跳ね上がるでしょう。跳ね上がるのはあくまで“戦闘能力”のみですからね』
「分かった、でもなんで今になって教えたんだ? そのデメリットとやらが関係しているのか?」
『ご明察です。では理由を説明しましょう』
「ああ、頼む」
『理由は二つあります、まず一つとして、貴方が鎧に馴染んでいないという事です。わざわざ体を作ったのはそう言う訳ですね、一気に鎧に意識を移すと発狂して廃人になるか死ぬかです』
「それが今、馴染んできたから大丈夫そうだって事か」
『ええ、そうです。二つ目の理由としては、鎧の能力の問題です。これをある程度使いこなせないと自分の形さえ安定しませんし、五感がほとんど、というか全く無くなります』
「そりゃ怖いな……」
『という訳でこれまでは伝えませんでした。無理されても困りますしね』
「じゃあ今はもう脱いでもいいのか?」
シージアが言ったということはもう大丈夫なんだろう。
善は急げと言うし、何があるか分からないから早いとこ慣れておきたいものだ。
『ええ、ですがちゃんと自分の身体をベッドとかに寝かせておくんですよ。硬いところとかに置いとくと後で痛いですよ』
間違えてフローリングで寝てしまった時みたいな感じか。
あれ、地味に痛いんだよなぁ……
と、そんなことはどうでもいいのだ、早速脱ごうではないか。
接合部を頭から順に外していく。
そして左手の籠手だけ残して組み立てる。
微妙にバランスが悪いので床に寝かせている……が、こんなところ人に見られたら終わるな。
全裸で鎧を組み立てている大男だ、不審者でしかない。
……よし、組み上がった。
「いよいよだな」
『いよいよですね』
ベッドに寝転び、布団を被る。
そして左手の籠手を外す。
その瞬間、俺の意識は途切れた。
***
……ここはどこだ?
見慣れた瓦ぶきの屋根の住宅にブロック塀、遠くに見える高層ビル群、踏切の音が響く街並み、間違いない、日本だ。
だが見たことのあるような無いような、そんな街並みだ。
いわば典型的な郊外だ。
俺は高校生、鎧坂彰人の姿に戻っている。
お気に入りのジャージに白シャツに幅広ランニングシューズ。
ジャージのポケットにはスマホが入っている。
電源は点いたが、見慣れたホーム画面が目に入るだけで圏外だ。
アプリも開かない。
とりあえず移動しよう。
ここに居るだけじゃ何も始まらない。
久しぶりのアスファルトを踏み締め歩く。
それにしても不気味だ、踏切の音は聞こえるのに自動車も通らなければ人も居ない。
なのに自動車の音などの生活音はどこからか聞こえてくる。
何故か心が躍る、自然と足が弾む。
無性に走り出したい気分だ。
気づけば走り出していた。
「はははっ!」
なんだろう、この気持ちは。
ああ、楽しいなぁ。
ん? 何故だろう、あの曲がり角、やけに見覚えがある。
「うおっ!」
「きゃっ!」
ドン、と衝撃とともに女の子の叫び声がした。
人が居たのか!
顔を上げると目の前に美少女が居た。
パーカーというかコートのフードを深くかぶっているため、髪型はよく分からない。
だがスッと通った鼻筋、整った眉、大きい目、外人のような綺麗な顔をしている。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です……ってアキトさんじゃ無いですか! 探したんですよ!」
なんで俺の名前知ってるんだ?
こんな美少女と面識なんて無いんだが……
「えーと、もしかして会った事あります?」
手を差し出しながら問いかける。
その美少女は手を握り、立ち上がる。
おおう、柔らかい。
「会ったことあるも無いも、私達の関係ですよ⁉︎」
「え?」
全く記憶に無いぞ?
こんな外人じみた顔の人なんて親戚に居ないぞ?
「私ですよ! シージアです!」
……え?
「……え?」
「なーにが『え?』ですか! こっちのセリフですよ! 転生する時に姿を見たでしょう?」
「い、いや、え、えぇ? いや、あの時はローブで顔が見えなかったし……こんな、なんというか、か、可愛いとは思わないじゃ無いか……」
そういうとシージアはニヤーっと笑い、フードを外した。
そして抱きついてくる。
や、柔らかい触感が腕に⁉︎
「当たってる! 当たってるって!」
「当ててんですよ」
「━━━━━━━っ!」
思わず顔が真っ赤になる。
シージアはそんな俺を見てニヤリと笑うと、
「一度やってみたかったんですよねっ」
こ、こいつめ……
「ってこんな事してる場合じゃ無いんですよ。さっさと起きないと」
「起きる? ここは夢なのか?」
「うーん、遠くはないですが……アキトさん、ここは貴方の精神の中です。貴方のイメージとしての日本がこの街です。ちょっとまだ馴染みきって無かったみたいですね」
そうなのか、通りで楽しいわけだ。
俺の理想のような街な訳だからな、当たり前だ。
「で、起きるって具体的にはどうしたら起きれるんだ?」
「私、アキトさんのそういう飲み込みが早い所好きですよ。んでもって起きる方法はですね、この世界で寝ましょう。そして次に起きたら戻ってます」
「それだけでいいのか?」
「ええ、でもアキトさんがこの世界から戻って来れるのも私のおかげですからね? 私が居なかったらこの世界を永遠に彷徨い続けて最後には発狂しますからね」
「マジかよ……」
だから廃人になるのか……怖い怖い。
ていうかこの世界が出てきた理由がいまいち分からないが……考えても仕方ない事だろう。
だが問題は別にある、
「俺、どこで寝たらいいんだ?」
流石にアスファルトに直で寝ると言うのはちょっと……
硬いわ冷たいわで寝にくい事この上無い。
「うーん、そうですね……」
顎に手を当て、しばらく考える素振りを見せるシージア。
しばらく考えると地面に足を投げ出して座って膝をポンポンと叩き、
「膝枕です」
さも当然のようにそう言った。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいかなー、なんて思ったりするんだが」
「そんな事気にしてたら負けですよ」
「あ、ああ」
寝転びシージアの太腿に頭を乗せると、シージアがコートを脱いで掛けてくれた。
ああ、柔らかい、良い匂いがする。
いかん、愚息が……落ち着け、般若心経を唱えるのだ。
かんじーざいぼーさーぎょうじんはんにゃーはーらーみーたーじーしょーけんごー……
なんだかだんだん眠くなって来た。
愚息も治った事だし、ゆっくり寝させてもらおうではないか。
シージアとはいえ、美少女に膝枕で寝かしつけて貰えることなんて無いのだから……
膝枕、良いですねぇ。
私もされたいです。
次回投稿は明後日の予定です!
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