第六十五話〜持つべきものは友〜
投下です!
***
ああ、俺の財布が遠くへ離れて行く。
何故だ、何故、ああ、いくら走っても追いつかない。
ただただ離れて行く、何故だ、身体が重い。
ああ俺の財布よ、財布……
「財布ぅぅぅぅぅぅ!」
『うおっ、びっくりしました……そんなに騒いだらほら、看守さんもびっくりしてますよ』
ん? 看守さん?
起き上がってあたりを見回すと何事かといった表情でこちらを見る若い衛兵と目があった。
「あ、どうも」
「ど、どうも」
「…………」
「…………」
なんだこの気不味さは。
まるであんまり親しくない知り合いと駅のホームで鉢合わせた時みたいな雰囲気じゃないか。
あ、目を逸らした。そんでもってどこかに歩いて行った。
(で、看守がいるということは俺は捕まったのか?)
『はい、そうなりますね。それで今は王城のすぐそばの衛士詰所兼拘置所みたいなところの牢屋に入ってます』
(ふむふむ……どうしよう)
逃げるとか……論外だな。
そんな事をしたらこの国に居られなくなってしまう。
「おい、こっちにこい」
そう言ってガチャリと鍵を開ける。
おいおい、ちょっと不用心が過ぎるんじゃありませんかね?
「あ、はい。わかりました」
ここは大人しくしておこう。そっちの方が得策だろうからな。
***
「で、なんであんな事をしたんだい?」
「いや、あれは大きな誤解なんですよ」
「ここに来る人はみんなそう言うんだ、何かお金にでも困っていたのかい? 僕で良かったら相談に乗るよ?」
事情聴取みたいなのを受けているのだが尋問官の神父さんっぽい人が全然話を聞いてくれない。
見た目は五十代くらいの丸眼鏡のイケオジ……なんか銃剣投げ付けて叫んでそうだな。
でも口調は優しいな。
「いや一回話を聞いていただけますか?」
「はいはい、全然構いませんよ」
あら、話が通じるお方だったようだ。
「今日は自分の初給料日だった訳です━━━━━━━━━」
俺は事細かに語った。
今日の午後の出来事を。
「それは大変でしたね、じゃあ結局はその少年と三人組が悪いのかい?」
「はい、そうです。自分は純然たる被害者な訳ですよ!」
「うーん、その人たちの名前とかってわかるかな?」
「残念ながら……」
「王都に誰か知り合いは居るかい?」
「はい、王城で侍女をしているシーニャさんと“旅の揺り籠亭”という宿屋をしているマーサさんとその娘のアンナちゃん、後は神官のセリナさんとは知り合いです。というか自分もそこで働いてます」
言ってから思ったのだが言っても良かったのだろうか。
シュンヤとルーミラさんは王都の住人かよくわからないから除外しておいた。
「ああ、王城の侍女の方と知り合いなのかい? それなら話が早いよ、呼んでくるから少し待っててね」
そう言って席を立つ神父さん。
そういえばあの人の名前はなんと言うのだろうか。
事情を説明するのに必死で聞くのを忘れていた、だが神父さんも何故自己紹介をしなかったのだろうか……あ、そうか。
逆恨みでもされたら大変だろうからな。
(なあシージア)
『はいはい、なんでしょう』
(あの転生者のブーストって魔法なにかわかるか?)
『勿論わかりますよ。じゃあ説明して差し上げましょう、あのブーストという魔法は魔法の威力を上げる魔法です。そのままの意味ですね。ですがお世辞にも効率が良いとは言えないので全くと言って良いほど広まっていない魔法ですね』
ふーん、効率が悪いのか……
やっぱり魔力量が桁違いなチート転生者にしか使えないという事だろうか。
チクショウめ、羨ましいじゃないか。
(この鎧ってある程度魔法に強いだろ? アダマンタイトとどっちが耐性があるんだ?)
『うーん、微妙なところですね。電撃魔法や麻痺魔法といった類には今の方が強いですが石礫や氷を飛ばしてくる運動エネルギー重視の魔法だとアダマンタイトの方が物理的な面で耐性はあります』
そうか……じゃあ最初にタングステンが手に入った頃と同じく重要部位を守るように使うとするか……
ありがとう、シーニャさん。
(全く話は変わるんだが、麻痺魔法とかどんな仕組みで麻痺するんだ?)
『うーん、大まかに言えばスタンガンと同じで高電圧かつ微弱な電流を流す事によって体内の電気信号を狂わせる事によって体を思うように動かせなくするものが一般的ですね。電撃魔法に非常に似ていますね』
スタンガンと同じか……じゃああの転生者は俺に麻痺魔法の後に電撃魔法を撃ち込んで来たから二度手間だったわけか?
と、そんな事を話していると、
「アキトさん!」
「うおっ⁉︎」
ドギャバァン! と金属製の重そうなドアが勢いよく開けられる。
そこにはシーニャさんが仁王立ちしていた。
後ろから神父さんがゼェゼェ言いながら走ってくる。
「ど、どうも」
「どうもじゃありません、何故あの様な事をしたのですか!」
大股で無表情のまま詰め寄ってくるシーニャさん。
目が怖い怖い怖い。
「ちょ、ちょっと待ってください! 冤罪です冤罪!」
するとシーニャさんは一瞬フリーズして、
「そうなんですか? 神父さんは貴方が少年を恐喝して金を脅し取ろうとしたと……」
ちょうどその時神父さんが息を切らしながら追いついて来た
「ま、まだ説明の、途中で、ハァ、ハァ、その方が、冤罪かもしれないという事を、説明しようと……」
「これは私としたことが早とちりだった様ですね。申し訳ありませんでした」
ぺこり、と頭を下げるシーニャさん。
意外と慌てん坊さんだったんだな。
「で、一体何があったのですか?」
「実は━━━━━━━━━」
かくかくしかじかうんぬんかんぬん。
するとシーニャさんは、
「では捕まえに行きましょう。顔は覚えていますか?」
「はい、それはもうしっかりと」
「なら話は早いですね」
絶対に捕まえてやる、そう意気込んでいると、
「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ彼の無罪が確定したわけじゃないので……」
「そうでしたね」
そうだった、完全に忘れてたぞ。
一応俺は犯罪者なのだ、冤罪だけど、冤罪だけど、大事な事だから二回言った。
「では証明書を書くのでそれでお願いします」
「い、良いのかい?」
「はい、構いません」
「……わかった、ちょっと待っててね」
証明書ってなんだ?
なんの証明書だ?
「証明書ってなになんですか?」
「証明書というのは“釈放保証人証明書”の事ですね。なんの目的でいつになったら戻って来るというのを証明するためのものですね。なのでそれを守らないとかなり重い刑罰が待っています」
「そ、そんな大仰な物、良かったんですか?」
「何が大仰ですか、友人のためです」
「……ッ、シーニャさん。ありがとうございます」
どうやら俺は友人という物に恵まれているようだ。
本当に感謝しなければ……
いかがだったでしょう?
次回投稿は明日、二月十一日とさせていただきます!
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