第六十一話〜シーニャさんの酒飲み講座〜
投下です!
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「アキトさん、お酒は飲めますか?」
「あー、飲んだことないですね……」
「じゃあ今日がお酒デビューということで良いですか?」
「はい」
「ちょっと持ってくるので待ってて下さいね」
場所は変わってシーニャさんの部屋、アンナちゃんはもう就寝済み、シーニャさんにお酒でもどうですか? と聞かれた次第である。
正直この体になってから飲んだことはないのが、まあ大丈夫だろう。
……でも心配だからシージアに一応聞いておくとしよう。
(アルコールとかって)
『大丈夫です』
(あ、ありがとう)
早っ⁉︎ 答えるのめっちゃ早くなかったか?
ていうかなんか機嫌悪い?
女心は全くわからんからな、迂闊に何か聞くと逆効果になりそうなのも怖い。
触らぬ神に祟りなしと言うしな、神以上の存在に当てはまるのかは知らないけど。
「お待たせしました」
どうやらシーニャさんが戻って来たようだ。
ドンっ、と酒瓶をテーブルの上に置くが……多くない?
パッと見ただけでも十本超えてるんだけど。
ていうかガラス瓶なんだな。
やっぱり錬成魔法で作られているのだろうか。
色付きガラスに江戸切子のような模様まで入っていて非常に凝った見た目になっている。
ラベルも紙製のものでこれは……手書きか?
職人さんの努力が垣間見えるようだ。
「これは度数が十五度ちょっとと低めのものです」
……え? 十五度ちょっとで低め? 何を言っているんだこの人は。
十五度と言ったら日本酒と同じじゃないか、ビールとか五度だぞ五度。
「どうぞ、最初はニホンシュを、これは転生者たちが伝えたと言われていてどんな温度でも美味しくいただけるのが特徴です。これはニホンシュの中でも甘めのものなので飲みやすいはずです」
ニホンシュ……日本酒か!
転生者達が伝えたのか、やっぱり日本が恋しいんだな。
でも転生者は日本人だけじゃないかもしれないだろうからウイスキーとかもあるかもな。
「いただきます」
これまた切子細工の綺麗なグラスになみなみに注がれた日本酒にバイザーを跳ね上げ、口をつける。
「これは……」
丸みのある口当たりになめらかな甘み、キメの細かい酸味が続く。
鼻をスッと抜けるフルーティーな香り、そしてキレがある後味。
これは確かに飲みやすい。グラスを呷る手が止まらない。
「ふふふ、気に入って頂けたようで何よりです。私もとっておきを出した甲斐がありますよ」
僅かに口角が持ち上がっている。
「ありがとうございます、でも俺のためにこんな……」
「いえいえ、貴方がお酒を好きになってくれるための先行投資ですよ。これからも付き合ってくださいね?」
「はい、喜んで!」
……ん、待てよ?
今の意味って━━━━━━
「ささ、もう一杯」
「ああ、ありがとうございます」
では私も、そう言って自分のグラスに注ぐシーニャさん。
それにしてもすごいペースだ、お酒には強いようだ。
俺も飲んではいるものの、一升瓶をあっという間に一本空けてしまった。
「さて、度数を上げて次は蒸留酒と行きますか。度数は約四十度です」
よ、四十度だと……
「どうぞどうぞ」
「これは?」
「これはスナッフィと言うお酒でこの国の北の方で作られるものです。主に大麦などの穀物、水と酵母のみで作られています。バミの木の樽で十二年ほど熟成させたものになっています」
ほうほう、作り方だけ聞いているとスコッチウイスキーみたいな雰囲気だな。
さて、スコッチウイスキーは人を選ぶというが、どんなものだろうか。
トクトクトク……そんな心地良い音を立てて広口のグラスに三分の一ほど注ぐ。
なんかシーニャさんがニヤニヤしているのが怪しいがここは腹を括ろう。
覚悟を決め、グラスに口を付ける……
「な、これ、ごふっ、げっほげほ」
あ、あかん、これは。
アルコール度数がキツすぎて飲めないぞ!
「くっ……ふふっ」
シーニャさんが思わずといった様子で笑い出す。
これは知っててやったな……?
やっぱり酔ってるようだ、よく見るとほんのり顔が赤い。
「やっぱりキツイですよね、そんな時はこうするのです」
スッとどこからかお湯を取り出すシーニャさん。
それをウイスキーに注ぎ、マドラーでカラカラとかき混ぜる。さっきはアルコールの匂いでかき消されていた香りがふわっと漂う。
「これでかなり飲みやすくなったはずです。これに蜂蜜を少し入れます、するとぐっと飲みやすくなります。ちなみにお湯は八十度程がベストですね」
「詳しいんですね」
「いえいえ、少し好きな程度ですよ。ささ、冷めないうちにどうぞ」
勧められるままに一口飲む。
これは……花のような香りが鼻腔を通り抜ける。
蜂蜜がウイスキーの雰囲気をまるやかにしていて非常に相性が良い。
リラックスできるような味だ。
あー、体があったまる。
「これ、美味しいですね」
「でしょう? ですが今日はこれくらいにしておきましょうか。明日の仕事に支障が出てはいけませんからね。それにアキトさん、かなり酔っているでしょう?」
あー、確かに。
初めてでかなり飲んだからな……思考がうまく纏まらなくなって来た。
アルコールが回って来たようだ。
いやでもなんかすごい勢いで酔ってないか?
頭の回転が遅くなっているのが自分でもしっかりわかる。
「シーニャさん……」
そのまま俺の意識は途切れたのだった。
いかがだったでしょう?
書き始めると意外に楽しかったので一話丸々使ってしまいました……
その代わりと言ってはアレですが今日中にもう一話投稿したいと思っております!(出来たら、ではありますが……)
感想、ブクマ、評価等いただければ嬉しいです!




