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かの王は、残虐であり、無慈悲であると言われていたが、唯一の妃をそれはそれは愛したという。
「お金が無い。。。」
そうこぼしたのは、シャルロットという少女であった。ここは孤児院。
シャルロットは孤児であった。そしてそのままシスターとなり、孤児ーここでは妹、弟、あるいは娘、息子というーの面倒を見ているのであったが。
「お金が無い!」
再び、今度は力強くシャルロットは言った。
ここのシスターは皆、「あらあら」と微笑んで、子供に絵本を読み聞かせしている。
シャルロットがお金を管理するまで、よく言えばおおらか、悪く言えばどんぶり勘定の孤児院で、いつ潰れてもおかしくなかったのだ。
最近は、妹のレイアが一緒に帳簿をつけてくれるようになった。レイアはどケチである。シャルロットは、そろそろ免許皆伝して呑気な生活をしたいと考えている。
シャルロットはシスターではあるが、神が全てを与えてくれるとは思っていない。求めて求めて努力して、結果が与えられるものと知っているし、世の中には叶わぬことだってたくさんある。
目の前で病気の弟を亡くしたこともあったし、ここが孤児院だと知って子供を押し付ける母親も見た。かくいうシャルロットでさえ、6歳の時に孤児院に預けられたきり、親とも会っていないし、親の顔は記憶にもない。
シャルロットがうんうん言っているのにも、きちんと理由がある。先月の嵐によって、畑の作物はダメになり、さらには屋根が吹き飛んだ。そして、とどめは。
シャルロットが嵐の中屋根を修繕し、熱を出してしまい。
その間、シスターたちは浸水した床の修理を業者に頼んだのであった。
もちろん、シャルロットは子供たちと直すつもりであったが。
以上のことを受けて、レイアは激怒した。しかし、シスターたちは「あらあら」と笑い、いつものように神様に祈る。まさに暖簾に腕押し。
シャルロットは、シスターはなんて祈るのだろう、「お金をください」かしら、なんて現実逃避しては、ため息をつくのであった。
そうして。
シャルロットは帳簿とにらめっこすること小一時間。
「お金が欲しい!」
お金のことばかりを考えていたのがいけなかったのだろうか。バチが当たったのだろうか。
シャルロットは誘拐されていた。それはそれは丁寧に。
馬車で運ばれている間も、自分のお尻の下にあるクッションがそれはそれはふかふかで。
お尻の下に甘んじる素材じゃない、せめて頭に昇格させたい位には素敵なクッションだ、と脳内でクッションを褒めちぎる。
身代金とか請求されたら、あのレイアだって必死でお金をかき集めるだろう。お金のために体を売ったりなんて、しないだろうか。そんなことは絶対にダメだ。何としても、帰らなければいけない。
シャルロットが帰る意思を強めている間に、どうやら馬車は目的地に着いたようで。
丁寧に馬車の扉を開けられ、さらにはエスコートまで。
えらく丁重な誘拐だな、と訝しがりながらも、門前にいる銃を持った兵士にびびったシャルロットは、絶対に逆らわないようにしようと心に決めた。
そうやって案内された先は、とてもとても豪華な部屋で。
高さは、シャルロット十人分くらいで、天井には多くのシャンデリアが煌めいている。
「シャルロット・マクレーン・サマセット・ジョゼフで間違い無いか」
そう問いかけられ、嫌々現実世界に戻る。が。
長い長い名前を呼ばれて、思わず否定した。
「いいえ、ただのシャルロットです」
「いいや、お主はシャルロット・マクレーン・サマセット・ジョゼフだ」
本人が違うと言っていることを他人が否定するなんて、おかしなことがあるものだ、と発言者の方に顔を向ければ。
彼は玉座に座っており、そしてよく本屋で売られているこの国の皇帝の姿絵そっくりの容姿をしている。
それはつまり。
「陛下!?!?」
シャルロットは誘拐犯が陛下であることに絶望した。なぜなら、かの王は残虐で無慈悲だからである。きっとこの後首を刎ねられるんだわ。お金に卑しい罪、とかかしら、レイアは大丈夫だろうか、あのポワポワしたシスターたちで孤児院は守れるのだろうか(仮にも育ての親にひどい言い草であるのは重々承知の上である)、なんて回想が始まって。
そろそろ産まれてからの人生を振り返ろうかしら、なんて考え始めた頃、陛下が冷ややかな顔でこちらを見ていることにシャルロットはやっと気がついたのであった。
結果から言えば、シャルロットは首を刎ねられずに済んだ。
「これから三月ほど、妃のふりをしてくれないか」
そう言われ、聞き返したシャルロットは悪く無いだろう。誰だって耳を疑うだろうから。
側近の話によると、これから外交などで各国の重鎮を迎えるシーズンに入るが、妃が突如消えてしまった、これではいけない、と考えていたところ、あまりにもそっくりなシャルロットがいたものだからつい連れてきてしまった、とのことで。
つい連れてきてしまった、だなんて。孤児院のみんなが心配しているに違い無いでしょう、とムッとした顔をしていると。
「もちろんそなたの孤児院には知らせとともに、謝礼の前金として8000ベルを届けてある。」
なんて王様が言うものだから、文句のつけようがなくて。
ますますブスくれた顔をして、側近の方が慌てたのであった。




