トイと対話
(前回のタイトルをトイレの尋問と空目した人が結構いたようです)
「なんでも喋ります。なんでも協力します。私で遊ばれていきますか? どうぞ、私に好きな事をしてください」
尻尾がぱたぱた揺れて、全力で媚を売っているのが分かる。
俺が兵士を置いて一人で尋問室に戻ってくると、気持ち悪い程に手の平を返しているトイがそこに居た。
――もちろん、【超変身】である。
以前レオナに自分に変身しようとしたら呪いを肩代わりしてしまい発狂して死ぬと言われたことがある。が、逆に言えば呪いを剥いだ今なら、死なずにレオナに変身できるのだ。
半ば賭けみたいなところもあったが、兵士を一旦帰して先に試してみたところ無事生きていたのでレオナのハッタリかあるいは呪いが解除されて変身できるようになったということなのだろう。
そのまま【超変身】でレオナに変身した状態でトイと対面。
さすがは神の力である勇者スキル。外見、物理的な面での偽装は完璧である。あとは俺の演技力次第だが、目隠しを付けたままにしておくことで多少カバーしつつ、レオナの言いそうな事を並べてみた。
そうしてトイをうまい事騙せれば、とレオナのフリをして唆したのだ。……対レオナのために考えていた仮想レオナの言動は、レオナに飢えた錯乱状態のトイに見事に突き刺さったようである。
「ケーマ様、おみ足を舐めましょうか? それともお腹を見ますか触りますか踏みつけますか? あはっ、首輪にリードをつけ市中引き回しというのもよろしいですね? 服は着たままが良いですか? 脱いだ方が良いですか?」
その結果がこの従順なペット。レオナへの嫌がらせになればいいんだが……バレたら殺されるかな?
いや、でもレオナもこれ予測済みというか承知済みなんだろうなって気がしなくもない。だってレオナが本気でトイをどうこう思ってたら、始末するなり連れ去るなりしているはずである。
なのに、放置。これは俺に好きにしろというメッセージに他ならない。
……どうせ知られたところで問題ない知識しか教えてないのだろうし、むしろそれで邪魔が入るならそれはそれで楽しい。レオナならそう考えるに違いない。
「何を企んでいる?」
「企みなど――ああ、すみません企んでいました。先ほどレオナ様がいらっしゃいまして、私にケーマ様やハク様に協力してレオナ様に敵対するよう仰せつかりました。『りさいくる』と仰っておりましたが……ケーマ様はこの言葉の意味を御存じですか?」
おお、協力的にすべて話せという命令もしっかり守っているようだ。さすがトイというべきか。
「リサイクルはともかく、本当か? 俺は嘘吐きは嫌いでね」
「素晴らしい! 私も嘘は嫌いです。嘘ではありませんとも、現にこの首輪は締まらないでしょう?」
「……どうやって奴隷の首輪を無効化している?」
「簡単でございます。この手の魔道具や魔術は肉体、精神、そして最高レベルでも魂が『嘘を吐いている』と自覚した時反応するようになっているのです。故に、自分の言動に何も感じずにいれば無反応なのです。魔王流の『明鏡止水』と同じ要領ですね」
うわぁ、ハードル高いけどそんな手段があるのかよ。……到底マネできそうにないが、そういう手があるというのは覚えておこう。
「それに、この首輪は魂までは見ずに精神まででしか判断しない一般普及品でしょう? これなら『無心』レベルで騙せます。低級の肉体認識のものはより簡単ですね」
「饒舌だな」
「協力的に、知っていることを話すよう言われていますから」
にっこりと、目隠しをしたままこちらを向いて笑うトイ。
「目隠ししてるけど、こっち見えてる?」
「普通ニオイと心音で誰がどこにいるかくらい分かりますよね? ……分からないのですか?」
それで誰が、まで分かるのか。【超変身】でちゃんと誤魔化せてる、よな……?
「ああ失礼。犬獣人でなければニオイは難しかったですね? レオナ様はできていたけれど、そう、レオナ様は獣も混じっておりますものね」
「新情報だな」
「おやおや? ケーマ様はこの程度の事も御存じ無かったのですか? レオナ様は混沌神。あらゆる特性をその身に宿しておりますれば、獣の特性をも自由に使えるのです」
弱点も多そうだな、と思ったが、自由に使えるということは自由に使わないこともできるのだろう。やっぱり強い。
「……ちなみに、レオナの本当の目的はなんだったんだ?」
「さぁ? ケーマ様に楽しんでいただく事も目的のひとつであったことは間違いありませんが、レオナ様はささいな気まぐれでも一手に数多くの目的を持たせるお方。その深慮遠謀は私ごときが推測できるものではありません。ましてや此度のダイード国デートスポット化計画は数年がかりのプロジェクトですから」
一体いくつの目的があったのか、それともまだあるのか。それも見当がつかない、と。
「……案外何も考えてなくて行き当たりばったりだったり、なんて、そんなことはないよな」
「レオナ様は混沌の神ですよ? その心中は想像するだけ無駄です、只人の我々は、ただレオナ様の在るがまま為すがままを享受するだけです、寵愛も、厳罰も」
自然を象徴した何かかな? 災害と言う意味では間違ってなさそうだが。
「ところで私はこれからどうなるのでしょうか? 処刑ですか? 逃げますが」
「……逃げようと思えばいつでも逃げられそうだもんな?」
「当然です。この程度の拘束、ご希望とあらばすぐ外して御覧に入れますよ?」
知ってた。
「お前は俺が預かっておく。しばらく俺の命令を聞け」
「かしこまりましたケーマ様」
……こいつを懐に入れるのは怖いが、放置するのはもっと怖い。レオナ程じゃないが、トイが何を考えているかはよく分からないのだ。あとでハクさんに押し付けよう。
「ケーマ様。……拘束を解いてはくださらないのですか?」
「自分で外せるだろ? ああ、首輪はまだ付けておけ。トイに逃げられて身代わりで捕まっていた、手違いだったと証言して、王に首輪の機能が作動しない所を見せる必要がありそうだからな」
「かしこまりました。それではケーマ様が目を離したすきに入れ替えられたあわれな子犬であると証言しましょう」
そう言って、トイはまるで拘束が何もないかのようにするりと立ち上がった。ぱらぱらがしゃがしゃと拘束具が無傷のまま落ちる。脱出マジックを見ている気分だ。
トイが目隠しを取ると、ニクそっくりの、ただし表情筋が元気ハツラツしてる顔が現れる。とりあえず、ハクさんにトイを手に入れた旨をメールしておこう。あとで所有権について話をしたいとも。
「ああ、そういえばケーマ様。これは今回の件と関係があるか分からないですが」
「ん? あ、ちょっと待ってくれ先に……」
俺はハクさんへのメールを手早く書き上げた。送信っと。
「よし。で、なんだ?」
「はい、レオナ様は闇神と大変仲が良く、よく頼みごとを引き受けていらっしゃいました。たしか以前、めえる? というものを作られたそうですよ。対価に何を貰ったかは知りませんが」
お役に立つ情報でしょうか? とトイは笑顔で尻尾をパタパタ振って首をかしげる。
……俺は送信済みのメールを見る。あー。もうちょっと早く教えてほしかったな?
「だめな情報でしたか?」
「いや、とても重要だよ。うんなるほど、だからメール機能を停止とかできたのかな?」
……今後メール機能を使う時はレオナがこっそり見てる可能性を考えて、重要な情報は載せない方が良さそうだな。色々手遅れかもだけど。
(来月、6月25日に13巻発売となります。
……書下ろし+加筆修正率はだいたい99%くらいじゃないかなって。
有償特典のA3タペストリー(メロンブックス)やB2布ポスター(ゲーマーズ)付きの予約も始まっているようです。まぁ特典には数に限りがあるので、欲しい人はお早めに予約をどうぞ。
販売ページへの直リンクはなろうの規約でできないですが、以下『』内をコピペで検索するとでてくるかと。
『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 13 A3タペストリー付きメロンブックス限定版』
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