トイへの尋問
(たけのこ先生、成人おめでとうございます。
というわけで活動報告に成人祝いのだんぼるSSを上げてありますよっと)
俺は洗脳対策にこっそり、『神の目覚まし時計』を鳴らしつつ、トイに話しかける。
「ようトイ。ご機嫌の程はいかがだ?」
「最悪ですよケーマ様。どうぞ処刑してくださいまし」
目隠しをしているが、目の前にいるのが俺だということは声からも分かっただろう。すらすらと淀みなく答えるトイ。
「なにせトイシリーズは、名前の通り10と1――つまり101体おりますので。私1体が消えたところで何の問題もありません」
「……それは嘘だな?」
「さぁて。今は別に嘘を吐くなとは言われておりませんが、本当かも知れませんよ? しかし小粋なジョークでしょう? くふふっ」
隣の兵士が首をかしげている。……ああ、そうか。この世界の言葉に変換されると、トイで10と1になるくだりが理解できないんだろう。ついでに101匹の犬とかどこの映画かと。
「そのジョークは、レオナに仕込まれたのか?」
「ああ、その通りでございます。……時に、どうかあわれな私めにこの小粋なジョークの意味を教えてくださいませんか? レオナ様に尋ねても教えて下さらなかったのですよ。自分が発した言葉の意味くらいは、死ぬ前に分かっておきたいものなのですが?」
「そうか、それは残念だったな。――俺も知らん」
「やや! 摩訶不思議でございますね? ケーマ様ともあろうお方がニホンゴを御存じ無いとは! あははっ!」
何が楽しいのか、笑うトイ。自棄になっているようにも見えなくもない。
しかし表情が読めない。ニクよりも表情豊かなはずなのに、ニクよりも表情が見えない。目隠しのせいではなく、多分耳や尻尾が微動だにしないからだろう。
「さて、ここから尋問だ。嘘を吐いたら首輪が絞まるぞ」
「おやおや、そうなのですか? では試してみましょう。砂糖は辛い、塩は甘い、私は本物だ――んん? おかしいですね? 絞まる様子が無いようですが? 不良品をつかまされたのでは?」
「……」
こいつ、奴隷の首輪を無効化してやがる。
「国家転覆の犯罪者なわけだし、腕の2本くらい落としてもいいよな」
「おやおや、過激ですねぇ? どうぞ存分にお楽しみください。我々はそういった性癖にも対応した玩具ですので、お望みとあれば腕の2本や3本くらい切り落とされても……ああ、ガタガタ震えてみっともなくお漏らししながら泣き叫んだ方が宜しいですか? 殿方はそういうのが好みだと聞きました」
とことん調子を狂わせてくるなぁコイツ。随分と余裕だが……なんでだ?
既に首輪を無効化している以上嘘か本当か判別することは難しそうだが。……あ、そういえば。
「おい、嘘を判別する魔導具は? 国の尋問室ならあるだろそのくらい」
「はっ、あ、ありますが……首輪が効かないのであれば、恐らく効かないと思います」
兵士の回答にそれもそうだと納得する。首輪だって魔道具なんだし。
となると、どうやって無効化してるかだが……
「トイ、ここに居るお前は偽物か?」
「おやおや? それを最初に聞いてしまいますか。ええ本物ですよ? ただ、覚悟が決まっているというだけの話です。何故なら私は、玩具なのですから……用済みになったら壊されるのは当然ではありませんか。捨てられ、壊されるまでが玩具なのですよ?」
「獣人の性質ってやつか。よくもまぁレオナにそこまで忠誠を誓えるもんだ」
「獣人はレオナ様がお創りになった種族ですもの。当然です」
なにそれ初耳なんだけど?
……レオナのことだ。獣人がいなかったこの世界を見て、『異世界に獣人がいないとか自分で作るしかないわよね!』と言って創った可能性もあるな。だってレオナだし。
目隠しをしたまま、おどけた調子で答えるトイ。
……『神の目覚まし時計』もかけているし、目隠しを取ってもいいか? 少しでも情報を読み取っておきたいが……うーん。
あ、そうだ。
#Side トイ
「埒があきそうにないな、一旦休憩して方策を考えよう」
そう言って、ケーマが兵士を伴って部屋から出て行ったしばらく後。トイの居る尋問室に再び人が現れた。
「おや? もう休憩は宜しいので――ッ!?」
「はぁいトイ。調子は良いようね?」
「レオナ様……! ああ、レオナ様、レオナ様ぁ……!」
ニオイ、心臓の鼓動、足音に乗る体重、揺れる空気。そして声。目隠しで目が見えずとも、トイはその人がレオナだと判別できた。歓喜と謝罪の入り混じった形容し難い強い感情。涙が溢れ、目隠しの裏が濡れる。下も少し漏らしたかもしれない。
足がプルプル震え、ガタガタと縛り付けられた椅子が揺れる。邪魔な拘束さえなければ直ぐ慈悲を乞い足元に縋りつき媚を売り腹を見せて甘えていたところだ。
「ああ、しかしなぜ、なぜ私の所に? もはや私は用済みではなかったのですか? この国をケーマに壊された無能な私は、もう役立たずのゴミではなかったのですか? まだ私は捨てられていなかったのですか!?」
「え? 捨てたわよ? 理解してるでしょそのくらい」
「あっ……ぇぅ……」
「けど、良いリサイクルを思いついたの!」
楽しそうに笑うレオナの声。「りさいくる」なる言葉の意味は分からないが、なんでもいい。トイはレオナの言葉を待つ。
「……トイ、あなた私に叛逆しなさい?」
「はい、分かりましたレオナ様!」
叛逆。逆らえ。ああ、それは。命令に従って『従うな』という矛盾。なんと心苦しい命令、それこそが自分に与えられた罰であり、新たな使命。
主の気まぐれに弄ばれる、なんと甘美な事か。これこそ玩具の生き甲斐である!
「方法はそうね。ケーマさんやハクちゃんの言う事を何でも聞いて、私の情報も――ま、あなたが知る限りの事を、包み隠さず、協力的に話してあげなさい。全力で、徹底的に私に敵対するの。他にも自分で考えて私を妨害してね?」
「分かりましたレオナ様!」
「良い子。それでこそ私の玩具よ」
と、優しく頬を撫でられる。あぁぁ幸せ。脳がぱぁっと明るくなる。目隠しに覆われた視界がチカチカと点滅する。よだれが溢れる。尻尾がぱたぱたするのを止められない。玩具なのにこんなに幸せでいいのだろうか?
「くふ、くぅん……っ」
「それじゃあもう行くわね」
「あっ……」
離される手。遠ざかる温もりを少し名残惜しく思うトイ。
「今後は、私の事を主でなく敵だと認識しなさい。私の言葉にも二度と従わなくていいわ? リサイクルだもの……次の主は、私以外でトイが好きに決めて良いわよ? うふふ、楽しみね。あなたがどう私の邪魔をしてくれるのか」
「はい……! はい!」
楽しみにされている……! ああ、レオナ様が私の、私を、私で楽しまれる! 全力で敵対しなければ!
トイは、矛盾するようで矛盾しない、「叛逆して楽しませろ」という使命を心に刻んだ。
「おーい、尋問を再開するぞ」
しばらくしてケーマが戻ってきた。
「なんでも喋ります。なんでも協力します。私で遊ばれていきますか? どうぞ、私に好きな事をしてください」
トイは、心からの笑顔をケーマに向けて、そう言った。
(もちろんアレです)






































