覚めたダイード
「と言っても、すぐにと言う話ではないです。見つけた時でいいので、レオナに再び感知の呪いを付けてください」
「……もういっそ関わりたくないところなんですけども?」
「そうもいかないでしょう。ケーマさんは、お気に入りのようですし。レオナを目視してこの水晶を破壊してくれればいいので」
そう言って、ハクさんは俺に親指程の小さなクリスタルを手渡してくる。断ることもできず、仕方なしに受け取る俺。
「……まったく、帝国建国当時のダイード国王は本当に優秀だったのだけれど。帝国、魔国、聖王国を相手取り領地を安堵させた彼ならば、レオナにここまでしてやられることはなかったでしょう……ニンゲンというのは代を重ねるごとに愚かになっていくものなのかしら。先代は召喚勇者に殺されて代替わりしたばかり。王子もまだ10代の子供だし……厄介なことをしでかしてくれたものですね。どうしましょう」
まったく、挿げ替える首が足りないわ、とボヤくハクさん。どうやら勇者が居なくてもダイード国が滅びる心配はないようだ……国王の首は一切保証されないが。
「そういえば。レオナはナスが苦手だそうですけど、知ってます? ナス畑でも作っておいたらレオナ除けになるんじゃないですかね」
「……まぁ検討しておきましょう。聖王国から輸入という手もあるわね?」
ん? 輸入? ナスは帝国でも普通に育てられている野菜のはずだけど。ウチの村の畑にもあるし、サキュバスたちの好物でもある。何か食い違いがあるのだろうかと思いつつ、
「ではケーマさん、ダイード国の方はお任せします」
「……ちなみに報酬っていただけるので?」
「ダイードで起きた事を不問にしてあげましょう。……ロクコちゃんとの事を含めてです」
「ハイ、ヨロコンデー」
というわけで、ハクさんの笑顔の前にロクコを預けて、俺はダイード国へ戻ることとなった。はぁー【転移】【転移】。
*
一旦町の中に戻ると、人混みがあった。何かあったのかと覗いて見ると、屋台の側で蹲ってブツブツ言っている売り子の娘がいた。
「この世界は……『かお☆みて』の世界じゃ……なくっ……、そもそも『かお☆みて』なんてゲームは……なかった……ッ、げー、む? ゲームって、何……? あああああ」
なんだよ『かお☆みて』って。と思ったけど、そうか。レオナの仕業か。
きっとこの売り子は『テンセイシャ』だったのだろう。髪の毛とか肌の手入れが行き届いてるあたりどこかの令嬢かなこれ。
「おい、お嬢。大丈夫か?」
「まぁ、そっとしておいてやったらいいんじゃないか? 前にもこんなことあったろ」
「とりあえず屋台片付けたほうがいいんかねぇ……あっちの坊ちゃんも似たような感じになってるし」
……ま、特に問題ないだろう。既に無害的な感じで。
というわけで今度は王城へ向かう。
ちなみに今回はハクさんから帝国の使者の証を預かっている。勇者の腕輪もまだ首から下げているのでまぁ問題はないはずだ。
でもいきなり【転移】で王城の中に入ってイチャモンつけられても何なので、正々堂々と正門から入っていくことにする。
兵士たちは既に復帰したらしく、門に詰めていた。俺は軽く手を上げて挨拶する。
「ようご苦労さん。通っていいか」
「ここはダイード国王城。何者か」
「先日ここで召喚された勇者だけど? あれ、まさか顔忘れちゃった?」
「……待て。いや、お待ちください。問い合わせます」
腕輪を見せつつ話すと、結構豪華な待合室に通された。……どうやら色々混乱しているらしい。しかしとりあえずちゃんと対応はしてくれるようだ。
「勇者様は城の外におられたのですか? 申し訳ない、この国は今朝から色々と混乱しておりまして……」
「色々と記憶の混濁とかか? 町中でもそういうのを見たんだが」
「は、はい。おっしゃる通りです。我々も数日から数年以上、記憶があやふやなものが多く……失礼ですが、勇者様のことが分からないかも知れません。その腕輪は間違いなく勇者の証なのですが……」
腕に着けてないので、偽物、あるいは勇者から腕輪を奪ったものである可能性もあるとのこと。腕に着けたら外れないようになって身分証明になるのだが――と。
なるほど、そういう感じのモノだったのねコレ。付けなくて良かった。絶対他にも機能あるやつじゃんそれ。……あ、でも『神の目覚まし』で無効化できたりするんだろうか?
「勇者様。確認がとれました、王がお会いになられるそうです。ご案内いたします」
「王が?」
非常に展開が早い。が、そういえば『先代は召喚勇者に殺されて代替わりした』とかハクさんが言ってたような……最重要案件ってことなんだろうか?
そうして謁見の間に着くと、王が玉座から立って俺を出迎え、そして頭を下げた。
「申し訳ありません勇者様。どうかお怒りをお鎮めください」
「これはこれは王様。先日お会いした時とはだいぶ様子が違うようですが」
「……は、申し訳ありません。まず言い訳でしかありませんが、我々は操られていたのです」
うーん、まぁ本当かな? と思わなくもないが、本当なんだろうな。
「頭をお上げください。俺は話をしに来たのです」
「は。勇者様の格別の配慮、誠に痛み入りまする……ですが、これから話す内容如何で再び勇者様の怒りが芽生えた時には、どうか、我が首のみでご容赦いただければと……」
王はごくりと唾をのみこみ、悲壮な覚悟を決めた顔で告げる。
「……我々に、勇者様を元の世界に返す術はないのです……! 召喚しておきながら何という体たらく……いくら謝罪しても謝罪し足りない……」
あ、そっすか。
「……ああ、しかし腕輪は2つ消えていたのです。もう一人いるはずの勇者様にもお詫び申し上げねば……」
あ、それも大丈夫です。今いないけどツレなんで。
というか、とりあえずハクさんから様子見てこいって言われたけど、俺どうしたらいいんだろうねコレ?





































