閑話:その頃のゴレーヌ村ダンジョン。
(ちょっといいことがあったので、短いけど閑話で久々の水曜更新(書籍化作業継続中))
ダンジョン管理者として生まれた妖精、エレカ。
レイの部下である彼女は、早くもその頭角を現していた。
「レイ様、お疲れ様です! お茶どうぞ」
「気が利きますね、ありがとうございます」
「レイ様、『強欲の宿屋』のチェック終わりました」
「はい、ありがとうございます」
「レイ様、クレイゴーレムの増産分の作成が終わりました」
「ふむふむ、ありがとうございます」
「レイ様、使用済み落とし穴の修繕が終わりました」
「……ありがとうございます」
「レイ様、」
「ちょっと、ちょっと待ってください」
ダンジョンの運営についての報告を聞きにマスタールームにやってきたレイに、わらわらと群がるエレカ達。彼女は『分化』というスキルを持ち、1つの身体を複数に分ける事が出来る。そして、それぞれで働いたり休んだりできるのだ。
「……とりあえず、報告するときは一列に並ぶか合体してからでお願いします」
「「「「かしこまりました」」」」
そして、単純に人手があれば良いことであればこれが非常に有用に働いた。
なにせ1人にして16人分の働きができるのだ。ダンジョンモンスターであるがゆえに、実際の作業はゴブリンやゴーレムを操作して、という事が可能である。最大限に分化して手足のない光の玉みたいな状態になっても、これで十分作業ができる。
以前ケーマが作成した「ドール」タイプ――より人間に近い形のゴーレムなんかはまさに都合の良い、いや、都合の良すぎる身体である。
(ちなみに指輪サキュバスのネルに作った最初の「ドール」タイプのゴーレムは、本体のネルがケーマ達にくっついて魔国へ行っている現在、宿で働く普通のゴーレムに交じって、普通に働いている)
「……ふむ、では一通り日課の作業は終えたということで」
「はい。『ツィーア山貫通トンネル』の料金集計はこちらにまとめておきました。雑魚モンスター召喚の方もスポーンで対応できる範囲なので、レイ様のお手を煩わせることもありません」
「本日の死者は?」
「ありません。新人冒険者1名がゴブリン相手に無謀な突撃を行い重傷を負いましたが、通りすがった冒険者に助けられ一命を取り留めています。その後はレイ様の方が詳しいかと」
「ああ、教会に運ばれてきたアレですね。よろしい、では問題ありませんね」
合体したエレカの報告を受け、レイは思った。
楽すぎる。
こんなに楽でいいのだろうか。
いや、もちろんレイはオフトン教聖女としての仕事もしているので暇という訳ではない。が、今までなんやかんや時間を取られていたダンジョン管理の仕事が、エレカに任せることでこうも簡単に報告だけ受けて終わってしまうことに、レイは少し濁った感情が心に浮かぶのを感じた。
物足りない。もっと自分の手でマスターのお役に立ちたい。
……オフトン教としてよくない考えだ、もっと働きたいだなんて。で、でも、今まであんなに忙しく働いてたのにいざ余裕ができてしまうと……ううっ! 体が疼く!
いっそなにか問題が起これば活躍できるのでは……!?
「……レイ様?」
「はっ、あ、いや、なんでもありません」
少し考え込んでしまっていたようだ。レイは、軽く頭を振って意識を正す。
危ない危ない。折角マスターが帝都からAランク冒険者を兼任したギルド長をお借りして、冒険者達が問題を起こさないように、多少の問題はダンジョンを介さずとも軽く解決できるようにと手配してくれたというのに。
何か問題が起こればだなんて考えるのは、お門違いというものだ。
「他に何か、思いついた問題はありますか?」
「しいて言えば、ロクコ様のペットたちが暇そうなくらいでしょうか。一応、本日戦闘訓練の提案をさせていただきました」
「ふむ……ちなみにどのような訓練を?」
「不死鳥のフェニ様には炎の羽での的当てを、ジュエルタートルのダイア様には回転する体当たり攻撃の訓練を、ミミックのパック様には奇襲攻撃の跳びかかり練習を、というメニューを考え、提案しておきました」
なるほど、いずれも種族特徴を掴んだ戦闘法である。当面はそれで問題ないだろう。
「エレカは優秀で助かりますね、これであればマスターがお戻りになった際にエレカにもっと権限を与えて下さるかと」
「はい! もっとレイ様やマスターのお役に立てればと思います!」
「その意気です。とはいえ、あまり根を詰めないように。身体を壊しては元も子もありませんから」
と、自分の口から白々しい言葉が出てくる。自分こそもっと働きたいとか思っているくせに。レイは自分の言葉に心で苦笑いを浮かべた。
ともあれ、新人教育はレイの仕事である。これも立派な貢献だ。
そうだ、ならエレカにご褒美をあげるのはどうだろう。
「……あ、エレカ。マッサージしてあげましょうか、私、オフトン教聖女としての仕事ということもあってマッサージは得意なんですよ」
「そんな畏れ多い! ……え、でも、その、良いのですか?」
まんざらでもなさそうに様子をうかがうエレカ。
ちなみにレイは、最近空いた時間で同僚たちをマッサージしたりもしている。であれば今更エレカをマッサージするのになんの問題があろうか。
(特にネルネは研究室にこもってデスクワークしているせいか身体が凝りまくりであった。全身余すところなくほぐしてやったら余りに気持ち良かったのか、最近は軽くせがんでくるほどだ)
あとマスターにマッサージする時に備え、腕を磨く意味もある。レイには、マッサージをしない理由も無かった。
「良いのですよエレカ。真面目に仕事をしているエレカにご褒美です」
「レイ様……! で、では『私』を全員招集します! 全力で、マッサージを受けさせていただきます!」
「ダンジョンの仕事をすべて放り出すのは感心しませんね。半々にしなさい、2回施術してあげるから」
「は、はい!」
エレカは嬉しそうに飛び跳ねた。まぁ妖精なので飛んでるのはデフォルトであるが。
そんなエレカに、レイはたっぷりご褒美マッサージをしてあげるのであった。





































