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第27章「岐路の選択」

 飛鳥以外の三人も校舎に突入していた。

「次の角で俺は別れて行くが、後は大丈夫だな?」

「そっちこそ、一人でやられるなよ」

 ……まあ、心配はあるまい。

 小春は、秋時と笑いあってから、水月と共に廊下を直進する。秋時は階段を上って行った。

「水月、敵がいないか周囲の確認を頼む」

「はい」

 水月に命じると、小春は立ち止まる。だが、一つ気になっていたことを優先することにした。

「水月」

「はい?」

「大丈夫か?」

 ……こんなことを尋ねている俺は甘いんだろうか。

 だが、さっき話していたことを考えると、水月の事が心配で仕方なかった。

「え、ええ。大丈夫ですよ?」

「そうか、ならいい。引き続き警戒してくれ」

 ……俺が水月を必要な存在と思うのは、水月自身も望んでいることだ。

 それでも、あまり水月に無理はさせたくないと、小春は思う。

「はい」

 小春は短く息を吐くと、能力を使うことに集中した。そして、目的の人物と会話を繋ぐ。

『一樹。聞こえるか?』

『こ、小春か!?どうした?』

『そんな驚くこともないだろ?』

 小春は少しだけ笑いをこぼした。

 ……そう、一樹は俺の『テレパシー』の事を知っている。

『こんな時に繋いで来れば驚くに決まってるだろ?で、今どうなってるんだ?』

『ああ、ちょっと伝えることがあってな』

『なんだ?』

『会長の動きが怪しい』

『は?』

 ……これは本心だ、俺は会長を疑っている。

 一樹はまだ混乱しているかもしれないが、時間がないので情報を送ることに集中する。

『会長は『統治機関』に狙われている。あそこもキナ臭いから、それはどうでもいいが……』

『キナ臭い?『統治機関』が?』

 ……ああ、こいつは本当にお人好しだな。

 一樹の言葉に、小春ため息を吐いた。しかし、すぐに話を再開する。

『お前相手だと、そこから説明しないとか……今は時間がない、省くぞ』

『省くって――さっぱり状況が分からないんだが』

『仕様がない、一言で説明してやる。今、攻めてきてるのが『統治機関』だ』

『ま、待ってくれ、じゃあ今の状況ってのは……』

 小春は一樹の話を断ち切るように、言葉を被せた。

『時間がない、話を先に進めるぞ。会長はこれを見越して、能力者を集めてた節がある』

『もしかして今朝の放送はそれで?じゃあ、お前もその中に?』

『その話も後だ。とりあえず、会長は『統治機関』に喧嘩を売る気らしい』

『なんでそんなことを!』

 ……それについては、こっちも知りたい所だがな。

『いくつか候補はあるが、はっきりとは分からんな。一番可能性が高いのは自分で『統治機関』になり替わる気じゃないかと踏んでる』

『生徒会が、『統治機関』に?』

『正確には中枢を乗っ取る気じゃないか、ってな』

 ……ま、これも結局は推測だがな。

『でも、そんなことする理由があるのか?さっきから分からないことが多すぎるぞ!』

 その一樹の叫びに、思わず小春は笑ってしまう。

 ……全くだ、もっと分かり易くして欲しいな。

『一樹は、なんでここ――『アイリスの花びら』あるか知ってるか?』

『ああ、歴史で教わってるさ。『能力者戦争』の話だろ?』

 ……そう、『能力者戦争』。世界中に能力者が居た時代に、能力者を兵器として投入したという、忌まわしい歴史だ。

『そう。だから会長は、もう一度戦争を起こす気じゃないかって思ってな』

『そんな、そのせいで能力者は閉じ込められてるんだろ?』

 ……それは確かだ。名目は能力者の安定した居住地の確保だったが、建造された『アイリスの花びら』は、間違いない監獄だ。

『だが逆に言えば、外の連中は俺らを閉じ込めるしかなかった。勝てるなら滅ぼしている』

『そんな……』

『一樹。ここまで話したのは可能性の話が多い。だがこれから先、俺も何があるか分からない。だからお前は外に居て、俺の話を受け取ってくれ』

 ……そうすれば、一樹は巻き込まれずに済む。

 小春は今の状況がどうであれ、間違いなく危険だということは分かっていた。

『待て、小春。話が急な上に何が何だか……』

 だが、その一樹の声を遮るように、一つの声が響いた。

「小春さん!」

『悪いな、一樹。時間切れらしい』

『時間切れ!?』

『お客さんだ』

 突然の爆発音が辺りに響く。小春は『テレパシー』を切ると、素早く反応した。

 ……この攻撃は、真八だったか。

 小春は秋時の話を思い出しつつ、敵の影を探す。

「水月!」

「……!」

 水月は小春に呼ばれるより先に、狐面を付け、抜刀して敵に向かっていた。

「……!!」

 爆風の向こう側に居るはずの敵に、高速で剣が振り下ろされる。

「……!?」

 だが、水月の攻撃は空振りだった。次の動作を確認するよりも先に、水月は空間を跳躍する。

 ……避けた、というわけではないな。

 小春はすぐに水月と『テレパシー』を繋ぐ。

『気を付けろ。敵は知覚に干渉するらしい』

『でも小春さん。確かに気配が感じられましたが……』

『侮るなと言われたろ。相手を直感的に捉えるほど、罠に飛び込むことになるぞ』

『はい。気を付けます』

 水月の居た場所は、空間跳躍の直後に爆発によって破壊され尽くしていた。

「……」

 小春の前に、水月が立つ。二人は、静寂の中で息を飲んだ。

 ……さて、次はどこから攻撃が来る?


                    ●          ●


 秋時は廊下で銃を静かに構えた。

 ……どうやら俺の相手は、あの人形メイドらしいな。

 お互いに顔の見えない状況だが、先ほど少しだけ見えた姿で確認が出来た。

「さて、一対一ならやられることはないな」

 ……こっちの『魔法の弾丸(マジック・バレット)』は遮蔽物越しでも攻撃ができる。

 そう思ったその時、隠れている壁に銃弾が撃ち込まれた。

「だが、貫通はしないな」

 今は廊下の端の曲がり角に背を当てているが、服の端をわざとはみ出させていた。

「安い挑発だったが、乗ってくれたなら上出来だな」

 呟くと、敵がいる位置を割り出して射撃した。弾丸は複雑な軌道を描き、命中する。

 ……これで相手の足は封じた。

 素早く『アルテミス』を仕舞い、短機関銃『ルナ』を出す。さらに懐から鏡の破片を放った。

「さて、これで罠は充分だな」

 秋時は壁から背を離すと、敵に見えない位置で『ルナ』を構える。そして、空中に浮かぶ鏡の角度を調整した。放った鏡は今、投擲したことで『魔法の弾丸(マジック・バレット)』で操れる状態にある。

 ……後は、獲物がかかるだけだ。

 足が動くようになったメイドは下がらなかった。秋時に近づくため、廊下を一気に駆ける。

「見えてるぞ」

 その一言と共に、鏡にメイドの姿が映る。同時に引き金が引かれ、鏡は力を失って落下した。

「……っ!」

「残念だったな、判断ミスだ」

 メイドは無数の弾丸に撃ち抜かれる。そして、鏡が地面に落ちて砕け散った。

 ……相手を完全に封じるのも大事だが、今は安全に戦いを進めるべきだな。

 秋時はすぐに移動を開始した。どうせすぐに回復して追ってくるだろうが、来るたびに対処すればいいと思いながら、歩みを進める。と、一つの疑問が頭を過った。

 ……この数では、こちらの方が有利だ。

 この後には、千鶴と鶫もいる。明らかに相手も戦力を分散させているのに、このままでは相手は対処できずに引くしかなくなる。

 ……この戦場は何かがおかしい。

 秋時は状況をもう一度考え直す。と、一つの結論に行きあたる。

「……伏兵が、いる?」

 ……だが、なぜ伏せる必要がある?

 考えながら階段を駆け下り、蹴飛ばすように扉をあけると、教室に身を滑り込ませた。

 だがその直後、天井が吹き飛んだ。そして、目の前にメイドが着地する。

 息を整えていた秋時は、なんとか笑みの表情を作ると、一言だけ言った。

「随分と派手な登場だな」

「お待たせいたしました。永きお休みの時間です」

 ……全く、笑えないジョークだ。


                    ●          ●


「さて、何から聞こうかしら?」

 飛鳥の言葉に対して、窓に目を向けていた九恩が視線を戻し、互いに向かい合った。

「一つ私から質問してもよろしいですか?」

「ええ。構わないわ」

「何故話をするのに、飴を?」

 ……割と細かい事を気にするのね。

 飛鳥はクスリと笑ってから、すぐに答えを返した。

「甘いものがあった方が頭の回転も早くなるって言うからよ。お姉様が良く言っていたの」

「そうですか……」

 そういうと、飛鳥は笑いながら飴玉を口の中で転がす。

「さて、じゃあ私はあなたに三つほど尋ねたいことがあるわ。いいかしら?」

 指を三本立てた飛鳥に対し、九恩はすぐに頷く。

「ええ。私が回答を許されている範囲でしたら、お答えしましょう」

「まず一つ目。あなたは鷺崎 京花という人物を知っている?」

「ええ、あなたの姉ですね。だいぶ前に亡くなったという資料は得ていますが」

「そう。その程度しか知らないの?」

 飛鳥は首をかしげて笑いかけたが、九恩は表情一つ変えなかった。

「他は彼女の能力が大変優れていた、ということぐらいでしょうか」

「……まあ、あなたが関わっている可能性は低いわね。一応聞いてみただけよ」

 ……それに、本当に知っている人間があっさり話すとも思えないわ。

「では、一つ目の解答は以上でよろしいのでしょうか?」

 飛鳥は笑みの表情で、再び飴を転がしてから答えた。

「ええ、次の質問にいくわ。あなたは『逸能連』という組織を知っている?」

「はい。かつて『統治機関』に存在した『逸脱能力者警戒連盟』の略称ですね?」

「そうよ。知っていたのね、ちょっと意外だわ」

 ……てっきり、知らないままやったのかと思っていたのだけど。

「ええ。同じ『統治機関』でしたので」

 その九恩の答えに、飛鳥はすぐに反応した。

「それは挑発かしら?」

「私は事実を述べたまでですが?」

 睨みつけられても、九恩は涼しい顔で淡々と答える。

「そう。ならそういうことにしておくわ――次の質問、いいかしら?」

「どうぞ」

 ……さて、次はなんて答えるかしら?

「あなたは『逸能連』が崩壊した日、何をしていたかしら?」

「質問の意味が分かりませんが」

 その言葉に飛鳥は一瞬眉を上げたが、すぐに冷静に戻ると質問を続けた。

「じゃあもっとはっきり言うわ。あなたは『逸能連』襲撃部隊の一人じゃないかしら?」

「それは――」

「それは?」

 初めて言い淀んだ九恩に、すぐに飛鳥が問い返す。

「ええ、私はあのクーデターの日に、『逸能連』討伐の任を受けた部隊の一人です」

「そう……」

 ……やっぱりそうなのね。

「でも、なぜ分かったのです?」

「ええ、それはね――あなたを殺してから、教えてあげるわ」

 その言葉と共に、飛鳥は口にあった飴を噛み砕く。九恩はそれが争いの合図だと気付かず、反応も出来ずにいた。だが、すでに飛鳥の両手には『血まみれのメアリー』が出現している。

「――ッ!」

 突然の事に槍を構えようとした九恩は、そのまま左右からの斬撃に吹き飛ばされた。

「あの日。私の仲間を殺し、私の世界を再び壊した奴らを……そんな簡単に許すと思った?」

「う……く」

 九恩は立ち上がれず、膝を付いたまま顔を上げた。と、その眼前に刃が付き立つ。

「殺してあげるわ、何度生き返ろうとも――私がこの手でね」

 そこには、復讐に燃える魔物が立っていた。

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