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地雷少女と屋上のスナイパー

東京、2025年。6月19日の夜、新宿のネオンが空を切り裂く。歌舞伎町の喧噪を背に、神崎怜は黒のトレンチコートを翻し、雑居ビルの非常階段を静かに登っていた。コードネーム「リカオン」。30歳、元アメリカ海兵隊のスナイパー。かつて中東での作戦失敗で仲間を失い、今は裏社会の掃除屋として生きる男だ。頬の古い傷が、街灯の光に鈍く光る。怜の目は、夜を切り裂く獣のようだった。

屋上を目指す怜の鞄には、分解されたスナイパーライフルが収められている。足音はほぼ無音、彼の動きは影そのもの。元海兵隊の訓練が、怜の体に染みついている。15階建てのビル屋上にたどり着くと、彼は風向きを指で確認し、鞄を開けた。M40A5、米海兵隊時代から愛用のライフル。慣れた手つきで組み立て、スコープを覗く。

対岸の高層ビル「ミッドナイト・タワー」の一室に、ターゲットのシルエット。案件と称して海外に借金のある女を売る人身売買を牛耳るヤクザの幹部、佐藤健次だ。佐藤は派手なスーツで部下と酒を飲み、笑い声を上げている。怜の指が引き金に触れる。風速3メートル、距離800メートル。完璧な射撃条件。「終わらせてやる」と呟き、呼吸を整えた。

だが、その瞬間、背後で軽い足音。怜は即座にライフルを下ろし、振り返る。屋上のフェンス際、ネオンの光を浴びた少女がいた。17歳くらい。黒のゴスロリドレス、ピンクのハート型アクセサリー、濃いアイラインで強調された目、口元にマスク。地雷系ファッション全開だが、大きな目は怯えに揺れる。

「え、待って、めっちゃヤバい雰囲気なんだけど!」

少女の声は震え、ピンクのネイルが光る指で怜を指す。怜は眉をひそめ、冷たく返す。「ガキが、ここは立ち入り禁止だ、消えろ」

「無理! アタシ、逃げてきたんだから!」

少女の名は桜井彩花。歌舞伎町のホストクラブ「ネオ・ヴァニティ」にハマり、借金を背負った「ホス狂い」の地雷系少女。彼女を追うのは、ホストクラブの裏で少女を搾取する組織の刺客だ。彩花は息を切らし、屋上のコンクリートに膝をつく。マスクをずらし、化粧の崩れた顔が露わになる。

「アタシ…ホストの拓也くんに貢ぎすぎて…借金500万…そしたら、なんか怖い人に追われて…」

彩花の声は途切れ、涙がアイラインを滲ませる。怜は舌打ちし、ライフルをケースに戻す。ターゲットはまだ部屋にいるが、この状況では集中できない。

「ちっ、、お前どっから入って来た?誰かに見られたか?」

「わ、わかんない…路地裏で追われて、ビルの階段登ったらここに出ちゃって…!」

彩花はバッグからスマホを出し、震える手で画面を見せる。ホストの拓也からのLINE。「彩花、早く金用意してね♡ じゃないと大変なことになるよ」。怜は画面を見て顔をしかめる。

怜は彩花を無視し、スコープを再び覗こうとした。だが、彼女の怯えた目が脳裏に焼き付く。10年前、イラクでの作戦失敗。爆発の中で海兵隊の戦友を失った記憶が、怜の心を抉る。怜は元海兵隊の訓練通り、感情を抑え込むが、彩花の目は彼がかつて守れなかった妹、葵の目と重なった。

「お前、名前は?」

「…彩花。桜井彩花」

「ついてこい」

怜は彩花の手を引き、屋上の出口へ。

彩花は驚きながら、つまずきそうになりつつ怜の後を追う。「え、待って、なんかおじさん シティーハンターみたい!」

「黙れ」

二人は非常階段を降り、歌舞伎町の雑踏に紛れる。

昨今のホスト条例がある中で明らかな未成年に売掛をするのはありえない、おそらく龍豪会の佐藤絡みの人身売買だろう、怜は彩花の借金の裏を探ることを決意。元海兵隊のスナイパーとしての勘が、ネオンの奥に潜む巨悪の匂いを捉えていた。

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