【番外編】固定職業『盗賊』に生まれて。
だいぶ前のお話で遅くなりましたが、読んでくださった皆様へのお礼の気持ちとして番外編を更新しました。
『盗賊』
この言葉を聞いてなんと思うだろうか?
多分、皆、「泥棒」「盗人」と思うだろう。
最悪な事に、私の家は特殊な家で代々固定職業で『盗賊』だった。
一族の中で一番若い男か女が物心ついた頃に、自動的に『盗賊のスティール』となる。
理不尽にもそれまで持っていた名前が消えて。『スティール』という盗賊そのまんまな名前になるのだ。
もちろん、3歳の時のもって生まれた能力を調べる鑑定の儀では、神様にすごく祈ったのに『盗賊』という固定職業になった。
同じようなことができる『探索者』や『冒険者』が良かったのに。
こんな事ってあるだろうか。
私は3歳の時から神様に、
『お前は生まれながらに「泥棒」「盗人」だ』
と言われているのだ。
住んでいる街の皆には、ウチの家族は遠巻きにされている。
危害を加えられたりはしない。
あまり邪険にしたり危害を加えたりすると、同じような固定職業『遊び人』に危害を加えた一族が文字通り弾けて死んだ話はあまりにも有名だからだ。
私は日々を諦めて暮らしていた。
何を努力しようと『盗賊』でしかない。
素早く行動できたり、罠を解除できたり、ダンジョンの開かない宝箱を開けることができるからといって何が良いのだろうか。
そもそも『盗賊』は攻撃力が低いから一人ではダンジョンに入るのは難しい。
でも、ウチの家族は遠巻きにされていて誰かが一緒にダンジョンに入るというのは不可能だ。
ウチの家族は何とかギルドカードを発行してもらって、モンスターが弱い低層階でちょっとしたものが出る宝箱をちまちま開けて、その中から出てきたものを買いたたかれてようやく暮らしていた。
そして、それでも固定職業の強制力なのか、『盗賊のスティール』である私はダンジョンで活動する事から離れられない。
そんな中、ある日唐突に、
『新たに『魔王』が倒されました』
『固定職業の縛りは解けて、新たに『魔王』を倒した奴は今までの職業に加えて別の職業にもなれるぞ』
という声が響いた。
たまにこの世界にある世界の声というやつだ。
滅多にないけれど、この世界に大きく動きがあった時、世界に声が響く。
ウチの家族は、その声が響いた時小さい家の小さいリビングに居た。
ウチの家族は皆同じ事を思ったのか、明るい表情で顔を見合わせた後、すぐに俯いた。
それはそうだ。
ウチの家族だけでは『魔王』を倒せるはずもない。
いくら固定職業の縛りが解けると言っても、まずは『盗賊』のままで魔王を倒さなければいけない。
しかも、『盗賊』と冒険者パーティーを組んでくれる人たちなどいるはずもないのだ。
鬱々とした日々が続いた。
街の皆もあの世界の声を聴いたのだろう。
何か言いたそうな視線を向けられたが、『盗賊』と話をしたりパーティーを組もうなどという奇特な人は現れなかった。
でも、そんな毎日が変わるときが来た。
---
その日も、ダンジョンに入って、ぎりぎりモンスターに対処しつつ、宝箱を開けてギルドで換金してもらうために道を急いでいた。
お母さんが最近風邪気味なのだ。
私に『盗賊のスティール』の主体が移ってから、固定職業の保護(なんと説明したらいいだろうか。固定職業と呼ばれる私たちはあまり病気にかからない。その固定職業を維持するための神様の加護のようなものだ)が一部消えて、お母さんは病気にかかるようになってしまった。
お母さんも『盗賊のスティール』なのだけれど、なんていうか今は私が『盗賊のスティール』の本体なのだ。
私たちは最低限の生活を送っているので、固定職業の保護が消えると病気にもかかりやすい。
だから、薬代やちゃんとした食事代にしようと思って、危険を承知で低層階だけでなく中層階にも侵入して宝箱を無理やり私が開けていた。
かなり服も体もボロボロになったけれど、これならお金がもっと貰えるはずだ。
(神様の保護があっても固定職業のものは死ぬときは死ぬ。それは固定職業『遊び人』が証明している)
そんな私の道行きに、唐突に影が差した。
「あっ、すみません! 君ってスティールちゃんだよね?」
「……………えっ?」
私はあまりにも驚いて、名前を呼ばれているのに最初は自分が呼ばれているとは気づかなかった。
『スティールちゃん』???
見ると、目の前にはすごく整った顔をした戦士風の少年と、花がたくさん入ったワゴンを押している金髪の三つ編みのかわいい女の子がいた。
女の子の方が少年を押しのける。
「ちょっと! クアトくん。スティールさん? が驚いているじゃない。あ、あのごめんなさいね。私は固定職業『花売りのフローリア』でこっちが剣士のクアトくん。ちょっとお話があるのだけどいいかしら?」
「え…………? お金は持ってません。これは私のお母さんの薬代にするアイテムで………」
『花売りのフローリア』なんて初めて見た私は動揺して、とりあえずは大事な収穫品のアイテムを抱きしめた。
私たち一族と同じで固定職業の人たちはお金がないのかもしれないから。
「そうそう! スティールちゃんってそういうキャラ設定だったよね! 分かるなあ!」
そんな警戒する私に、剣士(?)のクアトさんが満面の笑顔を向けてくる。
そんな風に笑いかけてもらったことなど、記憶にあった試しもないから私は後ずさりした。
何か企んでいるに決まっている。
「クアトくん、黙って! 何もあなたに害がある事はしないわ。あなたを助けたいのよ。話を聞いてちょうだい」
真剣な表情をする『花売りのフローリア』さんの横で、クアトさんが何度も頷きながら小さく拍手をする。
こんなにフランクに人に話しかけられたのは、いつの事だろうか。
経験もないかもしれない。
もしかしたら、この突然現れた二人は私をだますのかもしれない。
でも、嘘でもよかった。
嘘でも、同年代の子と親しく話せるなら嘘でもよかった。
とりあえず私は、自分の小さな家に移動して話を聞くことにした。
ガラガラとキラキラしている花がいっぱい入ったワゴンを押した女の子と、やたら顔が良い少年が着いてくる。
後ろの方では、近所の人がひそひそ囁いているのが聞こえた。
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「さあ! 私の後に着いてきて!」
「……………はあはあ、待ってください!」
「頑張れー、スティールちゃん」
フローリアさんがワゴンを押しているとは思えない爆速さでダンジョンを進んでいく。
気の抜けたようなクアトさんの声援がそれに続いた。
次の日、何故か私は朝早くからダンジョン都市「リリス」のダンジョンに移動して、ダンジョンの中を走っていた。
本当に、何故か。
「アタシの箒の後ろに乗る? スティールなら乗せてもいいのよ、特別に」
と魔女さん。
「自分の自転車の後ろに乗る? コツが必要かもだけどね☆」
と前輪が大きすぎる自転車に乗ったピエロ(遊び人)さんがおどけたように提案してくる。
正直乗るところがあるように見えない…………。
後、魔女さんの箒は後ろに箒の棒の上でバランスとって座れそうな気がしない。
私は、盗賊だけれど、そういうのは器用ではない。残念だけれど。
「っ…………いえ、いいです。ぜえぜえ」
私がどうしてこんな息を切らしながらもダンジョンの中を走っているのか。
それは、クアトさんの持っている『魔王を見出す羅針盤』という魔道具で、ランダムに現れる『魔王』がこのダンジョンの奥に居ることが分かったからだった。
そして『盗賊のスティール』である私を『魔王』退治にフローリアさんとクアトさんが誘ってくれた。
『魔王』を倒すと、一族の悲願である固定職業の縛りが解ける。
そして、別の職業も貰える。
私は一族の必死な顔に見送られて住んでいる街を後にしていた。
クアトさん曰く、
「前、この『羅針盤』を取った時よりも下の階にいるみたいだけど、一回行ってるから早く行けるね!」
だそうだ。
確かにクアトさんがいうように、素早くダンジョンを攻略していく。
フローリアさんの固定職業のスキル『絶対花売り』(?)のスキルで弱い敵が全部動きが止まるのだ。
「花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です!」
そういう風にモンスターに向かってフローリアさんが言うと、面白い位にモンスターが動きを止め、サクッと倒せるようになる。
夢のようなスキルだ。
ちなみに固定職業である『盗賊のスティール』の固有スキルは、『全てのお宝を手に!』だ。
派手なスキル名であるけれど、要は罠察知に罠解除そして宝箱や扉の鍵開けだ。
それも、今まで私たち一族のようにモンスターが弱い低層階では強い罠も強いかぎのかかる扉も宝箱もない。
自分で言うけれど、ゴミスキルというやつだ。
そして、私は強い皆さんの後ろを必死に走ってついていくのだった。
…………ちなみにお昼になるとフローリアさんお手製のお弁当を、皆でレジャーシートを敷いて食べる。
アツアツのから揚げがすごくおいしかったし、フローリアさんとクアトさんは二人で食べさせ合ってイチャイチャしていた。
皆でわいわい言いながら食べて、なんだか私も普通の人になれた気がした。
…………いえ、私も普通の人になるの。
『盗賊』じゃなくて普通の『探索者』か『冒険者』になりたい。
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……………そうこうして、何日かかけてダンジョンを進むと、海のダンジョン階を抜けた。
「この階層に来るのはこの世界に来て初めてだなあ!」
「でも、知ってるんでしょ? クアトくん」
「うん」
「もう、クアトくんたら!」
フローリアさんとクアトさんは付き合っているらしい。
時々意味不明の会話で盛り上がっている。
そして……………………、
「じゃあ、スティールちゃん。扉開けをお願いします!」
クアトさんが満面の笑顔で私に頼んできた。
海のダンジョンの下の階に階段を抜けていくと、いきなり大きな石造りの扉がそびえたっていた。
扉にはパッと見、よく分からない文様が一面に刻まれている。
でも、頭では分からないのに、感覚では心の奥底では扉に刻まれる謎が私にはわかった。
「クアトくん! 説明が足りないのよ。ごめんなさい、スティールさんの固有スキルを使って扉を開けて欲しいの」
「あ、そうそう。それもあってここにいる場合の『魔王』にはスティールちゃんが最適だと思ってきてもらったんだ。『全てのお宝を手に!』の発動をお願いします! この階は石造りのピラミッドをイメージした階で、スティールちゃんのスキルなしには一歩も進めない階だから」
フローリアさんとクアトさんの声が遠くに聞こえる。
説明がなくても、なんとなく私にはわかっていた。
このダンジョンの階には、私のスキルが必要なんだって。
「任せてください! 『全てのお宝を手に!』」
私は、今まで全然使ったことのなかった固有スキルを叫んで、扉に手を翳した。
気づくと私の手には光る大きなカギが握られていて、鍵から発する眩しい光が扉を貫いた。
私には、扉の謎を私がスキルを使ってねじ伏せる感覚が分かった。
ゴゴゴゴゴゴゴ……………………。
重々しい石を引きずる音がして、大きな扉がひとりでに開いていく。
私の胸は今までになく高鳴っていた。
私の持っているスキルはゴミスキルなんかじゃなかった。
私の一族はこういう仕事の為に、『盗賊』という職業だったんだ。
「さあ、この階では申し訳ないけれどスティールちゃんにじゃんじゃん活躍してもらって、ダンジョンのお宝一杯持ち帰ろう! ……………………あ、そして『魔王』も倒そう!」
ワクワクとした様子を隠せないクアトさんが拳を突き上げた。
「私としては『魔王』を倒すのが一番大事なんだから。クアトくん忘れないでね。私は1人でも多くの固定職業の人の縛りを解放したいの」
「うん、ごめん。分ってるよ。優しいなあ、フローリアちゃん。好きだよ」
「なっ………、クアトくんたら唐突なんだから!」
そして、恋人たちの意味不明のイチャイチャ。
私は自然と笑顔になっていた。
『盗賊のスティール』になってから心から笑顔になった事はなかったのに。
この人たちのお陰だ。
---
そして途中クアトさんが(フローリアさんが言うには)ミスって危ない所もあったものの、無事に『魔王』退治も終えることができた。
世界の声が、
『『魔王』が倒されました』
と簡潔に告げ、私は望み通り首尾よく『探索者』の職業を手に入れることができた。
「これで固定職業の縛りは解けたはずだから」
と『花売りのフローリア」さんが私に告げる。
私は辞退したけれど、『ピラミッド』の階で様々な宝箱から獲得した宝を山ほどくれた。
私は念入りにお礼を言った後、
「スティールちゃん、ゆっくりしていけばいいのに」
と引き留めてくださるクアトさんにも別れを告げ、短い間だけれど仲間として活動した皆の見送りの言葉を背に、生まれ育った街に向かう。
小さい時から感じていた固定職業の呪いは消え、ダンジョンにしつこく行かなくてもプレッシャーを感じることはない。
私はわき目も降らずに、お母さんが待つ街に向かう。
「ルーチェ!」
街の門の前で、お母さんの声が聞こえた。
涙をこぼすお母さんが私だけを一心に見つめていた。
『盗賊のスティール』じゃない。
短い間だけれど、
『ルーチェ』
という『光』をイメージする名前は遠い昔に呼ばれた私だけの名前だった。
お母さんが『盗賊のスティール』の縛りに逆らって、必死につけてくれた名前。
『盗賊のスティール』として自分の名前が消される前に確かに持っていた名前。
今、戻ってきた。
そして私は『ただのルーチェ』『ただのお母さんの子供』になって、そのお母さんの腕の中に飛び込んでいった。
ーおわりー
※踊り子のベリーちゃんはお留守番&カジノで踊ってます。
読んで下さってありがとうございました。
もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。
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