「大好きな花売りのNPCと一緒なら火のダンジョンのボスも楽勝だね」
火のダンジョンは前回1階から10階までと違って、20階までは一か月半近くかかった。
理由としてはやっぱりレベルが上がりにくくなっているのか、時々フローリアちゃんの「絶対花売り」が効かない敵も出てきたからだ。
その場合は手前の階に戻って十分にレベル上げをしてから再度進んでいる。
それに所々に細かい罠もあるし、金貨やちょっとした装備の入っている宝箱も無視したくない。
それで、今はようやく20階だ。
ボス部屋が近づいてきていると思う。
でも、進みが遅い。
特に原因となっていると思われるのが、11階以降に出てきた宝箱型のモンスターだ。
周辺のモンスターよりも何段階かレベルが高いみたいで困る。
なんだっけ宝箱型のモンスターの名前。
僕も転生して13年も経つとゲームの内容がそこまで鮮明に覚えていられなくて困る。
メモしろって?
一応、覚えていることはメモしてるけどインターネットも何もないところで効率よくゲームの内容を思い出せる人ってそこまでいるかなぁ……。
で、モンスター名。
「トレジャーハンター」とかだっけかな。
遠目には普通の宝箱に見えるから近寄ると、宝箱の口を開いて襲い掛かって来るのだ。
リゾッタと魔女の攻撃でもなかなか死なない。もちろん、剣士の僕の攻撃はなおさらだ。
「ダイヤ! ルビー! エメラルド! 剣! 盾! 鎧!」
「うわっ、曲がり角の先にいるなんて卑怯だ!」
またしても、モンスター「トレジャーハンター」が居て宝石や装備品の名前を叫びながら襲い掛かって来る。
正直変なモンスターだ。
「花は要りませんか? 一輪銅貨50枚です」
フローリアちゃんがとっさに「絶対花売り」を発動しようとするけれど、やっぱりモンスターは止まらなかった。早々に切り替えて水属性の片手剣で切り付けている。
「死へのカウントダウン!」
喋ることができるモンスターだからか即死魔法も唱えてきて厄介すぎる。
僕を即死魔法の黒い霧が包んできて、ストップウォッチみたいに目の前に減っていく数字がデジタルで表示された。
「二段切り!」
思わず、叫ばなくてもいいスキル名を必死で叫ぶ。
リゾッタも焦ったように水属性の投げナイフを何本も投げた。
「ウォーター! ウォーター!」
せっちゃんが水魔法を連続で唱える。
コントロール良くモンスターの開いた口に水が吸い込まれていき、
「がばばばばっっっ」
とかいうゲームではなかった声を出してモンスター「トレジャーハンター」は沈黙した。
淡い光に包まれてモンスターが消え、後にはびしょびしょになった魔石と、レアドロップ「聖人のローブ」(フローリアちゃんに着てもらってる守護のローブの上位互換)が落ちた。
ちなみに変なモンスターだから個別設定を奇跡的に覚えているけれど、「本物の宝箱になりたくて宝物を求めて戦いを重ねているモンスター」だった気がする。
「フローリアちゃん、今のモンスター、粘れば「聖人のローブ」をただで集められるけどリスクあるね」
「スキル「絶対花売り」が効かないのは怖いよね」
「また、下の階に戻ってレベル上げする?」
僕の言葉にすぐさまフローリアちゃんが反応する。
そう、火の玉とかその他モンスターはフローリアちゃんのスキルが効くのに、モンスター「トレジャーハンター」は他のモンスターとレベル帯が違う。3レベル以上上だ。
「アタシは二人に従うわ」
「自分もー☆」
正直、引き返してもっと雑魚狩りをしてレベル上げをしてもいいような気はする。
魔王を倒すのに、必要な装備や資金を集めるためにリリスのダンジョンに潜っているけれど期限が切られているわけじゃない。
冷たいようだけれど、ダンジョン都市「リリス」が魔王に壊される気配はまだないし、まだ壊されているのは僕たちの知らない村や町だ。
それに、別に結成されたばかりの僕たちのパーティー「クリスタルフラワー」が頑張らなくたって他の冒険者たちもいるだろう。
え、いるよね? あまり話を聞かないけど。
「クアトくん、次のボスは結構楽に倒せるはずなのよね?」
フローリアちゃんの質問に僕は頷いた。
そっかそっか、もう20階だしボスまで強行突破してボス倒して効率的にレベルアップする作戦か。
木のボスと火のボスを一ヶ月に一回倒せるようになっておけば、経験値もお金もまとまって入るしね。
「次のボスはフローリアちゃんも本で知ってると思うけど、火のボスで大きな猿が鎧着て火の槍持ってるやつ。猿の鎧はリゾッタのスキル「パラダイスリゾッタ」で脱げてセパレートの水着になる」
いわゆるネタボスだ。運営からのメッセージ的な感じ。
『リゾッタのスキルを色々試してね。NPCや自キャラも水着になるけど、ボスにも試してみると面白いよ☆』
的なお遊び要素だ。
前世に猿のボスがメスだったという事でちょっとだけ盛り上がった。
フリフリのピンク水着のボス猿はイラストにもなってSNSを賑わせたもんだっけ。懐かしい。
「でも前にも言ったように砂浜へのフィールド変更の効果はボス部屋に効かない。フィールドがランダムで火の床になる。でも、火の床になるところは事前に床が赤くなってからだからそこまで避けるのは難しくない。猿は火のボスだけあって水属性にめちゃめちゃ弱いから、僕とリゾッタとフローリアちゃんで水属性の武器持って、道具屋でも聖水(光と水属性)ありったけ買ってぶつければ普通にいけると思う。……多分」
火のボスは強烈なネタキャラだっただけあって比較的色々覚えていて助かった。
フローリアちゃんたちが僕の話を真剣に聞いてくれているのに感動する。
僕って今、役に立ってるね!
「クアトくん、色々教えてくれてありがとう」
「いやいや」
「ダンジョンの先はまだまだ長いわ。ここはボスまでいっちゃいましょう!」
フローリアちゃんがそう言って、キリッとした顔で拳を突き上げた。
水着のフローリアちゃんは可愛い。
「「「おー!!」」」
僕たちはフローリアちゃんの言葉に僕たちも握りこぶしをあげた。
……いいな、こういうノリ。ゲームみたいで。
読んでくれてありがとうございます。
いいねがあったりポイントが増えてたりすると、早く次のお話をかかなきゃって気持ちになります。
いつもありがとうございます。




