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前世が【氷の魔女】だった俺、終末世界でもソロキャンを楽しみたい!  作者: 笠鳴小雨


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12.石灰ドバドバァ

 


 ――大型ショッピングモールの入り口の駐車場。

 そこに一人の男がようやく帰ってきた。




「アキラさんお帰りなさい!!」


 入り口の警備を担当していたセーラー服を着た女性が大きく手を振りながら、俺を迎え入れた。


 恥ずかしく思いつつも、俺は小さく振り返す。

 それと同時に、こんな俺でもこのグループで受け入れて貰えているのかもしれないと少し気持ちが緩む。


 彼らは俺の過去を知ったうえで、優しく受け入れてくれた。

 俺の居場所はもうここ以外にはない、そう思っている。


「どうでしたか? 今日の戦果は」


「いつも通りだ、あとはいつもみたいに分配頼むよ」


 俺はそう言って、背負ってきた三つの大きなバッグを彼女に渡した。


 バッグの中には、様々な物資が入っている。

 隣町や森側から見つけてきたものだ。

 ここにいる人では行けないような場所に赴き、物資を調達する。


 その代りに、俺は自由を与えられた。この自由は絶対に無駄にしない。

 あいつを倒すために、俺は全力を注ぐのみだ。


「はい、任せてください!」


 見様見真似であろう、拙い敬礼をしてきた女子高生は嬉しそうに俺からバッグを受け取る。


 まあ、俺から見れば拙いのであって、一般人から見ればそれなりにキレがあるように見えるのだろうか。


 そこに彼女と警備をしていたもう一人の元OLの女性も俺の前に立ち、バッグを受け取ってくれた


 二人とも笑顔だ。

 良かった、今日も俺はこの人たちの役に立てたようだ。


「そういえばアキラさん聞いてくださいよぉ~」


 最初にバッグを受け取ってくれた……確か、徳永さんと言う子だったはずだ。


 彼女が不意にそう言ってきたのだ。

 俺は踵を返そうとした足をゆっくりと戻し、彼女に返事をした。


「何だ? 新しいスキルでも手に入れたのか?」


「そうなんですよぉ~。いつも通り頭の中に声が流れてきてですね……【ライン引き】って言われましたよ。信じられます!? 【ライン引き】ですよ!? ありえないですよね~」


 明らかに落ち込む素振りを見せた徳永さん。

 隣の元OLの女性も口元を隠しつつ、苦笑をしていた。


【ライン引き】、か。


 あれのことなのか?

 グラウンドとかに引く白線……そう、石灰だ。


「石灰を出す能力とかなのか?」


「その通りです。ただ石灰を出すだけ、それ以外の特徴なんて皆無ですよ皆無! もう、どんな条件を満たせばこんなスキル手に入るんだって、私の方から聞きたいですよ~」


 そう言いながら証明したかったのか、彼女の掌からドバァドバァと白い粉――石灰――を出し続け、死んだ魚のような目を地面に向ける徳永さん。


 ……本当にそれだけの効果なんだな。

 外れスキルもあるとは聞いていたが、こんな使い道のよく分からないスキルまであるんだな。

 いや、今は使えないかもしれないが、文化の死んだ世界において石灰が重要だと昔の同僚から聞いた覚えがあるな。

 どこでそんな知識を仕入れたのかは知らないが、その同僚は博識で、アニメや漫画が好きだった。もしかしたらその辺りから仕入れた情報かもしれないな。


「まあ、いずれ役に立つさ」


「アキラさんまでそんなぁ~」


 俺は彼女の肩を優しく叩き、今度こそレベルアップに適した目的地に向けて、踵を返したのだった。

 後ろからは「こう……石灰をまき散らして、『目くらまし』ッ!! 何てどう思いますかね?」なんて女性二人の話し声が聞こえてくる。


 ああ、本当にここは今日も平穏な場所だ。

 少しの間いるだけでも、心が安らいでいく。


 よし、今日も残った時間でレベル上げだ。


 やつを倒すにはまだレベルが足りない。

 それに……戦力も足りない、俺だけでは足りないんだ。

 この街で奴と渡り合えるのは……恐らく俺と紫森ねむの二人だけだろう。


 そうなると、あと一人……奴と戦える強者が現れれば。


 紫森のやつは赤司さん以外にはその強さを隠しているつもりらしいが、俺には分かる。

 あいつはそれなりにレベル上げをしている人種だ。

 足運びや警戒心、普段の動きを見ていれば俺には分かる。

 あれほどの抜き足をできる人は自衛官にもそうそういないだろう。


 後でスキルの話をしている彼女たちに「行ってくる」と振り向きざまに小さく伝え、手を振った。


 その時だった。

 噂をすればなんとかだ。


「おー、アキラっち、ちょうどいいところに!」


 紫森ねむの幼くも落ち着いた声が背後から聞こえてきたのだ。

 俺はゆっくりと声のした方向に振り返った。


「なんだ?」


「ちょっと共有しておきたいことがあるんですよ。少しお時間良いですか?」


 そう言い切る前に、紫森ねむは俺の手を強引に引っ張り出し、住処の中へと入って行く。


 紫森はいつも強引だ。


 それに自己中心的な性格をしていて、俺とは合わない。

 俺とは違ってグループに馴染めないのではなく、あえて馴染まない。

 その理由は分からないが、赤司さんはそれを許容している。それほどの力が紫森にはあるのだろう。

 俺にも詳しくは分からない。だけど、いつも真っ先に情報を入手してくるのは決まって紫森だ。

 信用していないわけではない。

 紫森の持ってきた情報で命を救われたことは少なくないのだ。

 だから、どんなにそりが合わなくとも紫森の言葉は聞くようにしている。


「ああ、構わない……が、そういう強引なところは直したほうがいい」


「あはははっ、そろそろ慣れてくださいよ~。とりあえず、赤司さんの部屋に行きましょう。そこなら他の人に聞かれないでしょうしね」


 顔だけ振り返った紫森は満面の笑みでそう言ってきた。


 ああ、厄介なパターンかもな。

 俺はそうすぐに直感した。


 紫森が満面の笑みで渡してくる情報は、決まって良くない情報だ。

 俺に何とかしてくれ、という無言のアピールがビシビシと伝わってくる。


 そんな紫森ねむについて行くように、背中を追っていると。


「アキラさん!」

「アキラお兄ちゃん、お帰り!」

「あー、強いお兄ちゃんだ!」

「アキラさん!」

「おー、アキラの坊主帰ってきたのか」


 ここにはそれなりに多くの人が住んでいる。


 確か俺が最後赤司さんから聞いた時で、老若男女含め計三十七人はいたはずだ。

 ただ、今はもう少し増えているな。

 数日、ここを離れていたが見ない顔が増えている。


「アキラって、赤司さんが言っていたここ最強の人だったよね?」

「あれが、アキラさん?」

「アキラさんって元自衛官の人なの?」

「本当だ、迷彩服着てるね」


 そんな声がちらほらと聞こえてくる。


「アキラっち、またくせ毛クルクルしてるよ?」


「あ、ああ……すまない」


 考え事をしているとき、恥ずかしいと思っているとき、無意識で俺は髪の毛をくるくるしてしまう癖がある。

 その行動が端から見れば、結構怪しいらしい。

 目つきも心なしか鋭くなっているらしいのだ。


「いんや、私はそれ可愛いと思うけどねぇー」


 ふふふと笑いかけてくる紫森。

 そして、そのまま彼女はノックもせずに赤司さんの部屋へと入って行く。


「失礼しますよー、赤司さん」


 部屋の中には、机の上に広げられている地図と睨めっこしていたリーダーの疲れ気味な姿があった。

 突然の訪問に驚き、呆れている様子だ。


 俺も久しぶりの期間の為、軽く会釈をしておいた。


「ああ、ねむか。それとアキラもお帰り」


「はい」


 赤司さんに差し出された手を、俺は力強く握り返した。


「それでどうしたんだ? 二人そろってなんて、珍しいな」


 赤司さんが紫森に疑問をぶつける。

 俺も同じように、空いている椅子に腰を掛けた紫森に視線を向けた。


 赤司さんは気が付いていた。

 俺をここに呼んだのは紫森だと、そしてここに来たということは……他の人には口外したくない情報を話すのだろうということを。

 それを察して、すぐに赤司さんが部屋の扉を閉めた。


 少し間を置く、少女。


 そして、ゆっくりと語り始めた。


「ホームセンター組みの動きが最近活発になってきているんだよ。というか、レベル上げに奔走しているの。それで……明後日、『白猿』討伐に向かうみたい。本当にバカたちは歯止めが効かないね。どうする?」


「なッ!?」


 赤司さんが驚きの表情を浮かべ、思わず椅子から腰を上げた。

 そして、同じく――。


「それは本当なのか?」


 俺は怒りを隠さずに、声に出していた。


 そう、やつらは勘違いしている。

『白猿』はまだ、俺以外と戦うときには本気を出していないということに気が付いていないだけなんだ。

 絶対にあいつらには勝てない。


 ましてや『カード持ち』でもない、あいつらが。


 くそッ、明後日だと?

 あいつらが動けば……この街は荒れるぞ。

 白猿が再び人間を標的にすれば、この街にいる人間は今度こそ全滅だ。


「まあ、私もこれをただ見ているわけにもいかないので……助っ人を呼びたいと思うよ。ニシシ……」


 なぜか不敵な笑みを浮かべる紫森ねむ。

 しかし、助っ人だと?

 そんな奴一体どこに……。


「『白猿』と対等に戦える奴なんて、この街には俺たち以外には…………はっ!? まさか??」


「うん、さすがアキラっち。EXスキル持ちは直感が鋭いね。……今、この街に外部からの強力な『カード持ち』が来てる。恐らく…‥アキラっちと同等か、それ以上かな? 私の見立てだとね」


 そうか、それなら!

 もしかするかもしれない。


 ただ、最善の結果はあいつらに『白猿』討伐を諦めさせること。

 助けを求めるよりも、俺たちにできることをしなければ。


「だったら、俺はホームセンター組のリーダー高城と話をしてくる。赤司さんも一緒に来てくれ」


 そう言って、俺は赤司さんに視線を向けた。

 すると、すぐに首を振ってくれたのだ。


「もちろんだ、あいつらはバカな奴らだし、私たちとも行動理念が合わないが……若者の死は見過ごせないよ。私も同行しよう、その方が成功する確率が上がるだろうしね」


 そこで紫森ねむが勢いよく、椅子から立ち上がった。


「んじゃ、私は助っ人交渉役だね」


 再び、不敵で無邪気な笑みを浮かべていた。


 タイムリミットは明後日、やつらが『白猿』討伐に向かうまでだ。


 それまでにはこの状況をどうにかしなくては……。


 俺と赤司さんの説得。

 又は、紫森ねむの助っ人交渉。


 どちらかが失敗すれば、確実に俺たちは全滅する。


 俺はいつの間にか、自分のくせ毛を弄っていたのだった。

 ああ、奴らさえいなければ……。


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