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電力から魔力へ

「えー、ヤダよ。面倒くさいじゃん」


 悪びれもせずに鼻をほじる俺の姿に、凛ちゃんは脱力したように肩を落とした。


「はぁ……もう驚くの疲れちゃいました。でも、すごいですゲンさん! 傷一つつけずに倒しちゃうなんて……!」


「ガハハ、戦いは力押しだけが全てじゃねぇってことだ。嬢ちゃんも付き合うなら俺みたいな知的な男じゃないとな、ガハハハ」


「えー、ゲンさんみたいな人ですかぁ〜」


「おい!」


 俺たちは蜂の巣の奥へと足を踏み入れる。そこには、大樽ほどもある黄金色の巨大な蜂の巣が鎮座していた。

 巣の隙間からは、濃厚で芳醇な香りを漂わせるハチミツがとろりと垂れ落ちている。


「うわぁぁぁ……! すごい! 本物のハチミツよりも甘そうな匂いだ……!」


 凛ちゃんの目がキラキラと輝く。

 俺は手際よく『魔鉄製のナイフ』で巣の一部を切り取り、先ほど殺虫剤を練った時に余った植物の茎を錬って即席のコップにした。それにたっぷりとハチミツを汲んで渡してやった。


「ほらよ、約束のハチミツだ」


「ありがと〜ございます! いただきます……んんんっ〜〜〜〜♡」


 一口舐めた瞬間、凛ちゃんの顔がとろけるような笑顔に包まれた。


「美味しいっ! 甘くて、なんだか体がポカポカして疲れが吹き飛んでいくよ……!」


「おう、魔物のハチミツは魔力回復の効果もあるからな。……さて、嬢ちゃんがモグモグしてる間に、本命のドローンを組み上げるとするか」


 俺は回収したキラー・ビーの羽と、魔物の甲殻、そして壊れた配信機材のコアを出しながら……


「嬢ちゃん、テーブルだけ出してくれ!」


「ふみゃ……(もぐもぐ)……はいっ! 『テーブル』」


「よし……またハチミツを食べてな。『錬成』!!」


 俺の両手に練り上げた極大の魔力が、『テーブル』上の素材を一気に包み込む。

 キラー・ビーの羽が分解され、超小型の反重力推進パーツへと再構築されていく――!


 バチンッ!!


 おお、これなら魔力が流れるだけで飛べるよ。早く飛ばしてみたい。

 でも動力の問題があるんだよね。この反重力推進パーツを使うには電力から魔力へ動力を切り替える必要があるし……電波では地上へ届かないと思う。


「うーむ……動力は魔力変換でいけるとして、問題は地上への通信だな……」


 アゴをさすりながら腕を組む俺。

 奈落の底は、地上との間にぶ厚い岩盤と強力な魔力濃度が存在する。並の電波や魔導通信じゃ、地上どころか数層上にすら届かねぇ〜と思う。


(……待てよ。キラー・ビーの群れは、どうやってこの広大な奈落で意思疎通を取ってたんだ?)


 俺は足元に転がるキラー・ビーの頭部――その『触角』と『魔石』に目をつけた。


「そうか! ヤツら固有の超高周波の魔導波だ! これを配信機材の送信アンテナに組み込んで、魔力増幅の鉱物を……!」


「……むぐむぐ。ゲンさん、一人でブツブツ言ってどうしたのー? それってハチの触角だよね?」


 口の周りにハチミツをつけながら、不思議そうに首を傾げる凛ちゃん。


「そうだな。配信を地上に届ける為に電波じゃダメだから、魔導波へ切り替えようとな! それでキラー・ビーの触角で……」


「モグモグ……あま〜い、しあわへ〜――そうなんだね。でもハチなんだから女王バチの触角なら凄いんじゃないの〜……モグモグ」


 ――――――! それだぁ!


「嬢ちゃん! ナイスだ!」


「わぁ! ゲンさんは普段から声が大きいんだから興奮しないでよ。あー、零れちゃった……ゲンさんのバカ!」


 えー、褒めたのに怒られるのか?


「そんなに甘いのばかり食べてると太るんじゃないか?」


「――――もう、信じられない。乙女に太るとか、ゲンさんこそデリカシーを地上に忘れてきたんじゃないの……」


「ガハハハ! 安心しろ。最初から無い!」


「――――――そっちだったか……」


 がっくりと肩を落とす凛ちゃんを横目に、俺は巣のさらに奥――不気味な威圧感が漂う深部へと視線を向けた。


「よし、決まりだ! 女王バチのクイーン・ビーの触角を狩りに行くぞ!」


「ええっ!? 冗談で言ったのに本当に探すの!? だって女王様でしょ? 絶対おっきくて強いじゃん!」


「ガハハ、安心しろ! さっきの殺虫剤がまだ余ってるからな。いくらデカくても虫は虫だ!」


「……あ、そっか。ゲンさんの怪しい煙があるんだった」


 凛ちゃんは納得したようにうなずくと、手に残ったハチミツを綺麗に舐めとって『テーブル』を構えた。


「よし、行こうゲンさん! 女王様のハチミツも奪っちゃおう!」


「おう! 目指すは極上の触角と、ついでにロイヤルゼリーだな!」


 ◆◆◆◆


 巣の最奥に鎮座していた体長5メートルを超える巨大な【クイーン・ビー】も、俺特製の『超濃縮殺虫スモーク』の前には形無しだった。

 巨大な体をピクピクと震わせてあっさり撃沈した女王バチ。ハチミツを食べ終わった凛ちゃんと俺は、目当ての『大型の触角』と特上の魔石を迅速に剥ぎ取った。


「よしよし、これぞ魔導アンテナの素材としては極上だろう! 嬢ちゃん、『テーブル』をセットだ!」


「はーい! 『テーブル』展開!」


 凛ちゃんが展開したテーブルの上に、キラー・ビーの羽、甲殻、魔鉄、そしてクイーン・ビーの触角を並べる。


「さあ、見せてやるぜ……職人技の極致ってやつをな! 『超・錬成』!!」


 俺の両手から解き放たれた魔力が、素材を素粒子レベルで分解して再構築していく。

 クイーン・ビーの触角を中心に極小の増幅アンテナへと姿を変えていく――!

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