もう一つの『ねる』
「これをこうして……よし、嬢ちゃん。『テーブル』を出してくれ」
「はーい! ゲンさん、ここでいいですか?」
「ああ。うむ、助かる!」
俺は道すがら拾い集めておいた変な石ころや金属の破片を、凛ちゃんが出したテーブルの上にずらりと並べていく。あっという間にテーブルの上が鉱石でいっぱいになった。
「ゲンさん? 石ばかり集めてどうするの? それに……さっき倒したあの魔物から素材は取らないの?」
「お、よく知ってるな。流石はアイドルと言っても元冒険者だ」
「もうっ、バカにしないでよ! 剥ぎ取りくらい基本中の基本なんだから! ……私の担当だったし。荷物持ちだから」
少し頬を膨らませる凛ちゃんに、俺は苦笑しながら手を動かす。
「あの魔物の甲殻は少し硬くてな。そのままじゃ加工しづらいから、まずは道具を作るための準備だ。……これからちょっと精密な作業をするんだが、嬢ちゃんの『テーブル』のおかげで、このガタガタな奈落の底でも完璧に平らな場所を確保できるのは本当にありがたいよ」
「え……? ほんと……?」
「ああ。職人にとって『平らで揺れない作業台』ってのは、何物にも代えがたい宝物だからな」
「……そっか。ふふっ……えへへ! 初めて、私のスキルが誰かの役に立った……!」
パァッと花が咲いたような笑顔を見せる凛ちゃん。
それじゃあ、この可愛らしい「最高の作業台」の上で、さっそく俺の『ねる』をお見せするとしますかね。
「嬢ちゃん……お前さんのスキルの参考になるかも知れん。俺の『ねる』には更に別の使い方があったんだ。それが『錬る』だ!」
「うん? 『ねる』でしょ? 何が違うの?」
「なら見てろよ……テーブルの石にスキル『錬る』発動! 魔力を練って、それを石に浸透させる。これで準備完了だ。必要な部分と不要な部分を分離させて……再結合! うん、出来た!」
テーブルの上には、不純物が一瞬で削ぎ落とされた綺麗な金属の塊――【高純度鉄インゴット】が鎮座していた。
なかなかの出来だな。テーブルが無い時は、こんなに効率的で綺麗な仕事は出来なかった。
「ゲッ、ゲンさん……? 何いまの……?」
「はは〜ん。ドヤっ! すげーだろう?」
俺はこの奈落へ落ちてからスキルを研究し、辿り着いた『ねる』のもう一つの形『錬る』を誇らしげに披露した。胸を張って凛ちゃんを見るが……なぜかキョトンとしている。
「何か……別の物になった……のかな? 動きが速すぎて……それで、この金属がそんなに凄いの?」
「かぁ〜っ! 分からんのか!? ただの石から高純度の金属を取り出したんだぞ! 物質が別の物に生まれ変わるこの男のロマンが……!」
「ご、ごめんなさい! よく分かりません……! 何か凄そうってことくらいしか……」
「……な、なんだと……! これだから若い女の子ってのは良く分からん……! ならこれなら分かるか? 俺はいま、『錬金術師』と同じことをやったんだ!」
「………………え?」
凛ちゃんの動きがピタリと止まる。
「れ、れ、れ……『錬金術師』ですかぁぁぁ!? あの、冒険者の中でも超激レアで、作れるものは物理法則を無視しているっていうクラフト系最高峰の全職人の憧れスキル!?」
「おう、まあ、やってることはそれと同じだな」
「……やっぱりドワーフさんじゃないですかぁ?」
「だぁ、違うって……」
話をしている間にも『錬る』で金属を練る。そうして出来たナイフを凛嬢ちゃんへ渡した。
「へっ? もう出来たの? ……何これ……凄いナイフなんですけど……ただの鉄のナイフかと思っていたら……」
「まあな。この奈落の最下層で鉄を探す方が難しいぞ。魔力が濃いから鉄が変質するからな。これは『魔鉄』と呼ばれる鉄で、魔力を帯びているから加工した時の仕上がりが素晴らしく……魔力を帯びた金属だから……」
「ふわぁぁ〜、まだ続きますかぁ……ゲンさん?」
なぜこの素晴らしさが分からない。この金属特有の美しさや加工して生まれた道具の愛おしさを……そして工具を持った時の高揚感が……たまらん。まぁ、それよりも……
「嬢ちゃんは魔物の剥ぎ取り担当だったのだろう? ならそのナイフで頼むよ。俺はこの配信機材を少しな……」
カチャカチャ……ピッタ……
「はーい。剥ぎ取りなら任せてよ。フフン! えっ、えええ〜。何このナイフ……こんなに切った時の抵抗がないのは初めてかも……しかもこんなに硬そうな魔物なのに……でもこのナイフがあれば剥ぎ取りも楽に……」
突然、楽しそうに剥ぎ取りをしていた嬢ちゃんの動きが止まった。なんだ?
「ゲンさん? それ……配信が出来てるんじゃないかな? ほら……」
突然話しかけられた俺は焦って手が滑り、機材を落としてしまった。
ガッシャーーン!!
「あーー。なんたる事だ。自分のミスで仕上げた作品を……俺はクラフトマンとして失格だぁ!」
「やっぱりドワーフさんですよね? その考え方は……でも、確かに配信出来てたなぁ〜。誰か見てくれていたらいいのになぁ〜。地上に戻れるのはいつになるのかなぁ?」
点滅していた機材は今は反応していない。嬢ちゃんはそれを見ながら悲しそうな顔をしていた……チクショウめ!




