久しぶりの太陽
『『『おっさんwwwwwwww』』』
『開口一番「日本酒くれ」は草wwwwww』
『世界中のスカウトマン「に、日本酒……!?」ってズッコケてたなwww』
『平川評論家氏「……ドワーフの種族特性として、酒類への執着が強いのかもしれません(震え声)」とか無理があり過ぎwww』
『重課金貴族「【赤スパチャ 1,000,000円】最高級の二十四代を100本手配した。現地へ運ばせる」』
コメント欄が歴史的な草の嵐で大炎上する中、リムジンの横から駆け寄ってきたのは、スーツ姿のジョニーCEOとプロフェッサーだった。
「ヘイ! ゲン! 無事で何よりだ! 欲しがっていた酒なら、10ケース用意してやるぞ!」
「がっははは! なんだお前、話の分かる奴だな! 気に入った! だが、まだここを離れるワケにはいかないんだ。少し待っててくれよ」
「ちょっとゲンさん! 観客のみんなにもっと何か言いたいことないの!?」
凛は愛想良く手を振りながら俺に質問をする。
「凛嬢ちゃん。見てみろよ。ここは俺の戦場じゃない。嬢ちゃんたちアイドルの戦場だろう。お前さんたちを見たくて集まったんだ。こんなステージは中々ないだろう。俺にはやる事があるからな」
そう言って空を指さし、俺はニヤリと笑う。
凛嬢ちゃん・アリス嬢ちゃん・クロエ嬢ちゃんは、新しくなったミスリルを糸状にして編み込んだドレスアーマーを着て、集まった観客へ再度手を振る。衣装係のデザインが間に合って良かった。
空からは一機のヘリコプターが現場に降りてくる。すぐに扉が開かれ、ストレッチャーに横たわる1人の少女が……。
俺はその少女――神楽坂ノエルに近づいていく。
『おっさん、足が短くてなかなか辿り着かない件www』
『カッコいいと少し思ってしまった自分が恥ずかしい!!!』
『やっぱり日の当たる所で見てもドワーフwww』
奈落に来られないリスナーも、セラフィムの向こう側で見守っている。温かい悪口と共に……。
「ご苦労様です! 神楽坂ノエルさんです。社長より……イエ、重課金貴族様より丁重にお連れしろと……」
「ああ、ありがとう。何、すぐに終わるさ」
――キュポン!
フタを開ける良い音をさせて、芳醇な香りが辺りに立ち込める。
「すまんな! 少しヘリを汚してしまうかも……」
「重課金貴族様より了解はもらってますのでご存分に……」
俺は横たわる少女に中身を注いでいく。肌は白い粉を吹いていて、その面積は身体の半分くらいを覆う程だ。
「さぁ、服の中も……グヘヘヘ!」
「グヘヘヘッ、じゃありません! ここからは私がやりますからね……」
なんと、服を捲り『アビス・ミード』をかけようとした所に、クロエ嬢ちゃんが恐い顔をして腕を組んで立っていた。後ろには凛嬢ちゃんの呆れた顔と、アリス嬢ちゃんの困った顔だ。
「そんな〜〜〜!!!」
『『『そんな〜〜〜!!!』』』
「全員、そんな〜〜〜! じゃありません! わ・た・し・が・や・り・ま・す!」
「……ちぇっ、減るもんじゃなし、ちょっと塗ってやるくらい良いだろ……」
「ダメです! 妹の体は私が守ります!」
プンスカと頬を膨らませたクロエ嬢ちゃんが、俺の手から『アビス・ミード』の瓶を受け取り、慎重にノエルの体に酒を塗り込んでいく。
すると――瓶から垂れた黄金色の液体が肌に触れた瞬間、しゅわしゅわと心地よい音を立てて、体を覆っていた不気味な白粉がまるで幻のように消え去っていった! だけど髪の毛だけは白いまま。
「ん……んんっ……」
「ノエル……っ!?」
まぶたがピクピクと動き、横たわっていた少女がゆっくりと目を開ける。
「……お姉……ちゃん……? ふわぁ〜……ううん……?」
「ノエル!! 病気が……病気が治ったのよ! このおじさんが……アビス・プロダクションのみんなが……リスナーのみんなも助けてくれたの!」
「ほん……とう……? お姉ちゃん……ボクは恐かったよ……っ!」
抱き合って涙を流す姉妹の姿に、ヘリの周りを取り囲んでいた何万人の観客から、地鳴りのような拍手と大歓声が巻き起こる!
『『『ボクっ子きたああぁぁーー!!!』』』
『黒猫ちゃんマジでよかった(号泣)』
『プロフェッサー「驚異的な再生速度ね……! アビス・ミードの薬効、完全に実証されたわ! でも他の組織や国に知られてしまったわね」』
『重課金貴族「【赤スパチャ 100,000,000円】全快おめでとう。これでノエルもアビプロ正式加入だな。サポートは任せておけ!」』
『1億スパチャは草www ノエルちゃんおめでとう!!』
「ガハハ! 良かったなクロエ嬢ちゃん! ノエル嬢ちゃんは初めましてだな。俺は岩本源だ!」
「ドワーフ? お姉ちゃん、ボクは初めてドワーフを見たよ」
ノエル嬢ちゃんがそう言うと、泣いていたクロエ嬢ちゃんも、貰い泣きしていた凛嬢ちゃんもアリス嬢ちゃんも――ここに集まった野次馬たちも警察や自衛隊までも……誰もが笑っていた。
「お前らなぁ〜! だから俺はドワーフじゃねーよ!」
良く晴れ渡った空は……1年ぶりに見た太陽は辺りを眩しく照らしている。薄暗い奈落とは違い、笑い合う笑顔をさらに引き立てるように照らしている――――。




