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訪れる経営危機【ざまぁ】

【マジカルアドベンチャー現社長・御剣慎也《みつるぎしんや》視点】


 例の動画配信から状況が一変した。訪れた警察の追及は上手く躱せたが、世間は許さない。どこへ行くにも、何をやるにも、マジカルアドベンチャーと分かると眉をひそめられる。


「――――以上です、いかがでしょうか?」


「……御剣さん。今までのお付き合いや実績があるので私もなんとかしたいのは山々なんですが……この事業計画では融資は出来ません。私も辛いのです。上からせっつかれてましてね」


 クッ、業績が上向きの時は『借りてくれ!』と言ってきた銀行も、あの動画以降はこちらからお願いしても渋るだけだ。以前は会社にまで来て頭を下げていた銀行の支店長も、今はこちらが銀行まで出向き頭を下げ、支店長は椅子にふんぞり返っている。


「クッ……! わかりました、今日のところは引き揚げます……」


 俺はギリッと奥歯を噛み締めながら、支店長に深々と頭を下げて応接室を後にした。

 駐車場に着き、俺の自慢の外国製高級車に乗り込もうとすると……ドア部分にキズをつけられていた。

 大通りに面した駐車場だし、学校の近くだ。きっとイタズラされたに違いない。


「あ〜、腹立たしい。ドライブレコーダーで犯人を見つけ出して……」


『メモリー不足で作動できていません――』


 車に乗り込み、ハンドルを思い切り叩きつける。


「クソがッ! どうしてこうも上手くいかない。どいつもこいつも手のひらを返しやがって……! 全てはあの忌々しい動画のせいだ……!」


 スマホを取り出し、検索欄を見るまでもない。

 世間のトレンドを独占しているのは、奈落からの配信――『【株式会社アビス・プロダクション】設立』のニュースだ。


『先代社長の本当の孫娘を追放した悪徳会社』として、我が『マジカルアドベンチャー』の名はネット上で完全に大炎上。株価は連日のストップ安を記録し、看板冒険者たちも次々と移籍を打診してきている。


「なぜだ……! なぜにあのアホな岩本源と、先代社長の冒険者にもなれない出来損ないの孫娘が……奈落から配信しているから、こちらから手を出すことも出来ん!?」


 さらに恐怖なのは、アビス・プロダクションが持ち帰ろうとしている「素材」の価値だ。

 市場に出てくれば、我が社の魔物素材を活かした商品のシェアなど一瞬で吹き飛ぶ。冒険者の派遣と合わせた主要事業なだけに、かなりの痛手だ。


「冗談じゃない……! このままあの二人とドワーフが地上に戻ってきたら、俺の会社は本当に倒産する……!!」


 冷や汗が背中を伝う。

 先代から力ずくで奪い取ったこの会社が、奈落の底から這い上がろうとしている「本物の後継者」と「追放した男」によって、俺が築いてきた全てを崩壊させられようとしているのだ。


「……こうなったら、手段を選んでいる場合じゃない。地上に出てくる前に……あの配信を、あの三人(アビプロ)を……絶対に潰す……!」


 御剣は血走った目で、悪謀の電話をかけ始めるのだった――。


「……ああ、俺だ。例の件、すぐに動け」


 御剣が電話をかけた相手は――――冒険者専門の処理部隊だった。冒険者派遣業をしていると、表に出せないが戦闘力だけはズバ抜けている超人が来ることもあり、そいつらは裏切り者や不都合な人物を暗殺する時に使われる組織の一員となる。それがこの『特別渉外課《とくべつしょうがいか》』の役目だ。


「今回のターゲットは奈落の底にいる『アビス・プロダクション』の三人だ。……事故に見せかけて、完全に始末しろ。方法、手段は問わん。文字通り、奈落をヤツらの墓場にしてやれ!」


『おいおい、相手は魔物を秒殺する化け物たちだぞ? 受けるにしても破格の報酬が必要だ。それと女達は貰うぞ! ウチの連中を納得させるには女で釣るのが確実だ!』


「金なら払う! 女は好きにしろ! 奴らに地上に戻られたら我が社は終わりなんだ! なんとしてでも阻止しろ!!」


 狂乱したように叫び、通話を切る御剣。

 冷や汗を拭いながら、彼は自慢の高級車を荒々しく発進させた。

 己の破滅から目を背けるように車を走らせる御剣。

 彼が依頼した『特別渉外課』の暗殺者たちが、裏ルートから奈落の浅層へと潜入を開始したことを、御剣はまだ知る由もない。


 そして彼らが狙う当の本人たちは――。


 ◆◆◆◆


【奈落の底・アビス・プロダクション配信現場】


「ハックショイッ! ――む、誰か俺の悪口でも言ってるのか?」


 ゲンが盛大にくしゃみをし、立派なヒゲをワシワシと掻く。


「ゲンさん大丈夫? 奈落の底は冷えるから気をつけないと。はい! ハンカチ」


「おじさま、私の毛布をお使いになりますか……?」


 心配そうに顔を覗き込む凛とアリス。


『『『尊い』』』

『おっさん、美少女二人に心配されてて羨ましすぎるwww』

『どこかの悪徳社長が今頃血吐いて噂してるんじゃない?www』

『殺意が湧いたwww』

『おっさん、俺達の悪口にくしゃみした件www』


「がっははは、お前達に良い報告があるぞ……」


『『『なに?』』』


「凛嬢ちゃんのハンカチもアリス嬢ちゃんの毛布も……すごく良い匂いがするぞ〜! へへ〜んだ、羨ましいだろう!」


 地上では地獄、奈落では……平和だった。

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