アイドルとして
【風間凛視点】
私は風間凛と言います。高校1年生の16歳です。
小さな頃から綺麗な服を着てみんなを笑顔にするアイドルに憧れていました。特に『冒険者アイドル』と呼ばれるダンジョンで活動するアイドルは世界中で大人気で、私の昔からの目標だったんです。
家族も私の夢を応援してくれて、アイドル養成所にも通わせてくれました。夢に向かって歌やダンスのレッスンに励む毎日は、本当に楽しかった。
だけど……16歳になって授かったのは、『テーブル』という机を出し入れするだけのスキルでした。
ようやく冒険者アイドルとしてデビューできると思ったのに……。
「凛、お前を『ローズ・ヴァルキリア』のセンターとしてデビューさせたい。お前はオーラがある。危険な戦闘は他のメンバーにやらせて、お前は荷物持ちや雑用として手伝いの部分で頑張ってみないか?」
「しゃ、社長? それってメンバーを盾にして私は後ろで見ているだけ……ということですか?」
「言葉が悪いな。要するに『賑やかし兼、荷物持ち』だよ。お前の『テーブル』はせいぜい荷物を載せるくらいしか使えないだろ? だが顔とビジュアルだけはいい。だからセンターに置いて客を寄せろと言ってるんだ。それにカメラは常に可愛いお前を映し出せるだろ……ワハハ、完璧じゃないか!」
「そんな……! 私はちゃんと戦える冒険者になりたくて……!」
「まあまあ、リンちゃん」
そう言って肩を抱くように近づいてきたのは、グループのリーダーで大人気冒険者の神崎さんだった。
爽やかな笑顔を浮かべているけれど、その目はまったく笑っていない。
「社長の言う通りだよ。凛は可愛いんだから、難しいことは私たち『本物のスキル持ち』に任せて、後ろでカメラに笑顔を振りまいて荷物でも持ってればいいんだよ。それが『ローズ・ヴァルキリア』のセンターとしての仕事なの。ね、お荷物さん。……あ、間違えた。荷物持ちさん」
(――あぁ、この人たちは私の夢も、努力も、何一つ見てくれていなかったんだ)
胸の奥が冷たく冷えていくのが分かった。
結局、分かり合えないまま『ローズ・ヴァルキリア』のダンジョン配信は始まった。
神崎さんたちの華やかなバトルと、後ろで重い荷物を持たされて笑顔を張り付ける私。
配信の回数が増え、フォロワーが増えていく度に、メンバーたちとの距離はどんどん開いていった。
そして――あの悪夢の日がやってきたのだ。
「きゃっ……!?」
ダンジョン攻略の最中、足をすべらせたわけじゃない。背中に強い衝撃を感じた。
振り返ると、神崎さんが冷酷な笑みを浮かべて、私を【奈落】と呼ばれる巨大な大穴へと突き落としたのだ。
「ごめんね凛ちゃん。最近、君のアンチも増えてきたし……カワイイだけじゃダメみたい。ここで『事故死』してくれた方が、悲劇のアイドルとしてグループがもっとバズるのよ」
耳元で囁かれた残酷な言葉。遠ざかっていく地上。
あぁ、私はここで死ぬんだ。夢を追っていただけなのに……道具みたいに使い捨てられて、最後は嘘の悲劇のダシにされて終わるんだ――。
冷たい闇に落ちていき、私は静かに意識を失った。
◆◆◆◆
「……ん……あれ……?」
目を覚ますと、私はフカフカの土の上で横になっていた。
「おっ、起きたな。俺のスキルが他人にも使えて良かったよ。がっははは!」
ボサボサの頭をガシガシと掻きながら、ドワーフさん改め『岩本』さんが豪快に笑う。
スキル、か……。散々バカにされてきた自分を思い出し、少し胸が重くなる。
「まぁ、『ねる』なんてスキルで会社をクビになったハズレスキル持ちだけどな。わっははは!」
なんでそんな風に笑っていられるんだろう。
私と同じように不当に扱われたはずなのに、岩本さんのたくましさに思わず感心してしまう。
「ドワーフさん……岩本さんもハズレスキルだったんですね。私も……スキルをバカにされて追放されたんです。本当は冒険者アイドルになって、みんなを笑顔にしたかったのに……。あーあ、私の夢も人生もこんな所で終わりなのかな……クスン」
「がっははは! ハズレスキル、結構じゃねーか! 俺はそのスキルのおかげで1年間もここで生きてこられたんだからな。きっと嬢ちゃんも大丈夫だ。……ところで、嬢ちゃんのスキルは何なんだ?」
「クスン……私のは『テーブル』って言って、台を出し入れするだけのスキルで……」
そこまで言った瞬間、岩本さんの動きがピタリと止まった。
目をパチクリさせたかと思うと、勢いよく私の両肩を掴んでくる。
「きゃーっ!?」
あまりの勢いに、私は思わず身を固くした。逃げ場のないこんな場所でどうなっちゃうの、と一瞬焦ったけれど――。
「…………最高じゃねーか!!」
へっ……? 何が……?
「最高のスキルじゃねーか! 嬢ちゃんの『テーブル』はよぉぉーーっ!」
「きゃあっ!」
耳元で大声を張り上げられ、驚いた拍子に後ろへ尻餅をついてしまった。うぅ、お尻が痛い……。
「ありがとうな、嬢ちゃん! 俺のところに来てくれて!」
「……私を、必要としてくれるんですか……? 私、お荷物じゃない……?」
「当たり前だろ! 最高のパートナーだぜ!」
「……ふふっ。私のスキルを褒めて認めてくれたのは、岩本さんが初めてです。これからよろしくお願いしますね!」
「ああ、よろしくな。……っと、倒れた拍子にスカートが捲れてパンツ見えてるぞ。『白』かぁ」
「……もうっ! バカッ!!」
居場所を無くした私を、初めてまっすぐに認めてくれたのは――この不思議な『ドワーフ』さんでした。




