現代版ドワーフ
※引き続き過去です
俺が冒険者として教えた事のある1人で、今はマジカルアドベンチャー独自チーム『黄昏の盃』を率いるリーダーの東郷白哉がドアから入って来て立っていた。
まだ駆け出しだった彼を世話していた時期があった。戦闘関連ばかりに比重を置く彼に、何度もそれ以外の重要性を説いてきた。それを快く思っていなかったのも感じていたが……才能ある彼には戦闘だけの冒険者にはなって欲しくは無かった。最後まで伝わらなかったけどな。
「東郷白哉……活躍しているみたいだな。お前が試験官か?」
「お久しぶりです、岩本さん。……まあ、今の俺のポジションからすれば、あなたに頭を下げる必要もないわけです。そんな俺だからこそ公平な試験になるようですよ」
白哉は薄い笑みを浮かべ、腰の高級な剣に手を添えた。ゴテゴテに装飾された剣で逆に可能性を殺している。
「相変わらずですね。戦闘力もないのに『冒険者の心得』なんてカビの生えた説教を垂れていた頃から、何も進歩していない。だからこそ、会社から能力を疑われ試験なんてやるハメになったのですよ……役員の方からお聞きしましたよ。あなたへの退職慰労金が数千万円に上るというお話を」
「……それがお前たちの言う『無駄』ってわけか」
「ええ。我がチーム『黄昏の盃』は、効率と実力主義のトップパーティーです。あなたのような『使えない古い肉壁』に会社の利益を削られるのは、俺にとっても不愉快なんですよ。なにせ、俺たちが命懸けでダンジョンから持ち帰った利益なんですからね」
役員が満足そうに頷き、嘲笑を浮かべる。
「そういうことだ岩本君。白哉君たち『黄昏の盃』の功績と、君一人を秤にかけた時……会社は遊びではないなら実績を残している方を優遇するのは当たり前だ! それが今回の退職金を機に会社も見直さないとダメなんだ。利益に対する評価に……分かったかい?」
「それがこれからの会社の意向という事なんですね?」
「ああ、言っただろう? 会社は利益を追求するモノだと。株主に利益還元を約束しなければならない。会社にとって大事な事は売り上げ、実績、利益、これだけだ。岩本君も会社に属するならその価値を見せ給え」
「――――それで多くの冒険者が危険な目に遭ってもですか?」
「もちろんだ! 会社に利益があるからこそ彼らは給料という形で還元出来ている。その前提が崩れる事はない。それが社会だし会社でもある。子供じゃないんだよ。分かるな?」
「そうですか……残念です。どうやら先代社長からの理念は今の会社には無い様ですね。俺はそのまま、退職しますので退職金のご用意を……」
先代社長に拾われ冒険者としての心構えなどを教えてもらった俺に、現社長の考えに賛同は出来なかった。
そのまま退職をしようと思っていたが……
「そうか……残念だ。でも、岩本君はこの奈落での仕事を持って退職としよう。キミも社会人だ。退職の希望を出したからといってすぐに辞められないのはわかるね? 奈落の探索計画もダンジョン省へ提出済みだ。その完了をもって退職にしよう」
役員は白々しい笑みを浮かべ、書類を整えながら言った。
「安心したまえ。白哉君率いる『黄昏の盃』が同行する。君の最後の務めだ、しっかり果たしてくれたまえ」
――こうして俺は、引き継ぎと称して『黄昏の盃』と共に奈落の入口へと連れて行かれた。
そして、奈落の巨大な大穴を目前にしたその時だ。
「岩本さん。長年、お疲れ様でした」
背後から冷ややかな声が聞こえたかと思うと、白哉の合図とともにメンバーが一斉に【麻痺毒針】を放ってきた。
身体が急速に痺れ、指一本動かせなくなる。
「白哉……お前……っ」
「あなたの言う『冒険者の心得』とやらでは、身内の裏切りは防げなかったようですね」
白哉は腰のゴテゴテした装飾剣の柄に手を当て、冷たい目で見下ろしてきた。
「奈落の底に落ちれば死亡確認は不可能。これで会社は退職金を払わずに済み、僕たちは役員に大きな恩を売ることができる。……効率的でしょう?」
「……最後まで、見栄えと効率だけの男だったな、お前は」
「負け犬の捨て台詞ですね。……さようなら、岩本さん。心底キライでしたよ」
白哉の腰より剣が抜かれ俺は袈裟斬りにされた上で腹を蹴られ、奈落の穴へ落とされた。
身体が宙を舞い、視界が反転する。
遠ざかる役員と白哉の嘲笑。そして、吸い込まれていく『奈落』の果てしない暗闇――。
これが、俺がここに落とされた真相だ。
◆◆◆◆
「自分語りなんて趣味じゃねーんだけどな……ヤツらが戦闘系のスキルじゃないとバカにしていた『ねる』は、寝ると全ての傷を回復させるのを忘れていたのかもな。要するに袈裟斬りにされた傷も落下した時の傷も、寝て回復出来た理由だな、ガハハハ」
回想を終えた俺は、焚き火の肉をガブリと噛みちぎりながら笑い飛ばした。
「……全然笑えないよっ!!」
隣で話を聞いていた凛ちゃんが、ポロポロと大きな涙をこぼしながら俺の腕をポカポカと叩いてきた。
「ひどすぎるよ……! 先代社長さんの理念を守ろうとしたゲンさんをそんな目に遭わせるなんて……! 東郷白哉って人も、その役員も、現社長も絶対に許さない!!」
「おいおい泣くなよ嬢ちゃん。俺は別に気にしてねぇよ。奈落に落ちてヒマだったおかげで、気ままなダンジョン暮らしで楽しくしてるしな……」
「良くないよ! 地上に戻ったら、その東郷白哉のゴテゴテした剣をへし折って、退職金100倍にして回収するんだからね!! フンス!」
凛ちゃんは涙をゴシゴシと拭うと、セラフィムちゃんに向かってキリッと強い視線を向けた。
「……みんな、聞いたよね!? マジカルアドベンチャーの役員と現社長、そして『黄昏の盃』の東郷白哉! 全員絶対に逃がさないからね!!」
なんと配信をしていたのを……気が付かなかったぞ。




