追放ドワーフ
「――で、配信では言いづらいと思ったから終わったら聞こうと思っていたけど、なんでゲンさんが奈落に落とされたの?」
「ん? ああ、その話か。確かにマジカルアドベンチャーで冒険者をしていた時は、俺は役に立って無かったからな、ガハハハ」
そう、スキル『ねる』を授かった俺は、戦闘系のスキルでは無かったので戦うのもキツかった。だから社会では底辺と呼ばれていた層に属していた。派遣企業では色々な企業に所属する冒険者パーティーに臨時で雇われ……捨てられてきた。
この授かった『ねる』は不思議な効果で、寝ると全てのキズが翌日には完全回復するという……効果だけは破格だ。骨折しようが手足が千切れようが、寝れば翌朝には元通りに。しかし、戦闘力が増えるわけでもない。
派遣先の冒険者パーティーでは盾役を担っていた。スキルの特性上、囮にされることもしばしばあった。
「ガハハハ、懐かしいな……そうか、懐かしいと思えるほどに時間が経ったのか……アレは――――」
◆◆◆◆
※約1年前……
「しっかりと防げ!」
『マジカルアドベンチャー』から派遣されたパーティーのリーダーが、俺の背後から怒声を飛ばす。
ドガァァァンッ!!
体長4メートルを超える巨大な魔物の爪が、俺の持ち上げた大楯に叩きつけられる。
激しい衝撃で両腕の骨がバキバキと砕け、鈍い音が体内に響いた。口からゴボッと血が溢れ出す。
「ぐ、ハッ……! お前ら……早く、攻撃を……!」
「ちっ、使えないオッサンだな! 足止めする事しか能がないのかよ!」
リーダーの剣士が吐き捨てるように言い、魔術師と弓術士が後ろでケラケラと笑う。
彼らにとって、俺はただの大楯を持った肉壁だ。
どれだけ傷つこうが、どれだけ骨が折れようが、一晩【ねる】だけで元通りになる「便利な捨て駒」それがコイツらの認識だろうな。
「おい! そいつを囮にして俺たちはボス部屋の宝箱だけ回収するぞ!」
「えっ、リーダー、おじさんは?」
「放置だ放置! どうせ明日には平気な顔で戻ってくるだろ! あっははは!」
彼らは傷つき動けない俺を置き去りにし、奥の部屋へ走り去っていった。
――いつものことだ。ボスが倒されたボス部屋は一次的に安全圏になるから放置される。
俺は暗闇の中で意識を失い、翌朝、傷一つなくなった体で目を覚まし、一人でトボトボと地上へ帰る。そんな底辺の日々だった。
『こんな生活を、ダンジョンが生まれた日から続けている』
日々、身体を張る毎日で得られる対価は微々たるもの。そして翌朝は誰よりも早く出勤して冒険の準備をする。それでも冒険者を辞めないのは夢と意地だろうな。あのダンジョンが現れた日に世界で一番始めにダンジョンで宝箱を開けたのが俺なんだ。その優越感は忘れる事なんて出来ない。(中身は普通の鉄の短剣だったけどな……)
『いつか俺が高難易度のダンジョンを攻略してやる。そして宝箱から凄い品を手に入れてやるぞ〜!』
だから当初の10年はソロ冒険者として、残りの20年は冒険者派遣企業の社員としてダンジョンに関わってきたんだ。
……だが、そんな俺のささやかなプライドも、企業という巨大なシステムの前には無力だった。
派遣社員として『マジカルアドベンチャー』に籍を置いて、ちょうど20年が経とうとしていたある日。俺は本社役員室に呼び出された。
「岩本ゲン君。君、我が社に勤めて勤続年数がもうすぐ20年になるね?」
高級そうな革張りのソファに深く腰掛けた担当役員が、書類に目を落としながら鼻で笑う。
「冒険者法ではね、10年以上勤務した派遣冒険者を解雇する場合、会社はそれまでの危険手当や貢献度に応じた【高額な退職慰労金】を支払わなきゃいけないんだよ。君の場合、30年分のキャリアと怪我の履歴を合算すると……ざっと数千万円にはなる」
「……それが何か問題でもあるのか? 俺は20年間、一度も穴を開けずにどんな過酷なパーティーの盾にもなってきた」
「問題大アリなんだよ、岩本君」
役員は冷たい目で俺を見下ろした。
「君みたいな『攻撃力の足りないただの肉壁要員』に、そんな大金を払う価値はない。そこで君自身の力を我々に見せて欲しいんだ。何も難しい事を言う理由ではないよ。今までと同じようにダンジョンで成果を持ち帰って欲しい――今までと同じようにね……」
「――なるほど。自分の価値は自分で確定させろと……それで舞台になるダンジョンはどこなんですか?」
「ああ、これは試験でもあるから難易度の低すぎるところでは査定が出来ん。それで選ばれたのが『奈落』ダンジョンだ。中央の大穴さえ気をつけてくれれば君でも可能だろう? そう……安全に……ね!」
「了解した。話はそれだけか?」
「……それと試験官を用意する。入って来たまえ」
「失礼します……岩本さん、お久しぶりです」
なんと、俺が冒険者として教えた事のある1人で、今はマジカルアドベンチャー独自チーム『黄昏の盃』を率いるリーダーの東郷白哉がドアから入って来て立っていた。




