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止められない配信【ざまぁ回】

「私は足を滑らせて落とし穴に落ちたわけじゃありません。……後ろから誰かに押されて奈落の穴に落とされました」


 静寂。

 空中に浮遊する透過モニターのスクロールが、一瞬だけピタリと止まった。


 次の瞬間――破裂したような勢いで文字が溢れ出す!


『ファッ!?!?!?』

『押し落とされた!? 殺人未遂じゃねえか!!』

『やっぱり事故じゃなかった!!』

『誰だよ!? 犯人誰なんだよ!!』


「……押した人の顔、私はしっかりと見ました。私の背中を押して奈落に突き落としたのは――『ローズ・ヴァルキリア』のリーダー、神崎麗華さんと『ローズ・ヴァルキリア』のメンバーです。私はこのまま、地上に戻って大丈夫なのでしょうか? あの時の麗華さんの顔が忘れられない……私が奈落の穴に落ちて行くのを嬉しそうに笑いながら……クスン」


 凛ちゃんのハッキリとした宣言が、ノイズひとつない8K超高画質の映像に乗って全世界へ駆け巡る。


『神崎麗華ぁぁぁぁぁぁっ!!』

『やっぱりあの女か!! テレビで泣いてたの全部演技かよ!!』

『胸糞悪すぎる!! 警察今すぐ動け!!』

『【朗報】神崎麗華、リアルタイムで完全終了wwwww』


 同接数はあっという間に10万、20万、30万人へと跳ね上がっていく。


 ◆◆◆◆


【神崎麗華視点】


 一方、地上――


「止めろ―――配信を止めて……誰か……」


 風間凛が奈落に落ちても無事だった事が分かり、私達『ローズ・ヴァルキリア』は活動自粛の為に事務所で待機して、配信を食い入るようにメンバー全員で見ていた。


「な……なによこれ……! 証拠なんて……証拠なんてあるわけないじゃない!!」


 スマートフォンを握りしめた神崎麗華が、青ざめた顔で金切り声をあげる。

 この事務所も私達『ローズ・ヴァルキリア』の拠点として有名で、ワラワラと配信を見た報道陣と激怒したファンが集まり始め、ドアをバンバンと叩く音が響いていた。


「神崎、さいてー!」

「出てこいよ! 凛ちゃんに謝れ!」

「○○テレビです。『ローズ・ヴァルキリア』の皆さん、何か言っておきたい事はありますか?」

「神崎さん、○○ニュースです。コメントをもらえませんか?」

「もう、『ローズ・ヴァルキリア』のファンを辞めるわ……」


 ――――


「麗華! どうしよう……私達が犯人にされちゃう」

「ヤバいよ! ドンドンと人が増えてくる」

「もう、逃げられないのかな……冒険者アイドルも人生も終わりなのかな……」

「――私は反対だったんだ! 凛がいるから人気もあったのに……」

「――そうよね! おかげでもう外も歩けないじゃん」

「自首しようか……」


「うるさい! うるさい! うるさぁぁぁぁいっ!!」


 外からの怒号とマスコミの怒涛の呼びかけに、中では泣き言。神崎麗華は頭を抱えて叫んだ。

 メンバーたちも顔面土色でガタガタと震えている。


「ど、どうするのよ麗華!? 凛のやつ、警察に通報する前に全世界に生配信でバラすなんて……っ! もう口止めも出来ない……」


「黙りなさいよ! 証拠なんてないわ! 映像だって奈落の深層からなんてハッキリ映るわけ――」


 ドガンッ!!


「きゃあぁぁぁっ!?」


 突如、事務所のドアが勢いよく開け放たれた。

 雪崩れ込んできたのは報道陣でも激怒したファンでもない。厳めしい顔つきをした警察官たちだった。


「神崎麗華、並びに『ローズ・ヴァルキリア』のメンバーだな」


 捜査員が警察手帳を突きつける。


「風間凛さんに対する殺人未遂および捜査妨害の容疑で同行願おうか。……ちなみに君たちのスマホのGPS履歴と防犯カメラ映像の解析、もう始まってるからね。一応、任意同行だけど……この状況のままでもいられないでしょ?」


「嘘……そんな……! 離しなさいよ! 私は悪くない! 凛が……あのお荷物が勝手に落ちたのよぉぉぉっ!!」


 見苦しく暴れ……偶然にも手が警官を強襲してしまう。

 冒険者アイドルと言っても現役冒険者が振り回した手が……


「16時37分、公務執行妨害罪で逮捕する」


 神崎麗華とメンバーは取り押さえられ、手錠を掛けられる。

 その無様すぎる逮捕劇は、ドアの外に群がっていた報道陣のカメラによって全世界へリアルタイム生中継されたのだった。


「だっ、誰かぁ〜。配信を止めてぇぇ〜〜!!」


 ◆◆◆◆


【岩本源視点】


 一方、奈落の最深部では――。


「……ふぅ! 言いたいこと、全部言えた!」


 涙を拭った凛ちゃんは、一転してスッキリとした晴れやかな笑顔を浮かべた。


「――気は済んだか? まぁ、飲め!」


「クスッ、ありがとう……って水じゃないですか?」


「当たり前だろ!」


「見た目ドワーフなのに?」


「未成年に酒なんか出すか……もったいねー」


 凛ちゃんは吹っ切れたようだな……まぁ、良かったんじゃねーか。


「そういえばゲンさんはなんで奈落で暮らしていたの?」


「ん? そうだな俺は元々は冒険者派遣の会社で勤めていたんだ。『マジカルアドベンチャー』って大手の会社だな。そこを派遣切りされる時に、冒険者法で決まっている退職金惜しさにお前さんと同じでここへ落とされたんだ。ガハハハ……」


 その様子を、配信ドローン『セラフィム』は地上に真実として伝えていた。

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