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配信される真実

「早く言ってくれよ。俺は動画さえ地上に送れれば良いのだと思ってたよ」


「もう! ゲンさんは動画とか見ないの? 生配信はみんながその場でコメントを送ってくれるんだよ」


 なんと、動画開始時間が近づいていた時に視聴者からのコメントを見られる機能が無い事を指摘された。


「ハァー! 今の技術はすげーのな。こんな小さな配信機材に色々な機能を搭載して……俺の時代なんて……」


「あー、ゲンさん? その話は長いかな? 私はそれよりも視聴者のコメントを見られるようにして欲しいの……お願いゲンさん」


 上目遣いで手を合わせる凛ちゃんに、俺は「チッ」と舌を鳴らした。


「分かった分かった! ったく、ワガママな嬢ちゃんだぜ。……コメントを読むなら視界の邪魔にならん透過モニターか」


 俺は革袋から余った【水晶の欠片】と【薄型ガラス】を取り出すと、魔力を集中させて一気に『錬る』。

 水晶の余剰回路と受信アンテナを同調させ、空中に浮遊する半透明の魔導ウィンドウを作り上げた。


「ほらよ! これで『ビーフジャーキー』が受信したテキストデータが空中に青く浮かび上がる。お前さんの目線に合わせてフヨフヨついてくるから、歩きながらでも読めるぞ」


「わぁぁぁ! すごい! 本当に空中に文字が出るんだ! ありがとうゲンさん! だからビーフジャーキーじゃないし……セラフィムちゃんだからね!」


「ああ、分かったから! もう少し調整するから……ちょっと待って……なっ、くっつくな! 嬢ちゃん」


「へへ〜ん! 私にも見せてよ」


 配信スタートのボタンが押されていたのを気が付かなかった。セラフィムはフヨフヨ浮いて凛ちゃんを映し出していく。


「いいじゃない! セラフィムちゃんがまた可愛くなるところを見たいじゃん」


「バッ、首元に息を吹きかけるな……てか、嬢ちゃん――――当たってるぞ。見かけによらず大層なもんをぶら下げてるじゃねーか! 着痩せするタイプだな」


「ぶー! またエッチな事を言ってるし……」


「事実を言ったまでだ! ったく、ほら調整終わったぞ。離れねぇと……ん? おい、セラフィムの青いランプ……点灯してねぇか?」


「え? ……あっ!!」


 凛ちゃんが青く光る水晶レンズと、空中に浮かび上がった透過モニターに目をやった瞬間。


 画面には、恐ろしい速度でスクロールする【大量のテキスト】と、バグった数字が表示されていた。


【同時接続数:5,000……20,000……60,000人突破!】


『うおおおおおおおおおお!! 配信始まってたあああああ!!』

『おっさん今なんつった!?!?!?』

『「見かけによらず大層なもん」!? リンちゃん実はデカいの!?!?』

『おっさんそこ代われ! 今すぐ代われ!!』

『開幕から何イチャついてんだこの二人wwwwwwww』

『ドローン「ビーフジャーキー」呼びに戻ってて草www』

『【朗報】リンちゃん、着痩せするタイプだった』

『ギルティ!』

『ギルティ』

『ギャルのパ○ティ』

『ブタのパ○ティ』

『もう、エエからwwwwwwww』


「き、キャーーーーーッ!? 繋がってるぅぅぅぅ!? ゲンさんのせいだからね!」


 顔を真っ赤にした凛ちゃんが慌てて俺から飛びのく。

 透過モニターを埋め尽くすネット民の怒号と歓喜のコメントに、俺は思わず引きつった笑いを浮かべた。


「ガハハハ! おおちゃんと見れるな! ほら嬢ちゃん、コメント見えて良かったな! なになに……嬢ちゃんはデカいぞ。良かったな少年達!」


「良くないよバカーーーッ! ゲンさんのせいだからね!? もうっ……!」


 凛ちゃんは真っ赤な顔を両手で挟んでポカポカと俺の胸を叩いていたが、やがて「コホン」と小さく咳払いをすると、空中を漂う『セラフィムちゃん』に向かって姿勢を正した。笑顔を作った。


 画面越しに見守る既に10万人以上になった視線が集まる。


「え、えーっと……みなさん、改めましてこんにちは! 風間凛です。『コチラは奈落の底』です。放送事故から始まっちゃってごめんなさい……! 」


『可愛いから許す!!』

『おっさんは後で裏に来いwww』

『元気そうでマジで良かった……!』

『おっさんに殺意が湧いた!』

『おっさん、ヒゲを盛りすぎwww』


「嬢ちゃん! 俺に対するコメントが殺人予告ばかりなんだけど……これって俺が悪いのか?」 


「いいの! ゲンさんのせいにしておけば丸く収まるんだから……ねぇ! みんな……」


「ケッ! 言ってろよ」


 流れる温かいコメントとゲンさんに対するツッコミにクスッと笑った。そして一瞬表情を緩めた凛ちゃんだったが、すぐにキリッと瞳に強い光を宿した。


「……みなさん、今日改めて配信をつけたのは、皆さんに感謝を伝えるため。そして……私が奈落に落ちた『あの日の真実』を伝えるためです」


 コメントの勢いがピタリと止まり、緊張感が画面越しに世界中へ伝播していく。


「私は足を滑らせて落とし穴に落ちたわけじゃありません。……後ろから誰かに押されて奈落の穴に落とされました」


 静寂。

 空中に浮遊する透過モニターのスクロールが、一瞬だけピタリと止まった。

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