魔導ドローンの完成
硬い甲殻を使った外装、ハチの羽根を使った反重力推進パーツ、女王バチの触角を利用した増幅アンテナ、動力の女王バチの魔石。ここまで揃った。
「ねぇねぇ、ゲンさん。もう、直りますか?」
「あと少しだな。この魔鉄を使ったコードに、絶縁体を使ったスイッチかな……ん〜。あっ、そうだ!」
「ぶぅ〜、またゲンさんは1人の世界だよ」
俺はバッグから水晶を出した……これを加工して玉状にする。水晶は加工が難しいが『錬る』なら簡単。そこに魔鉄コードと女王バチの羽根で加工した。絶縁体ならぬ魔導絶縁体としてガラスを薄く固めた。
それらを全て凛ちゃんのテーブルに集めて一斉に魔力を『錬る』と――
「でっ、できたああぁぁーー!!」
俺の頭上で、漆黒の甲殻と黄金のラインで装飾された【球体型カメラドローン】が、羽音ひとつ立てずにふわりと浮遊している。
中央の水晶レンズが美しく青く光り、周囲の空間を優雅に旋回し始めた。
「わ、わぁぁぁ……! すごい、本当に浮かんでる……! しかも全然音がしないよ!」
スネていたのも忘れて、凛ちゃんが目を輝かせながらドローンを見上げる。
「ガハハハ! だろう? キラー・ビーの羽で反重力を生み出し、クイーンの魔石で無限動力を確保! さらにクイーンの触角アンテナでぶ厚い岩盤も貫通だ! 男のロマンの結晶だ! さぁ、名前を決めてくれ……俺はそう言うのは苦手だ」
「名前ですかぁ〜? でもゲンさん、私が着けてもいいの……? ちなみにゲンさんならなんて着ける?」
「ふん、『ビーフジャーキー号』。……笑え!」
「ぶっ、アハハ……お腹痛い! やっぱりドワーフさんじゃん。なんでおつまみなの。私のパパもビーフジャーキー食べて飲んでいたよ」
「おお、良いチョイスしてるな! ここを出られたら一杯やりたいもんだな……嬢ちゃんなら名前をどうするんだ?」
フヨフヨと上空に浮かんでいるドローンを見ながら……
「う〜ん、なんかこの子は天使みたい。なら『セラフィムちゃん』でどうかな? なんか天に浮いた天使ちゃんで絶対に女の子だよ。カワイイ〜」
「ビーフジャーキーは?」
「却下です。ゲンさんの名前はオヤジ臭いです。ねぇ〜、セラフィムちゃん」
そう言う凛ちゃんの周りをフヨフヨと飛ぶ魔導ドローン。
「ちぇ、まぁ、いいや!」
俺が魔導絶縁体のスイッチを指で押し込むと、ドローンの水晶レンズがピコンと一際強く発光した。
通信回路が、ぶ厚い奈落の岩盤を突き抜け、地上の衛星ネットワークと完全・永久接続される!
ピコンッ!
『セラフィムちゃん』の水晶レンズが鮮やかな青に発光した瞬間、魔導モニターの通信インジケーターが緑色に点灯する。
『――超高周波魔導通信、接続完了。奈落最深部より生配信を完全再開します――』
一瞬の静寂の後、ドローンの前に展開された魔導モニターの画面が、恐ろしい速度で明滅し始めた。
「なんか嬢ちゃんにばっかり懐いて……俺が作ったのになぁ〜、ずりぃ〜よ」
「セラフィムちゃんは絶対に女の子ですよ。いやで〜〜す! ビーフジャーキーとか……なんで乾燥したお肉なんですか……べーだ!」
「せらふぃむ――なんてケツが痒くなるような名前が配信されたら、もう次からは名前を変えられないぞ。なら男らしいビーフジャーキーでいいじゃねーか。ビールでも焼酎でもワインでもウイスキーでも合うんだぞ」
「今のを聞いて……さらに譲れなくなりました。そんなお酒のおつまみな名前はイヤよね……『セラフィムちゃん』!」
「……? おい! それって配信されてないか? なんかピコピコしてるぞ、えっと……せらふぃむちゃん?」
そう言うと凛ちゃんは勢い良くせらふぃむちゃんに近づき……
「きゃーー!! 本当だぁ、ダメよ。みんなゴメンね……明日、改めて配信するからね」
「なんでだぁ? せっかくならヤレばいいじゃん」
「もう、女の子には準備が必要なのよ。セラフィムちゃん、お願い配信を切ってちょうだい……ゲンさんお願い」
「ヤレヤレ……見ている人、ゴメンな。今日は乙女の事情とかっていうのでダメらしいぞ。そうだな、ここは時計がないからな……明日の同じくらいの時間にまた会おう……」
「……ちょっと、ゲンさんは……ゴメンなさい」
―――【通信が切断されました】―――
配信が唐突に途切れたその瞬間、全世界のネット掲示板とSNSが一気に大爆発を起こした。
帰還者が1人もいない奈落の底に落ちた少女と、住み着いていたドワーフ?
明日の配信で何が語られるのか、それを推察するページも現れ……憶測が憶測を呼ぶ。
さらに画面上に出てきたドワーフの身元の洗い出しなども行われ、この日の夜は寝不足気味な人が続出したとか……
だけどそれを知る由もない2人は、ギャーギャー言いながら深層を歩いていく。
「ゲンさん、何処かお風呂入れる所ないかな?」
「ん? 水浴びか? なら俺が『錬る』で魔法を再現出来るから……」
「そんな事を言って覗く気でしょ? べーだ! エッチ!」
「ヤレヤレ!」
明日の配信に向けて準備をするのだった……




