盤上遊戯
毎日19時頃投稿予定です。
帝都の一角、人通りの少ない静かな通りに面した、古めかしい洋館の一室。煌びやかなシャンデリアの光が、重厚な家具と壁一面の書棚を照らしている。帝室が所有する別邸の一つであるその場所は、第一皇子カイン・ヴァレトゥス・カナティオが、公務から離れて思索に耽るための秘密の隠れ家だった。
カインは、上質なベルベットの肘掛け椅子に深く身を沈め、テーブルに広げられた学園の生徒名簿と、生徒会長選挙の動向を示す複数の報告書を眺めていた。彼の指先が、報告書の上をゆっくりと滑る。そこに記されているのは、ユーリ・フォン・リヴァルト、セレスティア・ユーグライト侯爵令嬢、二つの陣営の動きだった。
彼の口元に、薄く笑みが浮かび、瞳の奥には、燃えるような光と、揺るぎない自信が宿っていた。
カインは、傍らに控えていた黒衣の従者に、静かに命じた。
「ユーリとやらは随分と悠長なことをしているな。結構なことだ。だが、それでもなお、いくつかの『不手際』は起こり得る。しかし、露骨すぎるのも興醒めだ。私が言いたいことは分かるな? ……いけ」
従者は無言で深々と頭を下げた。カインの言葉は、具体的な指示を含まない。しかし、その意図は従者には明確に伝わったようだった。彼は、生徒名簿の中からフレイアストの名を見つけ、指先でなぞった。
(さあ、踊れ。私の見えない糸の上で。この退屈な学園に、少しばかりの混乱と興奮をもたらすがいい)
彼の冷徹な瞳には、全てを支配する者の愉悦が宿っていた。
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