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予想外

代理戦争が始まって数日。俺たちの生徒会長選挙活動は、正直なところ、もっと困難を極めると覚悟していた。最初のビラ配布での妨害、説明会の会場妨害……。セレスティアが完全に心を折られてもおかしくない状況だった。だが、なぜか、活動は思いのほか順調に進み始めていた。


貴族派生徒による露骨な妨害行為は、あの最初の騒動を境に、驚くほど減少した。たまに嫌がらせのような陰口や冷ややかな視線はあるものの、以前のように物理的な妨害や会場の使用不可といった事態はほとんど起きなくなった。


(まさか、ユーリ生徒会長が対処したのか?)


俺は学園の中庭で、セレスティアが特別聴講生の生徒たちと話す様子を眺めながら考えた。


(明らかに異物である俺たちを、貴族派の生徒たちが野放しにするわけがない。それはこれまでの学園生活で、俺への対応を振り返れば自明の理だ。しかし、今になって急に大人しくなった。何かの力が働いたに違いない。その何か……。学園内で圧倒的な統率力を誇る、ユーリ以外に考えられない。……あくまで、正攻法で下すと? 俺はユーリ生徒会長のことを少し勘違いしていたのかもな。ただ選民思想に偏った傲慢なだけの貴族ではないのかもしれない。彼は彼なりの正義を持っているのかもしれない。……だが、それは俺が引き下がっていい理由にはならない。ユーリ側から突きつけられたものではあるが、この代理戦争の結果がどうであれ、「戦争を無くす」という最終目的に向けて、俺の力を計る絶好の機会だ)


思案を巡らせ、一応の結論には辿り着いたが、どこか引っかかる部分がある。


まるで、目的地へ向かう道中、得体のしれない何かに見張られているような感覚。杞憂であればそれでいいのだが……。


時折、普段は人が集まりにくい場所で開いた小規模な会合に、なぜか興味を持った生徒が予想以上に集まったりする。それは、ユーリの指示では説明できない、どこか意図的な「後押し」のように感じられた。


(まさか、ジークが裏で何か……? いや、あの兄に限ってそれはありえない。それに、目的が分からない)


俺は首を傾げた。全てを解明するには情報が足りなかったが、とにかくこの追い風は利用すべきだと判断した。


そして何よりも、俺を驚かせたのはセレスティアの変化だった。


最初の頃の彼女は、まさに「震える小鹿」のようだった。人前に立つことを恐れ、嘲りの言葉にすぐさま心を閉ざし、デモンストレーションでも手が震えて魔法が上手く発動しないこともしばしばだった。


それが今ではどうだ。


「この魔法は、根から水分を吸収し、葉脈を通じて隅々まで栄養を行き渡らせることで、枯れかけた植物に活力を与えることができます。応用すれば、劣化した建材の修復や、荒れた土壌の回復にも繋がるはずです」


彼女の声には、以前のような震えはなかった。まだ完璧ではないが、堂々とした響きが加わっている。先ほども、興味深そうに近づいてきた数人の貴族の生徒に対し、怯むことなく緑属性魔法の有用性を説明していた。彼女の手の中で、枯れかけた小枝がゆっくりと生命の緑を取り戻し、小さな芽を吹く。その瞬間に沸き起こる感嘆の声に、彼女は少しだけはにかむような笑顔を見せるようになった。


「ただ『おまじない』としか思われていなかった緑属性魔法にそんな力が……」とか「やはり緑属性には秘められた可能性があるんだ!」


といったように、驚きや興奮の声がわずかではあるが聞こえてくる。


アピールのために開かれたデモンストレーションを見に来るのは、ほとんど平民の特別聴講生だが、一歩引いた場所に、ちらほらと下級貴族の生徒たちの顔が見受けられた。


その中に、アストリアが、何か考え込むような表情で立っているのを見つけた。


なんとなく、彼女は生徒会長選挙など興味はないだろうと思っていたのだが、そうではないようだ。


それはともかく、セレスティアは、日を追うごとに自信をつけているのが目に見えてわかる。デモンストレーションで魔法が成功するたび、生徒たちが緑属性魔法に驚きと期待の目を向けるたびに、彼女の瞳には確かな光が宿っていった。


(見違えなたな……。俺のサポートだけでは説明がつかない。彼女の変化は、自身の、そして緑属性の可能性を心から信じているからだろう)


かつて、彼女を「劣等生」と嘲笑した者たちの前で、彼女は一歩ずつ、しかし確実に、進化している。彼女のその姿が、学園という停滞した場所に、新たな風を吹き込み始めている。


選挙活動は、俺の想像以上に、学園に新たな波紋を広げている。このままいけば、もしかすると、本当に生徒会長の座を掴むことができるかもしれない。


ただし、この「なぜかうまく運ぶ」という状況の裏に、何があるのか。それは、まだ俺には見えない、深い霧の中だった。

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