信頼と感情
毎日19時頃投稿予定です。
フレイアスト君との緑属性に関する研究は、私にとって、学園生活のすべてを変える光となっていった。
「フレイアストさん、この葉の色の変化、どう思いますか? 私の魔力に反応しているような……」
薬草園での時間は、学園で唯一、私を偽らずにいられるかけがえのない場所となっていた。かつては人目を避けるように縮こまっていた私だけど、今ではフレイアスト君に、そして自身の魔法に、まっすぐに好奇心の目を向けられるようになった。彼が説明する「細胞」という目に見えない小さな粒々の概念を、最初は全く理解できなかったけれど、彼の真剣な説明に触れるうちに、懸命に質問を重ねるようになった。実験の結果に一喜一憂する自分の表情には、以前には見られなかった明るさと、ほんの少しの自信が宿っているのが分かった。
学園の貴族生徒たちが、私たちを「落ちこぼれ」と蔑み、「緑属性」を「おまじない」と嘲笑する中で、彼だけが私の能力の真価を見抜き、それを理解し、尊重してくれる。そのことが、私の心を深く溶かしていったようだった。内にあった内向的な殻は少しずつ破られ、たまに発する彼への不平不満は、私が心を許している証拠でもあった。学園内での孤独感が和らぎ、私の周りには、微かに穏やかな空気が漂い始めたのだ。
そして、あの日――。
「僕の目からも、魔法の発動に変化が見られました! すごいですよ! ただ説明しただけなのにすぐに変化が現れるなんて」
フレイアスト君がそう言ってくれた時、正直、彼は私を「おだてている」だけだと思った。だって、何一つ変わった気がしなかったから。でも、彼は私の目をまっすぐ見て、真剣な顔で言ったのだ。
「お世辞ではないですよ。セレスティアさんなら緑属性魔法を有用な魔法として確立することが出来る。緑属性の先駆者になれると僕は本心から思います」
その言葉が、私の心を強く震わせた。誰にも期待されず、「落ちこぼれ」と蔑まれてきた私に、こんなにも真っ直ぐな言葉をくれる人がいるなんて。信じられないほど嬉しかった。
「……ありがとう」
俯きながら、ぽつりと呟くのが精一杯だった。
そして、その後の彼の言葉に、私の心臓は跳ね上がった。
「もちろんそれは僕にも利があるから。いや、それ以上に、僕はあなたが気になるから」
「え、わ、私のことが気になる⁉」
咄嗟にそう聞き返してしまった。だって、そんなこと言われたことなかったから。フレイアスト君の「気になる」が、まるで異性としての感情のように聞こえて、私の顔はきっと真っ赤になっていたと思う。彼の瞳が、私という人間を、私の魔法を、心底興味深く見つめているのが分かった。彼の真剣な、しかし決して嫌味ではない視線に、私の胸は締め付けられるような、甘いような、不思議な感覚に包まれた。
「はい」
彼の迷いのない返事に、私の心は完全に持っていかれた。この、いつも冷静で、ちょっと変わった考え方をするフレイアスト君が、私のことを「気になる」と言ってくれた。それが、ただの魔法の研究対象としてだけではない、もっと個人的な意味合いを含んでいるように感じて、私はもう、どうしていいか分からなかった。
「そ、そう……。わ、私も…ちょっと気になるかも……。も、もっと知りたいなー。…なんて……」
精一杯の勇気を振り絞って私にとっては大胆な言葉をつい漏らしてしまった。彼が私の言葉をどう受け取ったのかは分からなかったけれど、フレイアスト君は目を輝かせ、「はい! もちろんです。僕に教えられることならなんでも。細胞についてもう少し詳しく教えましょうか? それか葉緑体や光合成のことについて説明しても?」と、また熱心に「細胞」の話に戻った。
ああ、やっぱり、彼の「気になる」は、私の魔法と、その奥にある「サイボウ」とかいう未知の概念のことなんだ……。
少しだけ、がっかりしたような、でも同時にホッとしたような複雑な気持ちになった。彼は本当に、私の魔法の可能性にしか興味がないのかもしれない。でも、それでいい。それでも、私をこんなに真剣に見てくれる人は、他にいないから。
そうして、彼の植生の知識を少しずつ教えてもらい、私はどんどん植物に対しての理解を深めていった。フレイアスト君が説明する通りに「細胞の営み」を意識して魔力を流したあの日、私の手から放たれる緑色の光は、はっきりと、鮮やかで力強い輝きを放った。苗木は、まるでその一瞬にして数時間分の成長を遂げたかのように、葉を勢いよく広げ、茎を太く伸ばし、瞬く間に若々しい花芽をつけ始めた。
「すごい……こんなに、はっきりと……! 私の魔法が、植物の奥深くまで届くような感覚がします!」
私は、自分の魔法が起こした驚くべき変化に、喜びと感動で声を震わせた。フレイアスト君の言っていたことは、本当だったんだ。緑属性魔法は、単なる「おまじない」なんかじゃない。
私の内面には、それまで見慣れた自信のなさが薄れ、代わりに自身の才能への確信と、新たな可能性への輝きが満ちていた。
学園の片隅で、フレイアスト君と私は、この世界の魔法の常識を覆す、新たな可能性の扉を開き始めていた。そして、私は確信した。私の緑属性魔法は、フレイアスト君との出会いによって、今まさに進化を遂げようとしているのだと。
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