無意識の独占欲
中庭の喧騒が遠く聞こえる放課後の図書室。今日は人気のない奥まった書架で、私は調べ物をしていた。静かで、誰にも邪魔されないこの空間は、私にとって嫌いな場所ではなかった。だが最近、その静寂が、以前とは違う響きを帯び始めている。
視線の端で、フレイがユーグライト先輩と並んで歩く姿を捉えた。薬草園から戻ってきたのだろう。二人の間には、穏やかで、しかし確かな空気が流れていた。彼女の表情は、以前の怯えや硬さが嘘のように柔らかく、花が綻ぶように微笑んでいる。フレイもまた、彼女の話に真剣に耳を傾け、時に楽しそうに相槌を打っていた。
(フレイ……また、あんな顔をして……)
胸の奥に、ちり、と小さな火花が散ったような感覚があった。それが何か、はっきりとは認識できない。ただ、目の前の光景が、妙に胸をざわつかせた。ユーグライト先輩がフレイに何かを熱心に説明し、フレイがそれに頷く。
「今日も薬草園に行くべきだった……」
まるで、彼らの間にしか存在しない秘密の共有を目の当たりにしているようで、妙に苛立った。
私はフレイに冷たい態度をとったこともあった。それは、彼が私との思い出を忘れていたから。でも今考えると別にフレイは悪くない。幼いころの記憶だし、覚えていなくてもおかしくない。ただ、魔王領からひとり、帝国の学園に通わされる不満と不安を抱いていたなかに、フレイを見つけて、私がひとりで舞い上がっていただけだった。
学園では気丈に振舞っているが、私の居場所はどこにもない気がした。唯一フレイのとなりだけは安心していられた。だから私はそれに甘えていた。
ユーグライト先輩が憎いわけではない。彼女に共感できる部分もあるし、彼女の魔法についてあれやこれやと言い合っている時間も好きだった。
ただ、最近のフレイとユーグライト先輩を見ると胸の奥がざわめく。フレイが落ちこぼれとさげすまれる中、私だけが彼の秘密を知っている。そんな変な優越感のようなものを抱いていたのかもしれない。
なのに、ユーグライト先輩も、私がそうであるように、フレイにとって特別な存在になりつつある。彼が彼女に向ける眼差しは、私に向けられるものと同じ、あるいはそれ以上に純粋な「興味」と「知性」に満ちているように見えた。
フン、と小さく鼻を鳴らす。拗ねているだけなのは自覚したけれど、やっぱり幼いころの記憶を私だけが覚えているという事実が悔しくなった。
いっそ私のことをすべて話してしまいたい。でも本当に話してしまっていいのだろうか。
私の出自、魔王の娘としての知識、帝国と魔王領間の隠された歴史の裏側――
私のプライドと、まだ自覚しきれない奇妙な感情が、私を突き動かしていた。彼にとって最も重要な存在は私であると、無意識のうちに証明したがっているのかもしれない。
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