入学式
毎日19時頃投稿予定です。
俺は入試の末、補欠合格という結果で終わったことに釈然としない思いを抱えながら入学式に臨んでいた。
あらかじめ指定された席に着席して式の開始を待つ。広大な講堂は、新入生たちのざわめきで満ちていた。帝国貴族の制服はどれも仕立てが良く、会場全体がきらびやかながらも厳粛な雰囲気を醸し出している。視線を巡らせると、誰もがこれから始まる学園生活への期待と、名門校の重圧に押しつぶされそうな緊張が入り混じった表情をしていた。
入試の時に見た帝国の第一皇子もいる。まあ当然か……。あんなに強力な魔法を放ったのだ、俺とは違い実技では最高得点だろうことが予想できる。それに……俺が家柄で受かったのだ、皇子が受からないわけがない。
そしてもう一人。どこか既視感のある銀髪の少女もこの場にいた。彼女は筆記試験の時に見かけたが、試験中、早々に居眠りをしたりと、試験を捨てているのではないかと思っていたが……。
彼女は有名な貴族家ではないはず。有力な貴族はサンの情報収集によって得た情報を元に割り出していた。
そこに彼女のデータはなかった。
だとすると、彼女は俺のように家柄で受かったのではなく、純粋に試験結果が優秀だったために受かったということか……。
「はぁ……」
どうやら俺の常識はこの星の常識とはずいぶん違うようだ。
今日、何度目のため息か……。
胸に渦巻く不満と、これから起こるであろう面倒事を予感させる重苦しい気持ちが拭えない。まだ学園生活は始まっていないというのに……、この先を思い浮かべると自然とため息も出る。
やがて、壇上に立った教師の一人が大きく息を吸い込み、その声が響き渡ると、講堂全体が一瞬で静まり返った。
視線が一斉に壇上に集まる。空気は張り詰め、否応なく俺の背筋も伸びた。
「それでは。入学式を執り行う」
ついに始まった。俺の学園生活は今ここから始まる。
いつまでもくよくよしているわけにはいかない。ここは通過点だ。俺の目的は戦争をなくすことにある。
この学園生活を通して確実に力を付けてやる。
「新入生代表。挨拶。カイン・ヴァレトゥス・カナティオ殿下」
「……はい」
どうやら第一皇子が今年の首席らしい。
あれが皇子か……。いかにもな気品を醸し出している。その立ち姿一つ取っても、周囲の生徒たちとは一線を画しているのが見て取れた。まるで、彼だけが別の空気の層に包まれているかのようだ。
「本日、この由緒正しき帝立学園の入学式において、新入生を代表し、挨拶できることを大変光栄に思う。帝国を統べる者の一員として、また一人の学生として、この場に立てることを誇りに感じている。我々新入生一同は、この学園が長きにわたり培ってきた伝統と、偉大なる先人たちの築き上げてきた知識と武の精髄を学ぶため、ここに集う。帝国が直面する困難な時代において、我々が果たすべき使命は重大である。私は、この学園での学びが、帝国の未来を拓く礎となることを確信している。共に学ぶ者たちよ。皇帝陛下は君たち一人一人を見ていらっしゃる。帝国の繁栄のため、この学園生活を通して、帝国の真の支えとなるべく、日々精進していくことを誓うがいい。新入生代表。カイン・ヴァレトゥス・カナティオ」
パチパチパチ……
拍手喝采である。さすがは第一皇子と言ったところか……。
しかし、最大限控えめにしてこれか……なんとも支配的な挨拶だ。言葉の一つ一つに、有無を言わせぬ重みが宿っていた。それは、単なるスピーチではなく、彼が未来の皇帝として新入生たちに課す、絶対的な命令のようにも聞こえた。隣の席に座る生徒たちも、皆、神妙な面持ちでその言葉を噛みしめている。
「続きまして、生徒会長挨拶。ユーリ・フォン・リヴァルト君」
「はい」
次は生徒会長の挨拶か。第一皇子とはまた違う、鋭い眼光の持ち主だ。壇上に上がる彼の足取りは、確固たる自信に満ちていた。
「新入生諸君。私が本学園の生徒会長、ユーリ・フォン・リヴァルトだ。この帝立学園は、凡庸な者に居場所はない。ここは、帝国の未来を担うに足る、真の才能を育むための選抜の場である。君たちに問うのは、生まれ持った素質だけではない。その素質を磨き上げ、能力として結実させるための絶え間ない研鑽と、それによってもたらされる結果、ただそれのみだ。家柄や血統を誇るのはいい、ただそれに慢心して停滞することは許さん。貴族に生まれたならば貴族として他者を率いて実力を示せ。前生徒会長であるジークハルト様も言われた。貴族とは生まれながらにして特別な存在であると、そしてそれ故、責任が生じると。帝国を率いていくのは我ら選ばれし貴族だ」
「フッ……」
生徒会長が一拍置いたタイミング。式場が静まりかえったタイミングでその嘲笑は異様に響いた。
嘲笑の出所は第一皇子だ。まるで、彼の存在そのものが、ユーリの演説に楔を打ち込むかのように。カインは微動だにせず、ただ静かに、そして明らかに侮蔑を含んだ眼差しで壇上の生徒会長を見つめている。講堂の空気は一瞬で氷のように冷え込み、新入生たちの間にもざわめきが広がった。誰もが息をのんで、二人の間に漂う異常な緊張を見守っている。
「皇子殿下。なにか?」
「いや。立派な演説を邪魔してすまない。ただ、空虚な戯言にしか聞こえなくて、つい、な。続けてくれて構わん」
「空虚な戯言とは? よろしければこの場で、神聖な血統である殿下のお考えをご高説承りたいのですが?」
第一皇子は立ち上がり告げる。
「ならば少しだけ。貴様らの考えを正してやろう」
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