絶対王政VS選民思想
「貴様らが能力を高め帝国の役に立とうとするのは、選ばれし者たる我らが率いる帝国において、当然の務めであり、大いに奨励されよう。しかし、率いていくのは貴様ら貴族ではない。この帝国を統べるは、我ら皇族のみ。貴様らの能力は、皇帝の絶対なる御力の下、我らが望む形で発揮されるのだ」
皇子の声は、抑揚を抑えつつも、有無を言わせぬ絶対的な響きを帯びていた。その視線は、ユーリ生徒会長を射抜くようにまっすぐに向けられ、微塵も揺るがない。彼にとって、自身の言葉が真理であり、疑う余地など存在しないという確固たる信念が、その声の端々から伝わってくる。
たしかに、皇子の言っていることは間違いではない。国家の全体最適という面では強固な基盤を持つ。しかし、これは国民を尊厳ある個と捉えず、システムとしての効率と安定を優先している考えだ。これではまるで俺の前世のシステムと本質的に同じだ。前世の俺がいた帝国は増えすぎた人口を効率よく消費するために前線に送り続けた。個の可能性を閉ざすという面では限りなく近い思想だ。
「私も皇帝陛下や皇族の皆さまの神聖なる力には意義を申し立てません」
意義を申し立てませんか……。
生徒会長の声には、僅かながら挑発的な響きがあった。彼は一歩も引かず、第一皇子の権威を正面から受け止めている。その顔には、一見恭順の意を示しながらも、譲れない自らの信念が透けて見えた。
「意義を申し立てないだけだろう? 貴様は帝国を率いるべきは貴族だと言っている。この場では目をつむってやる。しかし、それは空虚な戯言だ。貴様らがいくら能力を持とうとそれは皇帝の力だ、貴様らが先に立つのは混乱を招く。国家の存続と繁栄、秩序の維持。個人の価値は国家という大きな枠組みの中で皇帝と言う絶対者を持って運用されるのが最も安定的で効率的だ。中央集権によってそれはなされる。貴様らが余計なことをする必要はない」
生徒会長の主張はこうだ、個人の能力とそれを持った貴族こそが優劣を決める……典型的な選民思想だ。彼らは自分たちの”才”こそが国を導くと信じて疑わない。だが、結局は”誰がトップに立つか”という主導権争いでしかない。皇子も生徒会長も、どちらも独善的な思想でしかない。皇子は神聖な血統と神聖な権力を、生徒会長は生まれ持った才を、価値基準としている。やはりどちらも個の可能性を限定し、特定の人間にしか道が開かれない閉鎖的なシステムだ。多様性を排除しかねない。
「では、仮に中央の力が損なわれた場合は? 帝国が一気に瓦解する可能性があります。我ら選ばれし貴族によって率いられていれば帝国は繁栄を続けられると思われますが? あくまで仮の話ですが」
仮にと誇張しつつも生徒会長の問いかけは、鋭利な刃のように皇子へと向けられる。それは、彼の「絶対」を揺るがす可能性をはらんでいる。
講堂の空気は再び凍りつき、新入生たちの間からは微かな息をのむ音が聞こえた。皆、この壮絶な口論の行方を固唾をのんで見守っている。
「フッ、仮に……か。もはやそれ自体が戯言だ。皇族の力が損なわれるなどありえない。私がそれを身をもって体現してやろう。貴様らが力を付けることは大いに結構。しかしその能力に慢心し、分をわきまえぬな? 帝国は我らが繫栄させる。貴様らは、ただ我らの剣となり盾となればよい」
なるほど。神聖な血統の権威を疑わない絶対的な自信。主席で入学したという時点で一定の説得力はある。
「ご高説どうもありがとうございました。しかし、その御言葉の通り、私たち貴族は帝国のために力を付けることに、一片の曇りもございません」
「そうか。今日の戯言は聞かなかったことにしてやる」
生徒会長は、一見丁寧な言葉遣いながらも、その瞳には依然として強い光を宿していた。
どちらも譲らないか。生徒会長は皇族という権威を認めながらも、自分たちが力を付け優位に立つことを狙っている。皇子も皇子で貴族たちの力を警戒しつつ絶対性の主張は譲らない。これが帝国の内情の一部か。互いに互いの正義を信じて疑わない。このままでは帝国内部から崩壊が始まる危険性がある。
父はこれを読んでいた? いや、こうなるように仕向けたのか?
どちらにしろ帝国が危うい状況に陥っているのは確かだ。
放っておいてもこのままでは内部分裂の阻止を外部に求めるかもしれない。
魔王領と言う共通の敵との戦争という手で解決を図る可能性は十分にあり得る。
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