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その名はマッド

時は遡り、カナティオ帝国 ヘッケナー男爵領


「ついに完成したぞ!」


そう声を上げるのはマクウェイド・フォン・ヘッケナーという男。彼が完成させたのは電球であった。


彼には適性魔法がないどころか、ほとんど魔法を使えない。ヘッケナー男爵家の長男に生まれながらも、落ちこぼれとして扱われるも、男爵である父の情けにより屋敷から追い出されることはなかった。


マクウェイドは貴族の長男に生まれながらも魔法が使えないことは運命だと割り切っており。彼の憧れる、伝説に登場する知恵の神”エルピー”のように知識を使って領地に貢献しようと考えていた。


そうして彼は知識を追い求め、数々の書物をあさり。知的好奇心を満たすため日夜研究に没頭していた。


そこで、ある時偶然にも電力の存在を発見するのであった。


「これは、魔法とは全く違う。これを使えば私のように魔法が使えない人を救うことができる。知識を追い求めた結果、偶然発見できたのもエルピー様の思し召しなのではないか?」


そう考えたマクウェイドは自身が憧れる神”エルピー”を崇拝するようになり。また、電力について研究を続けていくのであった。


しかし。


「マクウェイド! お前はもう、うちの人間ではない! 面倒を見るのはこれで最後だ。荷物をまとめて近いうちに屋敷から出ていけ!」


「そ、そんな。父上、この研究が成功すれば必ず領地の利益になるはずです!」


「それは何度も聞いた。だがお前がやったのはこのちっぽけな明かりを点けることだけではないか! こんなもの魔法を使えば誰にでもできる」


「それは電力です! 魔法とは全く異なるものなのです! この技術が発達すればもっといろいろなことに流用できるはず!」


「もうよい。わけのわからないものにお前は金を使いおって。魔法が使えないお前を今まで屋敷に置いてやったことを感謝しろ。だがもうこれまでだ、落ちこぼれはこのヘッケナー家にはいらん」


父を説得して、なんとか研究費用を得ていたマクウェイドであったが、大きな成果も出せず。ついに父から勘当されるのであった。



ーーーー



屋敷から追い出された私は残りの金で冒険者を雇い、魔王領に侵入していた。


「マクウェイドさん、俺たちが案内できるのはここまでです」


「なに!? 報酬は十分渡したはずだが?」


「報酬は一部お返しします。国境を越えるのに無茶をしたせいで仲間がケガを負いまして……一緒に引き返されるのであればその分の報酬はいただかないので。この辺にして帝国に帰りましょう……」


ここまで来たというのに引き返せるわけがないだろう。帝国に戻ったところで私の居場所などない。


「いや、私は引き返さない。報酬も全部くれてやる。代わりに食料と水。何か使えそうなものをもらっていく」


「一人で魔王領を進むなんて無茶ですよ! おとなしく引き返しましょう!」


「それは出来ない! 私は命を懸ける覚悟で来ているのだ! 物資を分けてくれ。何を言われても引き返すことはないからな」


冒険者一行が引き返すよう説得するのをだまらせて、本来の報酬を渡す代わりに多めに保存食と、小さなナイフと採掘用のピッケルをもらった。


「よし、行くか」


魔王領にある山脈には不思議な金属があると聞く。それを使えば今私が行き詰っている研究もきっと進むはずだ。


私が知識を追い求めて進み続ける限り。エルピー様の加護は私に応えてくれるはずだ。


そうして遠くに見える山脈を目指して何日も歩き続ける。途中何度も魔獣を見かけたが何とかやり過ごすことができた。


「エルピー様……。やはり私を見守って下さるのですね……」


ついに山脈の麓までたどりつくことができた。


が、しかしそこで魔族に見つかり連れていかれることになる。


「おまえ、この辺で見ない顔だな。まさか帝国の斥候じゃないだろうな?」


恰好からして帝国人と判断されたのだろう。魔族は野蛮だと聞く。私の知識の探求の旅もこれまでか……


「私は斥候などではありません。それにすでに帝国人でもありません。もうあの国には帰る場所などない」


「そうか。荷物を見せろ」


そういって私の荷物を漁っていく。入っているのはほとんど保存食だけだ。


「これはなんだ?」


そう言って突き出されたのは保存食である。


「それは私の食料です。どうぞ食べて下さい」


「これが食料? 食べろだと? 毒でも入れているのか? お前が食べてみろ」


そう言って保存食を渡してくる。かなり警戒されているようだ。しかし毒などもちろん入っていない。半分だけ食して渡す。


「どうやら毒は入ってないようだな」


そう言って魔族の男も一口かじる。少し驚いたような顔をしている。


「腐ってもなさそうだ。どうしてこんなに大量にある?」


「私はこの山脈を目指して旅をしていたのです……」


そうやっていくつか質問に答えている間も魔族の男は保存食をパクパクと食べていた。


「それがお気に召したのであればお譲りしましょう」


少しでも気に入られようと思いそう口にする。


「村に案内してやる。名前は?」


名前……私はもうフォンを冠することもヘッケナーを名乗ることもできない。落ちこぼれの私は好奇心のまま泥臭くあがく知識の探求者。


「私のことはマッドとお呼びください」


そうして私は魔族の村に連れていかれるのであった。


村に着いた私は数々の質問にあっていた。……保存食について。


どうやらこの村では食料の保存技術がないらしく、その日暮らしで獣や魔獣を狩っては数日で食べつくし。食料が手に入らないときは飢えながら生活をしているのだとか。


そんな状況を知った私は食料の保存技術について知識のすべてを教えることにしました。


そうして何週間経ったでしょうか? 私は魔族の村の一員として認められ、共に生活するようになっていました。


帝国で伝え聞く魔族の噂とはかけ離れて親切な人ばかりで、最初は恐怖していたものの今では普通に、いや帝国にいた時の肩身の狭い生活以上に充実した生活を送っていました。


しかし、本来の目的を果たすためにいつまでもここに留まっておくことは出来ません。村で生活をしながら不思議な金属について情報を集めていると。それはクロガネと呼ばれる鉱石らしく。この山脈を越えて反対側に鉱脈があるのだとか。


山越えの安全なルートを教えてもらい。旅立つことにしました。


「皆さん、良くしていただいてありがとうございました」


「本当に行くのか? あの辺は魔獣はいないが、クロガネ以外には何もないぞ? 人が暮らしていける場所じゃない。それにクロガネは固すぎて採掘なんてできないぞ?」


「それでも私は行きます。何か方法があるはずです」


そう、私にはエルピー様の加護がついているのだ。ここまで一人で来れたのが何よりの証拠である。


そうして教えられた安全なルートを通り、特に危険もなく山越えを果たし。ついにクロガネを見つけたのでした。


「ついに、見つけた!これを持ち帰って調べればまた一つ私の研究が進む!」


そうして持って来たピッケルでクロガネを採掘しようとするのですが全く歯が立ちません。


「やはり、無理ですか……」


何か方法はないのだろうか? 知識を総動員して考えよう。何か糸口があるはず。そうして目をつぶってしばらく考える。


「……なにも浮かばない」


とりあえず周りを散策してみましょう。もしかしたら持ち帰れる大きさの鉱石の塊が落ちている可能性もありますし。


そうして辺りを散策していると遠くに巨大な何かがあるのを見つける。


「あれはいったい何でしょうか?」


近づくほどにその異様さが分かる。危険かもしれないという思いはありながらも好奇心を止めることが出来ませんでした。


そばまで近づいてから気が付く。まるで巨人のようです。


全く動かないことから生きてはいないのだろうと思いその巨人に触れる。


ガンッガンッ


「この材質はなんでしょうか、かなり頑丈なようです」


ガンッガンッガンッ


「ピッケルで叩いてもビクともしません。これはいったい?」


それからあれやこれやと一人で呟きながら考察を巡らせていました。


すると。


『解析完了lp』




これが私の崇拝するエルピー様との出会いの始まりなのでした。


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