外伝:ジークハルト 学園編5
「え!?」
「……え?」
「今なんと?」
…俺は今何か……?…?…!
「い、いや違う! 隙だ! お前の隙を見つけた! 今ならばお前など秒殺だ!」
「は、はぁ……? 私の隙?」
「そ、そうだ、今のお前は隙だらけだ!」
「……? 確かに今の私は魔力も尽きかけていますし、身体的にダメージも大きいです。ですがそれは隙というのでしょうか?」
「う、うるさい。俺が隙だと言えばそれはその…す、隙だ……。それよりもそうだ! 大丈夫なのか? 傷は?」
キサラの言う通りダメージも大きそうだ。ここまで一人で辿りついたのも相当な無理をしてきたのだろう。
「私を気遣ってくださるんですか?」
こいつ、さっきからなんだ? このにやけた面は。
「当たり前だろう? お前は俺が守るべき対象だ」
「え!?」
「ん? おかしなことを言ったか?」
「もしかしてジークハルト様は私の事……」
「はぁ? 何を勘違いしている! 俺がお前のことを好きなわけがっ…」
「まだ何も言ってませんよ? ジークハルト様は私のことを貴族が守るべき対象。帝国を成す要素の一つとして見て下さっているんですよね?」
「……そ、そうだ。わかっているならそれでいい」
「ふふふっ… はーい」
くそ、調子が狂う。
「なんだ、思ったより元気そうだな」
「ええ、少しだけ回復した気がします。でも、……傷は見た目ほどひどくはないですが、魔力の枯渇は少し問題ですね。高威力の魔法を出現させるのは無理そうです、魔素に干渉する最低限の魔力量が足りません」
「そうか、少し休むか。道を戻って手ごろな場所を探すぞ」
「進まないんですか?」
「俺一人なら進みながらでも安全確保は出来るだろう。お前という足手まといがいるから、すでに魔獣を倒している道に戻って安全を確保した方が楽だ」
「意外と優しいんですね」
「は? どうしたらそういうことになる?」
「今のはなんでもないですよ。早く足手まといを安全な場所に案内してください」
「さっきからそのにやけ面をやめろ」
「ふふふ…」
「くそっ……もういい」
俺とキサラは元来た道を戻る。案の定、魔獣の姿はなく一時的ではあるが安全を確保できた。
「ジークハルト様はどうやって私の場所に気付いたんですか?」
「簡単だ。お前の思考を読んだだけだ」
「へぇ~。じゃあ今の私の思考を読んで下さい」
「それになんの意味がある?」
「ほんとに思考が読めるのかなと」
「……今はむりだ」
「ふ~ん…」
「やめろと言っただろ!」
相変わらずこいつはニヤニヤと。前から気に食わないとは思っていたが、今は俺の心をかき乱してくる。
……そうか!
「お前、精神操作系の魔法でも覚えたのか?」
「はい?」
「そうだろ? 隠しても無駄だ。もう見破ったぞ」
「いえ、私は風属性の適性しか持っていません。風属性に精神に作用する魔法があるのですか? 私は存じ上げませんが……」
「た、たしかに……」
「精神操作を受けていると思われる何かが?」
「ああ、そうでないとおかしい」
「なにがです?」
「その、なんだ…… いや、お前が使ってないならそれでいい。気のせいだろう」
「……ん?」
「もういいこの話は忘れろ! それよりお前の魔法。あんな使い方もできるんだな」
「エアスラッシュですか? あれは威力が高いし普段は使う機会がありません。それに魔力消費も激しいですし」
「だったら俺のハイドロスラッシュの勝ちだな! 威力はお前の魔法と変わらないが魔力消費はそこまで激しくない!」
「私の得意とする魔法ではありませんので」
「な、負けを認めろ!」
「その魔法単体では負けを認めてもいいでしょう」
「だったらお前の得意な魔法は?」
「最も得意なのは周囲の風の流れを利用する魔法ですかね。エアセンスやエアグライドなどの補助系か、エアロ・バインドのような妨害系。どちらかというと繊細な魔法が得意ですかね」
「あの魔法は? 決闘の時に使った俺の魔法をすべて押しのけた」
「エアロ・リパルジョンですね。あれは高威力ですが魔力消費が高すぎます。連発は出来ません」
「なるほど……」
「もしかして劣等感を抱いてますか? 私の魔法が強いから」
「ほざけ」
「大丈夫ですよ? ジークハルト様の水属性魔法も強いですから」
「そんなことはお前に言われなくとも知っている。それよりも早く休め」
下らない会話に体力を割いている余裕はない。
そうして一時間ほど休んだころ……
ズシン…ズシン…
「なんだ!?」
突然地面が揺れだした! 何か大きなものが動いているような感覚がする。
「な、なんでしょう。何か近づいてくるような!」
揺れが激しくなる。
「ともかく移動するぞ!」
俺とキサラは立ち上がり、移動を開始する。
「魔力は回復したか?」
「ええ、少しは」
「エアロ・リパルジョンは使えるか?」
「魔力を温存すれば一度だけ……」
「わかった。俺の後ろに隠れていろ。基本的に相手は俺がする! 相手は巨大な魔獣と想定する。お前の魔法は切り札だ。魔力は温存しておけ」
「はい」
くそ、遭遇は免れそうにないな……
振動は激しくなり、すぐ側まで迫っていることが分かる。
「ここで迎え撃つ。逃げるのは体力の無駄だ」
「そうですね」
グギャーオォ!!
つんざくような雄たけびを上げて姿を現したのは石のような鱗で全身を包んだ巨体。ストーンリザードの親玉といったところか?
「ストーンレックス!?」
「知っているのか?」
「この階層の頂点にあたる魔獣です。ストーンリザードを引き連れて階層を徘徊しています。遭遇確立は低いはずですが……運が悪かったみたいですね……」
「ストーンリザードばかりだったのはこういうことか」
「ハイドロスラッシュ!」
ズシャ!
俺が放った魔法は魔獣の表面を切り割いた、が致命傷にはならない。
ブオン…
ストーンレックスが回転して尻尾を薙ぎ払う。
俺は後ろに飛びのいてそれを躱す。と同時に再びハイドロスラッシュを放つ。
「くそ! これではジリ貧だ」
「エアグライド」
キサラの唱えた魔法により俺の身体が軽くなったのを感じる。
「これは?」
「あなたの周囲に風の幕を張りました。他人への使用は効果時間が短いですが俊敏性が増します」
「わかった。もういいお前は魔力を温存して下がっておけ、俺が何とかあいつを足止めするから」
「その隙にエアロ・リパルジョンですね」
「あぁ。どれだけ通用するかわからないがな」
グギャーオ!
再び雄たけびを上げ、今度は突進してくる。
俺はあえて走り出し、底上げされたスピードで魔獣の足元を掻い潜り、防御が薄いと思われる腹部に二発。発達した両後ろ脚にそれぞれ一発ずつ。計四発のハイドロスラッシュを連続で放つ。
ギャーオォ…
「だめか?」
「ジーク! 危ない!」
ヒュッ… ズドオォン!
振り下ろされた尻尾を間一髪で回避する。キサラの言葉と彼女の補助魔法が無ければ潰されていた。
「こいつ……!」
続けざまにもう一発。
ズドオォン!
なんとか回避はしたもののこいつを一人で倒すのは至難の業だ。
再び尻尾を薙ぎ払い、続けて牙が襲い掛かる。
巨体の割に素早い、攻撃の連携も効率的でまるで隙が無い……
「はぁはぁ……」
回避に専念するが攻撃を当てれないんじゃ埒が明かない。
「くそっ……」
キサラの補助魔法も切れた。
「ジーク! 私も!」
「まだだ!」
一度魔獣と距離を離す。
あちらも次の俺の動きをうかがっているようだ。
「はぁ…来いよ……ッ どうせ突進だろ?」
俺は構えをといてわざと隙を見せる。
グギャーオ!
「フッ…所詮は脳のない魔獣風情か」
予想通り突進してくる。
ギリギリまで引き付け……
「ウォータージェット!」
ゴゴゴゴ……ズザアァァ……
水流に流されてストーンレックスは地面に倒れる。
「キサラ!」
「エアロ・リパルジョン!」
グギャーオォォォ!!
突風がストーンレックスを襲う。広範囲に及ぶ風の壁に押され、無数の傷が浮かびあがる。
なんて魔法だ……抗いようのない風、さらにその内側は石のような鱗をも切り裂く無数の刃。俺もあれをまともに受けていたら死んでいたな。
「よくやったキサラ。上の階層へ上がる……」
ブオン…!
「かはっ!」
「ジーク!!」
ガララ……
なん…だ?
グギャーオ!
くそ……あいつの尻尾の薙ぎ払いをまともに食らってしまった。
壁に叩きつけられて肺の空気が全て抜け出した……
呼吸ができない
「ジーク!」
「……キサ…ラ。逃げろ」
そこで意識が途切れる……
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